日本の経営者の役員報酬ランキングを眺めてみると、あることに気付く。日本を代表する企業であるトヨタ自動車の豊田章男社長の役員報酬が他と比べて意外と少ないことだ。世界が注目する投資会社となったソフトバンクグループの孫正義会長の役員報酬も実は他の経営者に比べれば少ないと聞くと驚く方もいるだろう。一体なぜなのだろうか。
役員報酬とは?給与とどう違う?
この記事では最新の役員報酬ランキングを紹介していくが、その前に「給与」と「役員報酬」の違いについて説明しておきたい。
「役員報酬」とは、取締役や執行役、監査役などに対する報酬のことを指す。企業ごとに役員報酬に関するルールが設けられており、実際に各役員に支払われる報酬額は株主総会で承認を得る必要がある。
一方で「給与」は、雇用されている従業員に対して支払われる労働の対価だ。つまり、経営者の報酬は労働の対価ではないため、どれくらい報酬をもらっているかをランキング化する場合、「役員報酬」を比較することになる。「経営者の給与ランキング」はあり得ないので、念頭に置いておこう。
日本企業における役員報酬ランキングTOP1〜20
では早速、日本企業における役員報酬ランキングを紹介していこう。
民間調査会社の東京商工リサーチは2021年6月、報酬1億円以上の役員の個別開示を行った2021年3月期決算の上場企業を調べた結果を公表し、ランキングとして紹介している。まずこのランキングからTOP10を紹介する。
<日本の上場企業の役員報酬ランキングTOP1〜10>
このTOP10のランキングを見て何かを感じないだろうか。日本の代表する経営者とも言えるトヨタ自動車の豊田章男氏の名前も、ソフトバンクグループを率いる孫正義氏の名前もないのだ。では、続いてTOP11~20を見ていこう。2人の名前はあるだろうか。
<日本の上場企業の役員報酬ランキングTOP11〜20>
やっと19位に豊田氏の名前が出てきた。報酬額は4億4,200万円で、首位のサイモン・シガース氏の4分の1以下にとどまる。ちなみに、孫氏はTOP20に入っておらず、ソフトバンクグループの2021年3月期の有価証券報告書によれば、報酬額は1億円となっている。
なぜ日本人経営者の役員報酬は少ないの?
役員報酬の上位にランクインしているのは、外国人経営者が多い印象を受けるだろう。役員報酬の決め方は企業によって異なるため一概には言えないが、日本企業では1人が飛び抜けて高い報酬を受け取ると、社内で抵抗感が生まれやすい。これは、日本独特の企業文化と言える。
一方で欧米など海外では、報酬額がずば抜けて高くても、スキルや成果に見合った額であれば抵抗感を持たれにくい。ただし、日本よりもはるかに厳しく成果を上げることが求められ、報酬に見合った成果を出せなければすぐに役員を解任されてしまうこともある。
ただし、経営者の実質的な報酬は役員報酬だけでは判断しにくい点もある。経営者としてその企業の株式を多数保有していれば、株の値上がりによって自らの資産が大きく増えることになるからだ。このような視点も持つようにしておきたい。
この機会に有価証券報告書を読んでみては?
もし、上場企業の役員報酬に興味を持ったのであれば、毎年各社が公表している「有価証券報告書」を読んでみてはいかがだろうか。「役員の報酬等」という箇所で役員報酬についての記載がある。報酬が意外と高い社長、報酬が意外と低い社長を見つけられるかもしれない。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)