日本の長期金利は年末に向け0.10~0.15%に切り上がる
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日本の長期金利は年末に向け0.10~0.15%に切り上がる

バークレイズ証券 チーフ債券ストラテジスト / 海老原 慎司
週刊金融財政事情 2021年7月13日号

 日本銀行が3月の金融政策決定会合で政策点検を行った後、円金利市場のボラティリティーは低下基調を強めた。日銀の政策運営を巡る不透明感が後退したことや、景気・物価の下振れリスクが高まる中で日銀がハト派的な政策姿勢を強めたことなどが理由だ。その過程では、イールドカーブ上で相対的にインカムゲインが得られ、保有期間長期化による価格上昇効果が大きい10~20年ゾーンを中心に投資需要が高まったことで金利低下が進んだ。

 今後も円金利は低位安定する見込みだ。黒田東彦日銀総裁は2%の物価安定目標の達成に強気な一方、自身の任期(2023年4月8日)内での達成にはこだわらない見解を示している。このため、市場では長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%とする現行のイールドカーブ・コントロール政策が黒田総裁の任期を越えても続くとの見方が支配的である。実際、足元の市場では「2年先10年金利」が0.25%以下の水準で推移し、「3年先10年金利」も0.25%近傍で推移している(図表)。

 しかし、経済活動の正常化が進むとの見方が強まれば、日銀はこれまでのハト派的な政策スタンスを後退させる可能性が高まる。黒田総裁は6月の金融政策決定会合後の会見で、国内でもワクチン接種の進捗が見られるなか、景気の先行きの明るさに言及した。また日銀は、以前は毎月公表していた国債買い入れ金額を、7月から四半期に1回の公表に見直すこととした。債券市場の機能度や流動性への配慮が主因とはいえ、今回の対応はテーパリングに向けた一歩と受け止められる。

 衆議院の解散と補正予算編成が、円金利を押し上げる方向に作用する可能性もある。秋の衆院選を前に、野党が消費減税を含む大規模な経済対策を訴えているため、与党も選挙公約で大型の財政出動を打ち出す可能性が一段と高まる。昨年度予算からの繰り越しや税収の上振れに伴う剰余金が将来の国債発行の抑制に使われず、今年度の補正予算編成で目先の経済対策に使われることになれば、市場は将来の国債の市中消化に対する懸念を強めるかもしれない。もともと、経済活動が正常化に向かう中での積極的な財政拡張は、イールドカーブの傾きを急にする効果がある(ベア・スティープ化)。

 向こう数カ月を展望すれば、国内での財政・金融政策面での不確実性が高まる展開が見込まれる。この場合、長期・超長期ゾーンを中心に金利のボラティリティーは高まりやすく、投資家はそれに見合ったリスク・プレミアムを求めるだろう。長期金利は本稿執筆時点で0.05%を下回って推移しているが、年末に向けて0.10~0.15%へレンジを切り上げる展開を予想している。

日本の長期金利は年末に向け0.10~0.15%に切り上がる
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(提供:きんざいOnlineより)