大阪・関西万博の開催まで約3年半−−。過去の万博を振り返ると、次の時代のスタンダードとなる技術や商品が提示されているケースが目立ちます。

また、「EXPO for SDGs」を掲げる大阪・関西万博では、SDGs達成に貢献する技術や価値観の提案が期待されますが、その内容が明らかになりつつあります。ここではそのなかから、厳選したプロジェクト5選をご紹介します。

大阪・関西万博では「SDGs達成への貢献」を目指す

「EXPO for SDGs」大阪・関西万博のSDGsに貢献するプロジェクト5選
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

大阪・関西万博の準備・運営を担当する「2025年日本国際博覧会協会」では、今回の万博が目指すものとして「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」を掲げています。同協会が示す下記の一文が、大阪・関西万博がいかにSDGsを重視しているかを表します。

2025年に開催される大阪・関西万博は、SDGsを2030年までに達成するためのプラットフォームになります。
引用:2025年日本国際博覧会協会 公式サイト「開催目的」

では、大阪・関西万博はどのようにして「SDGs達成への貢献」を実現していくのでしょうか。この点について同協会では、日本の国家戦略「Society5.0(ソサエティ5.0)」が鍵となるとしています。「Society5.0」とは、これまで人類が歩んできた工業社会や情報社会の先にある、経済発展と社会的課題の解決を両立する「人間中心の社会」です。

「Society5.0」は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって「人間中心の社会」の実現を目指します。さらにいうと、下記に列記された技術によって地球規模の課題が解決される社会(=SDGsが達成された社会)が「Society5.0」といえます。

  • IoT(モノのインターネット)
  • AI(人工知能)
  • ロボティクス
  • ビッグデータ
  • バイオテクノロジー

以上の内容を踏まえると、大阪・関西万博が成功したか否かのポイントは、日本が総力を挙げて「Society5.0」に沿ってSDGs達成のための技術や価値観を「どれくらい世界に発信し、インパクトを残せたか」になるでしょう。

開催まで約3年半となった今、大阪・関西万博で提案される「SDGsの達成に貢献する技術や価値観がどのようなものか」その内容が徐々に明らかになってきました。その一端を垣間見てみましょう。

EXPO for SDGs.1「会場の温暖化ガス排出量実質ゼロ」

SDGsの達成といえば、温暖化ガス排出を減らす取り組みが欠かせません。大阪・関西万博では会場全体の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(プロジェクト名:EXPO2025グリーンビジョン)」を進めています。

「温暖化ガス排出量をゼロにする」と言葉でいうのは簡単ですが、大阪・関西万博が開催されるのは4〜10月であり、猛暑の日もかなりあります。しかも、来場者約2,820万人を見込む大規模イベントです。このような環境下でカーボンゼロを実現するのは容易ではありませんが、達成できれば温暖化に立ち向かう世界にインパクトを与えられます。

この「EXPO2025グリーンビジョン」は具体的にどのような計画なのでしょうか。2021年6月、日本国際博覧会協会が報告した中間とりまとめでは、水素やアンモニアによる発電、二酸化炭素と水素でメタンを生成する仕組みなど約20の技術がリストアップされています。同協会では今後、協議会を立ち上げて実務的な検討に入っていくとしています。

EXPO for SDGs.2「会場周辺で運行する空飛ぶ車構想」

大阪・関西万博では、環境負荷の少ない新しい技術を使ったモビリティを通してNo.7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に貢献します。そのなかの1つのプロジェクトが、万博会場周辺の大阪ベイエリアで運行を目指すエアタクシーサービス、いわゆる「空飛ぶ車構想」です。

この空飛ぶ車の実現を目指しているのが、大林組や関西電力ほか3社が連携して立ち上げた「空飛ぶクルマによるエアタクシー事業性調査」です。このプロジェクトは5社それぞれが得意分野を生かし、空飛ぶ車(エアタクシー)の実現を進めていく枠組みです。

例えば、参加企業の1社であるベンチャー企業・skydriveは、空飛ぶ車や物流ドローンの機体開発メーカーとして、モビリティの手配や飛行のオペレーションを担当します。また、近鉄グループホールディングスは、空飛ぶ車のサービスモデルや周辺施設との連携の検討を進めていくといった具合です。

なお、このプロジェクトは大阪府の「空飛ぶクルマの実現に向けた実証実験」に採択されています。自治体のバックアップのもと、空飛ぶ車のプロジェクトが進んでいます。

EXPO for SDGs.3「最先端の医療技術を体験できるパビリオン」

SDGsの17の目標のNo.3「すべての人に健康と福祉を」に対応するのが、再生医療やAIによる診療など最先端の医療を体験できる「大阪パビリオン」。これは大阪府、大阪市、地元の経済界などが連携して進めているプロジェクトです。

大阪パビリオンの目玉になりそうなのが、健康診断をテーマにした乗り物。これは来場者が円盤形の乗り物に乗ると自動で健康状態を診断、結果が乗車後にその場でわかるというものです。エンタテインメントと健康診断を組み合わせた、新しい感覚の企画になっています。

EXPO for SDGs.4「会場の夢洲と大阪市内を結ぶ水素船」

現在、岩谷産業と関西電力が連携して大阪・関西万博で運航予定の水素船(乗客150名規模)を開発中。2023年頃には完成予定と発表されています。水素船にはEVと同様、二酸化炭素の排出がなく騒音の少ないメリットがあります。この水素船が実現すれば、会場の夢洲(ゆめしま)と大阪市内を結ぶことになります。

両社の役割分担としては、岩谷産業が船舶用の水素ステーション運営を担当、関西電力が充電設備によるエネルギーマネジメント担当になっています。ちなみに、岩谷産業は水素分野をリードする企業として知られ、国内販売シェア約7割を占めます。大阪・関西万博の水素船プロジェクトのほか、神戸での水素を運搬する船やこれに関連する基地の整備も進めています。

EXPO for SDGs.5「パビリオンの建物内部の温度を下げる素材」

大阪・関西万博の開催期間の中盤から後半は真夏にさしかかります。カーボンニュートラルを実現するには「会場とパビリオンを冷却する効率的なシステムをどのように構築するか」も重要です。

このテーマで注目されるのが建物の熱を逃がす独自素材「SPACECOOL(スペースクール)」です。この素材で建物などを覆うことで内部の温度が約10度下がると見込まれています。

2021年8月段階では、大阪ガスなど6社が連携してこの素材を使った実証実験を進行中。 期待した効果が実証できれば、万博パビリオンの屋根や壁の膜素材などとして使われる予定です。

日本が誇る連携力を発揮して大阪・関西万博を成功へ

大阪・関西万博では2025年4月13日からの開催に向けて数多くのプロジェクトが始動・進行しています。ここではその一部をご紹介しましたが、全体的に目立つのは、複数の会社がそれぞれの得意分野を発揮しながら進める協業スタイルです。

協業の中身を見ると、大手企業が連携するプロジェクトが多い感がありますが、一部では「空飛ぶ車構想」のようにベンチャー企業がメインの技術を提供して、それを大手企業が サポートするような形態もあります。

日本にはGAFAのような独占的な競争力を持つ企業はありませんが、その分、専門分野に特化した連携が得意な会社がたくさんあります。この連携力をフル活用して「SDGs達成の突破口」を世界に提案できるでしょうか。SDGs達成で大きな影響を与える万博になるよう見守りましょう。

(提供:Renergy Online



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