不動産投資を行う目的には、収入源の多角化や老後の備えといったものがあるが、相続税対策を目的として不動産投資を行う投資家も少なくない。
相続税の課税方法の改定により、2015年1月以後の相続および遺贈については相続税の基礎控除が引き下げられたうえ、相続税率の最高税率の引き上げが行われた。
相続税の負担を少しでも軽減するため、節税方法を模索した結果として不動産投資を行うという選択をした投資家も少なからずいるだろう。
相続税対策に不動産投資が活用されるのはなぜなのだろうか。そして、不動産投資の活用によってどれほどの相続税対策ができるのだろうか。2つの疑問に答えていきたい。
不動産投資はなぜ相続税対策になる?
相続税は相続開始時に被相続人が所有していた現金や株式、不動産等に課税される。相続税額の基準となるのは、相続開始時の時価だ。この時価は、相続税財産評価基本通達に定められた評価方法に従って評価した金額となる。つまり、この評価額を圧縮することができれば税額を抑えられるのだ。
不動産投資を行うと、相続税評価額を下げやすい。次の3つがあるからだ。
- 建物の相続税評価額が下がる
- 土地の相続税評価額が下がる
- 小規模宅地等の特例の適用を受けられる
なお、相続税評価額は、相続税額や贈与税額の計算のためだけのものだ。実勢価格(実際に取引される売買価格)とは、まったく別物である。「相続税での評価額が下がることと、投資物件の売却額の上がり下がりは別の話だ」ということを念頭に置いてほしい。
建物の相続税評価額が下がる
相続開始時に賃貸アパート等の貸家となっている建物は、相続税評価額が下がる。
賃貸アパート等になっている建物の評価においては、同建物の固定資産税評価額(相続税評価額の基準となる価格)に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額が控除されるためだ。
借家権割合とは当該建物における賃借権の割合を指し、全国一律30%(2021年現在は30%だが、今後は変わる可能性がある)とされている。賃貸割合とは当該建物の床面積のうちどの程度が賃貸されているかを示す割合を指す。満室ならば100%だが、空室が出ればその分割合は下がるのが原則だが、空室が一時的であるなどの一定の要件を満たせば空室部分も含めることも可能な場合がある。
土地の相続税評価額が下がる
賃貸アパート等の貸家が建っている土地は、路線価方式か倍率方式のどちらかで評価する。自分用の土地だとここで評価は終わりなのだが、賃貸物件の敷地だと「貸家建付地」となるため、相続税評価額が減額される。
具体的に言うと、貸家建付地は、当該土地の評価額から借地権割合および前述の借家権割合と賃貸割合が控除されるのだ。
借地権割合とは土地の更地評価額に対する借地権価額の割合を言い、地域によって異なる。
小規模宅地等の特例を受けられる
小規模宅地等の評価減の特例とは、被相続人が自宅用・事業用・賃貸用のいずれかの建物の敷地を相続人が相続する場合に相続税評価額が80%または50%減額される制度である。
相続される土地が以下3つのいずれかに該当する場合は、小規模宅地等の評価減の特例を受けられる可能性がある。
- 自宅の土地(特定居住用宅地等)-①
- 店舗や工場等を営んでいた事業用の土地(特定事業用宅地等)-②
- 賃貸住宅や駐車場の土地(貸付事業用宅地等)-③
ただし、本特例には下表のように適用を受けられる限度面積がある。特に「相続財産に自宅と賃貸アパートがある」などのように複数の土地が相続対象となるときは、賃貸用物件で小規模宅地等の特例を受けることが節税になるとは限らない。また、「申告期限まで保有していること」「遺産分割協議が完了していること」など、様々な条件を満たさないと適用できない。活用するなら、きわめて慎重な判断が必要だ。
相続開始の直前における宅地等の利用区分 | 限度面積 (平方メートル) | 減額割合(%) | |
---|---|---|---|
① | 330 | 80 | |
② | 400 | 80 | |
③ | 特定同族会社事業用宅地等以外 | 200 | 50 |
特定同族会社事業用宅地等 | 400 | 80 |
不動産投資での相続税対策シミュレーション
1億円分の資産を相続する場合を想定して、不動産投資を行うことでどの程度の相続税対策ができるのかをシミュレーションしてみよう。
1億円の現金を使って5,000万円の土地(借地権割合70%・借家権割合30%・賃貸割合100%・200平方メートル)および5,000万円の賃貸住宅の建物を購入した場合、相続税評価額を4,500万円以上も圧縮できる可能性があるだろう。
土地は以下2つの制度によって評価額が圧縮される可能性がある。
- 貸家建付地(借地権割合および借家権割合、賃貸割合を乗じた価額が評価減)
- 小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地として200平方メートルまで50%評価減)
両制度の適用を受けられる場合、土地の評価額は1,975万円(5,000万円×(1-70%×30%×100%)×50%)まで圧縮されることとなる。実際には、もっと評価額が下がることが多い。相続税で土地は路線価方式あるいは倍率方式で評価する。この評価額はいずれも実勢価格よりも低くなる傾向にあるのだ。
建物は貸家として評価されるため、借家権割合と賃貸割合を乗じた割合が差し引かれて評価額は3,500万円(5,000万円×(1-30%×100%))まで圧縮される。建物の評価額も、土地と同様、実際にはもっと下がるとみられる。建物は固定資産税評価額で評価するが、この評価額も実勢価格の7割程度と低くなることが多い。
土地と建物の評価を合計すると5,475万円(1,975万円+3,500万円)となる。現金のまま1億円を相続する場合より4,500万円以上も評価額を圧縮できるというシミュレーション結果となる。
押さえておきたいリスクとは?
不動産投資をするにあたっては、相続税対策というメリットばかりではなくリスクについてもしっかりと理解しておく必要があるだろう。
リスクを理解しないまま不動産投資を行うと、節約できた相続税の金額以上の損失を出してしまい、結果として不動産投資をすることで資産が減ってしまうという事態になりかねないためである。
以下、不動産投資における主だった6つのリスクを理解し、相続税対策のみならず資産形成も行える不動産投資を行おう。
- 賃料変動リスク
- 空室リスク
- 家賃滞納リスク
- ランニングコスト変動リスク
- 災害のリスク
- 価格変動リスク
賃料変動リスク
賃料変動リスクとは、建物および設備の経年劣化や周辺相場の変化等によって賃料が変動するリスクを指す。
不動産の賃料は常に一定ではなく、築年数の経過や人口減少に伴う賃貸需要の減少によって下落する可能性がある。
賃料の下落を加味せずに長期の資金計画を組むと、賃料収入の減少により収支が計画よりも年々悪くなっていくという事態になりかねない。
空室リスク
空室リスクとは、入居者の退去によって空室期間が発生し賃料収入が途絶えるリスクを指す。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が賃貸住宅管理会社を対象に実施した賃貸住宅市場景況感調査「日管協短観」(2020年12月)によれば、2020年度上期における全国の賃貸住宅の平均居住期間は、学生を除く一般単身者では2〜4年が最多(66.9%)、一般ファミリー層では4〜6年が最多(61.0%)となっている。
単身者は97.7%、ファミリーは87.2%が6年以内に退去することが同調査から分かることからして、6年のうちに3回程度は退去による空室期間が発生するという認識を持っておくのが得策だろう。
家賃滞納リスク
家賃滞納リスクとは、入居者が家賃を支払えなくなり滞納するリスクを指す。
入居者がいたとしても家賃を滞納されると、空室期間と同様に賃料収入が途絶えてしまうため注意が必要である。
家賃滞納リスクを抑える方法として、家賃保証会社が行う入居者審査を通すことで滞納リスクのある入居者を一定程度フィルターにかけることができる。そのため、リスクヘッジとして「入居者の家賃保証会社への加入」を考えるのは1つの手ではあるだろう。
また、賃貸管理会社の滞納保証についても、完全な対応策とまではいかず、あくまで家賃滞納リスクを避ける方法の1つといった程度に考えておく必要があるだろう。
ランニングコスト変動リスク
不動産投資におけるランニングコストには、主に以下9つの項目が挙げられる。
- ローン返済
- 管理委託料
- 税金(固定資産税、都市計画税)
- 管理費および修繕積立金(区分マンションの場合)
- 共用部分の電気代および水道代(一棟物件の場合)
- 損害保険料(火災保険)
- 修繕費
- 原状回復費(貸主負担分)
- 法定点検費(消防設備、エレベーター、建築設備等)
ランニングコストは毎月ないし毎年の頻度で必ずといえるほど発生するものだが、金額が変動するリスクがある。
金利上昇によって毎月のローン返済額が増える、大規模修繕の実施によって修繕積立金が値上がりする、共用部分での漏水によって水道代が一時的に上がるといった種々の要因によってランニングコストが上昇する可能性が想定されるだろう。
災害のリスク
災害リスクとは、地震や台風等の自然災害によって建物に破損や浸水、火災等が発生するリスクを指す。
建物に被害が及ぶと多額の修繕費がかかるという一次被害にとどまらず、修繕期間中に部屋を貸し出せなくなるという二次被害に発展する可能性があるだろう。
日本では地震や台風が毎年のように発生するため、火災保険や地震保険、保険に付帯させる特約等への加入によって十分なリスクヘッジをしておくのが得策である。
価格変動リスク
価格変動リスクとは、物件価格の騰落により売却価格と購入価格にギャップが生じるリスクを指す。
不動産も株式のように価格変動があるため、売却時に価格変動リスクが顕在化することがある。購入後に物件価格が大きく下落すると、物件の売却価格がローンの借入残高を下回り、全額を返済に充てたとしても借金だけが残ることもあり得る。
この他、地価下落の激しい地方だと、「実勢価格<相続税評価額」というケースもある。先ほど「土地や建物の相続税評価額は、実勢価格より低くなりやすい」と書いたが、これが当てはまらないこともあるので注意したい。
また、不動産投資を行い不動産所得が発生すると所得税・住民税がかかる。これらも増加することを念頭にいれておきたい。
相続した後の賃貸経営についても考えよう
資産を現金ではなく不動産として相続することで相続税評価額を圧縮することができ、相続税を減額させることができる可能性がある。そのため、不動産投資によって相続税対策をするのは合理的な節税方法であるといえそうだ。
ただし、不動産投資にはリスクを伴うため、節税効果のみならず相続後の賃貸経営についても事前に考えておく必要があるだろう。
リスクを正しく把握しリスクヘッジ策を事前に講じておくことで、不動産投資は相続税対策と資産形成を同時に行える一石二鳥の投資になる可能性が大いにある。
税務に関する記述の監修:税理士 鈴木まゆ子
(提供:manabu不動産投資 )
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