不動産投資においては建物や設備という現物資産を所有することになるため、株式投資や投資信託というペーパーアセットへの投資よりも多くのコストがかかる。

不動産投資を始めるにあたっては、どの時点でどのようなコストがかかるのかを正確に把握し、資金計画に落とし込んでおく必要があるといえるだろう。

本記事では、投資期間中の資金ショートを防ぎ、財務的に健全な不動産投資を行うために把握しておくべきコストについて、物件の購入時・運用時・売却時の3つのフェーズに分けて解説する。また、これらのコストは具体的にどの程度かかるものと想定しておけばよいかをシミュレーションしているので、参考にしてほしい。

購入時のコストとは

不動産投資を始める時に知っておきたいコストとは?
(画像=xyz+/stock.adobe.com)

物件購入時のコストとは、購入する物件を決めてから融資を受けて売買代金を支払い、実際に自分の所有物件として運用を開始するまでに発生する諸費用を指す。

諸費用とは、仲介手数料、登記費用(登録免許税など)、司法書士費用、融資関連費用、印紙代、不動産取得税など、物件購入にあたり必要になる税金や手続に要する費用である。年の途中で購入するとき、固定資産税の未経過分を買主が売主に支払うことがある。この固定資産税精算金も諸費用に含まれる。

購入時のコストシミュレーション

物件の購入時には、諸費用(仲介手数料、登記費用、司法書士費用、融資関連費用、印紙代、不動産取得税など)が発生する。

諸費用の必要額は、不動産仲介業者を介して購入するか売主から直接購入するかによって異なる。
不動産仲介業者とは、物件の売主と買主をマッチングさせる仲立人のことで、不動産仲介業者を介して物件を購入する場合は、仲介手数料(400万円を超える物件の場合は上限額が「物件価格の3.3%+6万円(税込み)」)がかかる。売主から直接購入する場合は、仲介業者がいないので仲介手数料は発生しない。

仲介手数料が発生する場合としない場合で分けると、諸費用の目安は以下の通り。

  • 不動産仲介業者を介して購入する場合は、7〜10%程度
  • 売主から直接購入する場合は、4〜7%程度

ただし、物件購入にあたりローンを利用する場合は、金融機関から物件価格の10~30%程度の頭金を求められるケースがあるため、諸費用以外にも資金が必要な可能性があることには注意したい。

5,000万円の物件を購入する場合、諸経費として350~500万円程度かかり、ローンを利用する場合は諸経費とは別に頭金が必要となる。

運用時のコストとは

物件運用時のコストとは、物件を購入してから賃貸経営において発生するコストを指し、以下の2種類に大別される。

  • 固定コスト
  • 変動コスト

固定コスト

固定コストとは、毎月ないし毎年の頻度で定期的に発生するコストで、管理委託料や税金(固定資産税および都市計画税)、損害保険料(火災保険)などが挙げられる。

固定コストは請求される日付や頻度、金額が一定であるものが多いため資金計画に落とし込みやすいのが特徴の1つである。

変動コスト

変動コストとは、突発的かつ不定期に発生するコストで、修繕費や入居者の入れ替えに伴うリーシング関連コストなどが挙げられる。

変動コストは発生する時期や頻度、金額を予測しにくいものが多いため資金計画に落とし込むのが困難であるのが特徴の1つである。

運用時のコストシミュレーション

物件の運用時には、固定コスト(管理委託料や税金(固定資産税および都市計画税)など)と変動コスト(修繕費や入居者の入れ替えに伴うリーシング関連コストなど)が発生する。

管理委託料は毎月発生する固定コストで、当月送金賃料の5%が一般的な相場だろう。
物件価格5,000万円、表面利回り8%の物件の場合、満室時の月額送金賃料は約33万円であるため、管理委託料の目安は約1万7,000円となる。

入居者の入れ替えに伴うリーシング関連コストには、賃貸仲介業者に対して支払う仲介手数料がある。

仲介手数料は成約賃料の0.55ヵ月~1.1ヵ月分(税込み)、である。

運用時に必要なその他のコストについては相場を一般化することが困難であるため、物件を購入する前に過去の修繕履歴(修繕箇所、修繕頻度、修繕コスト等)や納税通知書を参照し、コストとして想定しておくのが選択肢の1つだろう。

この他、運用の結果、得られた収益は「不動産所得」として所得税・住民税がかかる。収益が赤字ならば課税は生じない。しかし、黒字だと儲かったら儲かった分、納税額が増える。正確なシミュレーションは非常に困難だが、変動コストの一つとして念頭に置いておきたい。

売却時のコストとは

物件の売却時のコストとは、物件を売却する相手が決まってからローンを繰上返済したり、抵当権を抹消したりして物件を引き渡すまでに発生するコストを指し、以下5種類のコストが発生し得る。

  • 仲介手数料
  • 印紙税
  • 抵当権抹消登記費用
  • ローン繰上返済手数料
  • 譲渡所得税・住民税

融資を受けていない場合には抵当権抹消登記費用およびローン繰上返済手数料は発生しない。また、売却時に利益が出なかった場合には譲渡所得税・住民税が、それぞれ発生しない。

売却時のコストシミュレーション

仲介手数料は、物件の売買契約を仲介した不動産仲介業者に支払う手数料のことで、購入時の仲介手数料と同様で400万円を超える物件の場合は物件価格の3.3%+6万円(税込み)が発生する。5,000万円の物件を売却する場合の仲介手数料は156万円(税抜)となる。

印紙税とは、日常の経済取引に伴って作成する契約書や領収書など特定の文書に課税される税金のことで、不動産の売買契約書を作成する際にも印紙税はかかる。

印紙税の金額は物件価格によって異なる。不動産の売買に関する契約書の印紙税は現在軽減されており、
2022年3月31日まで、1,000万円超・5,000万円以下の場合は1 万円、5,000万円超・1億円以下の場合は3万円となっている。

抵当権抹消登記費用とは、金融機関からの融資を受けるに当たって物件を担保にする際に設定された抵当権を抹消する旨の登記をするためのコストを指す。

日本司法書士連合会が実施した報酬アンケート(2018年1月実施)によれば、抵当権抹消登記費用は1万3,000円ないし1万9,000円が全国的な平均値とされている。

ローン繰上返済手数料とは、ローン借入期間中に融資残高の一部ないし全部をまとめて繰上返済する際に、借入金融機関に対し支払う手数料を指す。

ローン繰上返済手数料の料金体系は金融機関によって異なるため、融資を受けている金融機関に確認しよう。

譲渡所得税・住民税とは、土地や建物などの資産を売却することによって生ずる所得に対して課税され、物件売却の結果として利益が発生した場合に発生する。

譲渡所得は売却価格そのものではなく、売却による収入金額から取得費用、譲渡費用および特別控除額を差し引いた金額であるため要注意だ。なお、売却による収入金額には不動産の売却価格だけでなく、固定資産税精算金など売却に伴って受け取ったものも含まれる。

取得費とは購入代金または建築費用、購入時の手数料、設備費、改良費等の合計額である。なお、建物の取得費は購入代金や建築費用から減価償却相当額を差し引いた金額となる。

譲渡費用とは売却にあたって支出した仲介手数料、印紙税、立退料等費用等の合計額である。

特別控除額とは、マイホームを譲渡した場合など一定の要件を満たす場合に適用される控除額で、課税譲渡所得金額から差し引くことができる金額を指す。ただし、この特別控除は売却主自身が住んでいた不動産にしか使えない。したがって、本稿で扱う投資用のアパートや戸建てを売却したときは、特別控除額を差し引くことはない。

譲渡所得税・住民税は物件の保有期間によって税率が異なることにも注意しよう。
物件売却の年の1月1日において所有期間が5年間を超えていれば長期譲渡となり、それ未満の場合は短期譲渡となる。

長期譲渡時の譲渡所得税は復興特別所得税も合わせて15.315%、短期譲渡時の譲渡所得税は復興特別所得税も合わせて30.63%ある。また、所得税とは別に住民税が長期譲渡で5%、短期譲渡で9%課税される。

なお、上記の他、建物の売却価額が1,000万円を超えると、翌年か翌々年に消費税の納税義務者になる可能性がある。賃貸料収入が居住用物件に関するものだけなら、消費税は非課税となるので納める消費税はまずないと言っていい。しかし「他に個人事業主として商売をしている」「賃貸物件に事務所や店舗がある」といった状態なら、消費税を納めなくてはならなくなる。

どのぐらいのコストがかかるかも計算に入れて投資をしよう

不動産投資においては、購入時・運用時・売却時の各フェーズでコストが発生するため、物件を購入する前に売却時までのコストをシミュレーションしておくのが得策だろう。

コストのシミュレーションに漏れがあり資金計画が甘くなると、投資期間中に資金ショートを起こしたり、最終的なトータル収支が赤字になってしまったりすることもあり得る。そのため、不動産投資は投資前の資金計画の正確性が成否を左右するといっても過言ではない。

税務に関する記述の監修:税理士 鈴木まゆ子

(提供:manabu不動産投資

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