米長期金利の「本格的な低下局面」は来年か
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米長期金利の「本格的な低下局面」は来年か

SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト / 森田 長太郎
週刊金融財政事情 2021年8月17日号

 米長期金利は6月以降、段階的に水準を切り下げ、10年債金利は8月上旬時点で一時1.2%を割り込んだ。1.8%弱に達していた3月末からすでに50bp以上の低下が生じたことになる。6月後半に金利低下が明確になり始めたときは、30年債など長い年限の金利が短期間に劇的に低下したが、その背景には、イールドカーブのスティープ化を狙った投機的なポジションを巻き戻す動きがあったとされる。しかし、その後も長期金利が緩やかに低下を続けていることからすると、幅広い債券投資家が、それまでの米債投資への慎重なスタンスを修正し、債券ポジションの積み増しに動いているとみられる。

 感覚的な言い方ではあるが、3月末以降に米長期金利が低下した部分のうち、7~8割は広い意味での「ポジション調整」、すなわち需給的な要因によるものだと思われる。しかし、それ以外のファンダメンタルズ的な要因がゼロかというと、そうとも言い切れない。残る2~3割に、「新型コロナのデルタ株感染拡大による景気回復ペースの鈍化」が含まれることも確かだろう。実際、米国のサービス業の景況感を示す購買担当者景況指数(PMI)は、6~7月の2カ月間で累計10.6ポイントも低下している。

 ただし、こうしたコロナ危機後の経済活動再開が期待される局面では、米景気指標の見方に注意が必要である。というのも、サービス業PMIの低下は、過去のピーク水準を10ポイント近く上回る高水準に達した後の急落であり、急落後も過去のピークとほぼ同水準だということである。米国経済の現状は、あくまでも「高過ぎる水準からの鈍化」であって、長期金利も、3月に付けた1.8%弱の水準が高過ぎた、という解釈が成り立つかもしれない。

 一方で、経済活動再開に伴う高成長が永遠に続くわけではないことも確かである。代表的な景気の先行指数であるISM製造業指数と米10年債金利の関係を見ると、両者のピークは一致するケースが多い(図表)。

 しかし、好況期にISM指数が長期間とどまる局面では、長期金利が本格的に低下し始めるのは、ISM指数のピーク時点ではなく、「高原状態」が終了するタイミングになる。ISM指数は実質GDP成長率に連動するとされるが、米国7~9月期の成長率は潜在成長率(2%程度)を4~5%ポイントも上回る水準になると一般的には予想されている。四半期成長率が3%程度まで落ちれば、「高原状態」の終了サインといえるが、そのタイミングは、今年末あるいは来年になろう。それまでは、米長期金利もまだ「本格的な低下局面」には入らない可能性が高い。

米長期金利の「本格的な低下局面」は来年か
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(提供:きんざいOnlineより)