新型コロナの雇用への悪影響は3大都市圏で顕著
(総務省「労働力調査」ほか)
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 副主任研究員 / 村瀬 拓人
週刊金融財政事情 2021年8月17日号
コロナ禍が長期化するなか、わが国の景気は大きく落ち込んだものの、これまでのところ雇用情勢の悪化は限定的である。総務省「労働力調査」によると、全国平均の2021年4~6月期の失業率(季節調整値)は2.9%となった。コロナ前の19年10~12月期(2.3%)に比べやや上昇したが、リーマンショック後のピークである09年7~9月期(5.4%)を大きく下回っている。
もっとも、新型コロナの感染状況に地域差が大きいことを踏まえると、雇用情勢の悪化度合いにも地域差が生じている可能性がある。労働力調査では、標本規模が小さいことなどから都道府県レベルの単純集計値は公表されていないものの、安定的な結果が得られるように統計的手法を用いて算出した参考系列(モデル推計値)が公表されている。
この参考系列で20年度の失業率を確認すると、都道府県レベルでも失業率の急上昇は見られないものの、佐賀県のように19年度から失業率が小幅低下する県がある一方、神奈川県は1%ポイント近く上昇するなど、雇用情勢の悪化度合いにはバラツキがある。総じて見れば、地方圏に比べ大都市圏で失業率の上昇が目立ち、東京都・大阪府・愛知県とその周辺府県を合わせた3大都市圏では、20年度の失業率が前年度に比べ0.8%ポイント上昇(2.2%→3.0%)しており、地方圏(2.2%→2.6%)の上昇幅を上回っている(図表)。
こうした3大都市圏での雇用情勢の悪化は、求人と求職の動向を調査した厚生労働省「一般職業紹介状況」でも確認できる。20年度の有効求人倍率(有効求人数÷有効求職者数)を3大都市圏と地方圏で比較すると、3大都市圏は1.08倍と前年度から0.54ポイント低下し、17年ぶりに地方圏(1.12倍)を下回った。
3大都市圏で雇用情勢の悪化が目立つ背景として、地方圏に比べ消費活動の落ち込みが大きいことを指摘できる。実際、内閣府「地域別消費総合指数」などをもとに試算すると、20年度の3大都市圏の消費は前年度比▲10.0%と、地方圏の減少率(同▲6.8%)を上回った。新型コロナの感染拡大が大都市圏で目立つことや、感染リスクが高いとされる外食などのサービス消費の割合が大きいことが、3大都市圏の消費を相対的に冷え込ませ、雇用情勢にも悪影響を与えたかたちである。
足元では、再び都市部で新型コロナの感染拡大が顕著となっており、3大都市圏の雇用情勢が一段と悪化する可能性がある。政府には、こうした都道府県レベルの統計指標を活用しながら新型コロナの雇用への影響を的確に把握し、地域ごとの雇用情勢に即したきめ細かい対策の実施が求められる。
(提供:きんざいOnlineより)