雇調金頼みから脱却し、労働移動の促進を
(厚労省「雇用調整助成金支給実績」)
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員 / 小方 尚子美
週刊金融財政事情 2021年8月31日号
コロナ禍に見舞われた日本の2020年度の実質GDP成長率は、前年度比▲4.6%とリーマンショック時(08年度)の▲3.6%を超えるマイナスとなった。一方、失業率は3%前後で一進一退を続けており、リーマンショック後の5%台に比べると悪化が限定的となっている。
この背景としては、コロナ前から人手不足が深刻化していたことが根底にある。そのため、コロナ禍で打撃を受けた産業から、成長を続ける通販関連・医療福祉・情報通信などの産業へ雇用が比較的円滑にシフトした側面もある。
ただ、業況が悪化した企業でも中長期的な人手不足に備えて、雇用維持を図るケースが多いことは見逃せない。企業が雇用を維持する支えとなっているのが、雇用調整助成金(雇調金)である。雇調金については、コロナ禍の影響を踏まえた特例措置として、支給要件の大幅な緩和や上限額の引き上げなどが実施されている。
雇調金の支給実績を見ると、全国に最初の緊急事態宣言が発出された昨春から休業者の増加に伴い申請が急増し、支給決定額は、秋口にかけて週1,000億円を超えるペースで推移した(図表)。申請と支給手続きが一段落した昨年末以降も週600億円前後で推移し、昨年4月から今年8月までの支給累計額は4兆円超に達している。リーマンショック後の09年度、10年度合計の支給実績9,780億円と比べると、すでに4倍以上の規模である。
内閣府は、リーマンショック時の雇調金の効果として、09年後半の失業者数を30万~70万人、失業率にして0.5~1.0ポイント程度抑制したと試算している。これをもとに一定の前提を置いた上で足元の状況を分析すると、雇調金は今年7月の失業率を1.2~2.5ポイント押し下げているとみられる。今年6月の失業率は2.9%であり、雇調金がなければ失業率はリーマンショック後並みの5%台に達していた可能性がある。
雇調金の特例措置は、感染収束に伴い、順次縮小される方針が示されていた。しかし、緊急事態宣言などの活動制限策が相次いで発出される中で、その期限が繰り返し延長され、今年7月にも、9月末とされていた期限が年末まで延長された。延長の理由として、今年度の最低賃金引き上げの目安が過去最大の時給28円となり、企業の負担が増すことが挙げられた。当面、雇調金頼みの構図が続く見込みである。
雇調金は、労働移動を抑制し、産業構造の変化を妨げる側面もある。雇用保険財政の健全化に加え、労働移動を促す観点からも、雇調金依存からの脱却が急がれよう。
(提供:きんざいOnlineより)