富裕層のバランスシートを最も毀損するライフイベントのひとつが「相続」だ。そのため、ほとんどの富裕層にとって相続対策は大きな関心であり、同時に課題となる。今回は、富裕層の相続対策にスポットを当てて、全3回の特集をお届けする。

超富裕層が行う相続税対策「公益財団法人設立」と「海外移住」
(画像=PIXTA、ZUU online)

上場会社オーナーの十八番「公益財団法人の設立」

第2回は富裕層の相続税対策について、いくつかの方法を解説した。しかし、第2回で述べた方法はいわば「富裕層界の一般的なもの」であり、純資産数十億円、数百億円の超富裕層の場合は、もっとドラスティックな対策が必要だ。今回は、超富裕層が行う「公益財団法人設立」と「海外移住」について見ていこう。

まずは公益財団法人だ。上場会社の大株主欄を眺めていると、ときおり公益財団法人が大株主になっている会社が存在する。その公益財団法人は明らかに創業者が作ったであろうもの(例えば、山田商事の筆頭株主が公益財団法人山田育英会になっているなど。左記は架空の例)の場合、十中八九、上場会社オーナー一族による相続税対策だろう。

公益法人とは、公益の増進を図ることを目的として、法人の設立理念に則って活動する民間の法人のことだ。公益法人には、志ある人の集まりである「公益社団法人」と、財産の集まりである「公益財団法人」がある。

公益法人は「新しい公共」を担う最有力な非営利の法人として、税制上手厚い支援措置が設けられている。超富裕層の相続税対策に活用されるのは、主に「寄付にした財産は相続税の対象外となる」という部分だ。特に、上場会社オーナーがこの方法を活用することが多い。上場会社オーナーの場合、資産のほとんどが自社株であり、そのままでは納税資金が用意できず、自社株を売却して現金を工面する必要があるためだ。

先程の架空の例で言うと、山田商事の創業オーナーである山田氏が公益財団法人山田育英会を設立し、山田商事の株式を個人から財団へ100億円を寄付するイメージだ。通常であれば、寄付であっても譲渡所得税(みなし譲渡所得税)が課せられるが(所得税法59)、財団へ寄付する場合は、国税庁長官の承認を受けることにより、みなし譲渡所得税が非課税となる措置が講じられている(租税特別措置法40①)。

創業者が持つ株式は、簿価が非常に低いため、保有額のほとんどが含み益であることが多い。そのため、約20%の課税であっても大変な金額になる。しかし、財団へ寄付することで、山田ファミリーの資産は全く毀損しないというわけだ。さらに、創業者の山田氏の相続財産を100億円分少なくすることができた。

加えて、財団法人が保有する山田商事の株式100億円には相続税がかからない。公益財団法人は高い中立性や公平性が求められるため、山田ファミリーが必ずしも公益財団法人山田育英会を自由に運営できるわけではないが、そこをクリアできれば、財団法人に資産を寄付することで、高額な相続税を免れることができるというわけだ。

念のため補足すると、公益財団法人を個人の租税回避のためだけに利用されることは許されない。あくまでも社会の公器として、世のため人のために活動することが大前提だ。

相続税節税だけを目的にした移住の理由はしないほうがいい?

公益財団法人設立に加えて、超富裕層の間で行われている相続税対策が「海外移住」だ。シンガポールやマレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなどには相続税がないことを知っている読者も多いだろう。

日本に相続すれば最高税率の55%、かたやゼロ%。このように税率を比べれば、海外移住のコストを差し引いても十分におつりが来ることが想像できる。ただ、移住によって移住先の税率が適用されるためには、親(被相続人)と子供(相続人)の両方が、移住してから10年以上が経過している必要がある。移住して10年未満に相続が発生した場合は、日本の相続税が課税されてしまう。

このスキームの最大の問題点は、上記の「10年以上」が国税庁によって延長されてしまうリスクがあることだ。実は、以前は10年ではなく5年だったが、平成29年度税制改正大綱で10年に延長されてしまった。今後、これが15年や20年に延長される可能性はなくはない。

平成29年度税制改正時においても、「もうすぐ5年だ」と首を長くして待っていた海外の日本富裕層が頭を抱え、観念して帰国した人が増えたというニュースは記憶に新しい。「税金だけを移住の理由にしないほうがいい。税金という経済合理性だけで住む場所を決められるほど、人間は現金な生き物ではないということだろう」(独立系プライベートバンカー)という言葉は傾聴に値するだろう。

富裕層の課税強化が予想される「相続税と贈与税の一体化」議論

本特集の最後に、直近の税制改正で話題になった「相続税と贈与税の一体化」議論について述べておこう。2020年12月に与党(自由民主党と公明党の連名)が発表した「令和3年度の税制改正大綱」には、「相続税と贈与税の一体化に向けて議論を開始する」と明記された。これは、富裕層の相続税対策にどのような影響を与えるのだろうか。

まず大前提として、「議論を始める」と明記されただけで、何かが改正されたわけではない。改正時期が決まったわけでもない。しかしながら、ここに明記されたということは、今後はその方向に改正がなされる可能性が高いと見るのが自然だ。

税制改正大綱には「わが国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある」と書かれている。また、「諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている」とも書かれている。

今の税制では、相続開始前3年以内に、相続人が被相続人から贈与を受けたときは、その相続税の課税価格に加算するというルールとなっている。税制改正大綱に記載された文面だけでは、詳細の改正内容を正確に予想するのは難しいが、各専門家の意見を集めると、「生前贈与による相続税対策に規制がかかり、富裕層から見ると増税改正となる」という予想が多いようだ。

税金は取れるところ(富裕層)から取る

ここまで全3回に渡って、富裕層の相続税対策について見てきた。マス層から見れば、「相続税を支払った後でも十分な資産があるのだから、素直に払えばいいじゃないか」と思うかもしれない。しかし人間は、一度手に入れたものを失うことに大きな恐怖や嫌悪感を抱くものだ。

少子高齢化が進み、社会保障費が年々逼迫するなかにおいて、少しでも多く税収が欲しい国からすれば、「税金は取れるところ(富裕層)から取る」という方針は当然の帰結と言えるだろう。今後も富裕層を狙った増税が予想される。

富裕層の皆さんにおいては、自らの情報感度を高めるとともに、資産税に詳しい税理士などの専門家とタッグを組んで、合法的な対策を施して頂きたい。

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