雇用のミスマッチが強い状況はコロナ以前から継続
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雇用のミスマッチが強い状況はコロナ以前から継続

(厚労省「一般職業紹介状況」)

日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 副主任研究員 / 村瀬 拓人
週刊金融財政事情 2021年8月24日号

 ハローワーク(公共職業安定所)における求人・求職の動向を調査した厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、2020年度に企業が募集した新規求人数は、前年度に比べ2割減少した。これは、新型コロナの影響が大きかった宿泊業や飲食サービス業などで求人が大きく減少したほか、その他の業種でも、感染リスクを懸念し採用活動を控える企業が見られたためである。求人の減少を受け、有効求人倍率(有効求人数÷有効求職者数)も、前年度の1.55倍から1.10倍へと大きく低下した。

 もっとも、職業別に見ると、有効求人倍率の水準には大きなバラツキがある。例えば、一般事務(0.29倍)や事務用機器操作(0.36倍)など1倍を大きく下回る職業がある一方、保安(6.31倍)、建設・採掘(5.01倍)、介護関係(3.86倍)などは大幅な求人超過が続いている。これら構造的な人手不足に直面している職業では求人意欲が引き続き強い。

 職業間の有効求人倍率のバラツキは、求人側と求職側のニーズの不一致(雇用のミスマッチ)が大きいことを表している。各職業の求人数と求職者数をもとに、雇用のミスマッチの度合いを示す「職業間ミスマッチ指標」を算出すると、20年度は前年度に比べやや低下したものの、依然として高水準にあり、コロナ禍でもミスマッチが強い状況が続いていることが分かる(図表)。

 雇用のミスマッチが生じている中で懸念されるのが、失業期間の長期化だ。求人意欲が強い業種・職種は、専門性や高いスキルを必要とする場合が多い。そのため、新型コロナの影響が大きい宿泊・飲食サービス業や個人向けサービス業に従事している者が直ちに職を移るのは難しい。実際、20年度の就職率(就職件数÷新規求職申込件数)は26.5%と、リーマンショック直後(09年度=26.1%)に近い低水準にある。職種によっては求人が比較的豊富に存在するものの、一度職を失うと再就職が困難な様子が見て取れる。

 こうした状況を踏まえると、政府は、雇用調整助成金の特例措置の延長といった雇用を維持するための政策だけでなく、失業者の再就職支援や職業訓練・能力開発など、労働移動を円滑に進めるための施策にも注力する必要がある。

 すでに民間側では、異なる業種・職種間の求人と人材をマッチングさせる事業に力を入れる企業が出てきている。人材派遣大手が、人材の流動化をビジネスチャンスと捉え、新型コロナの影響が大きい外食業や観光業から出向者を受け入れ、人手が足りない業種へその人材を派遣するといった取り組みである。政府がこうした民間企業の取り組みを支援していくことも一案である。

雇用のミスマッチが強い状況はコロナ以前から継続
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(提供:きんざいOnlineより)