不動産投資として、メジャーな手法のひとつであるアパート経営だが、失敗しないためにも事前に把握しておくべき知識は多岐にわたる。

この記事では、所得税の節税にもなると言われるアパート経営の基礎的な情報を解説する。アパート経営をスタートするまでの流れや、必要な知識を紹介するので、ぜひ役立ていただきたい。

アパート経営の特徴

アパートを購入して経営者になるための知識
(画像=ah_fotobox/stock.adobe.com)

そもそも、アパート経営とは建物一棟を所有・管理し、入居者から家賃収入を得る投資方法を指す。個人が得る家賃収入は不動産所得として扱われ、課税対象となる。

ただ、アパート経営では、物件の購入にかかった費用を購入年に経費として一括計上するのではなく、一定の方法で何年かに分けて費用計上する。これを減価償却という。減価償却とは、経年や使用によって価値が下がる建物のような減価償却資産の取得にかかった費用を、税法で定められた耐用年数と償却方法に従って、少しずつ各年に必要経費として計上する制度だ。

アパートのような投資用物件の購入には、数千万円単位のお金がかかる。この物件購入にかかった費用を翌年以降も「減価償却費」として計上できれば、家賃収入などの不動産所得と相殺し、所得税や住民税の課税額を抑えることが可能だ。

減価償却費の算出方法には、毎年同じ金額を計上する「定額法」と、計上額が初期に多いものの、徐々に少なくなる「定率法」がある。1998年4月1日以後に取得した建物は旧定額法または定額法、2016年4月1日以後に取得した建物付属設備と構築物に対しては定額法のみが適用される。計算方法は「減価償却費/年=取得価格×耐用年数に応じた償却率」である。なお、耐用年数は、資産の構造や用途などに応じ、税法で細かく定められている。

例えば、木造・住宅用の建物の法定耐用年数は22年で、定額法での減価償却率は4.6%だ。つまり、この条件の建物を4,000万円で現在取得した場合、減価償却費は「4,000万円×0.046=184万円/年」だ。

ただし、年の途中で取得したときは、この金額を事業用にした月を含めた月数で按分する。先ほどの建物でいうと、2021年7月14日に事業用にしたならば、最初の年の減価償却費は「4,000万円×0.046×6月/12月=92万円」となる。

アパート経営を始めるまでの流れ

ここではアパート経営を始めるまでの流れを、物件の購入までと購入した後に分けて解説する。

アパート購入までの流れ

アパート経営を始めるにあたって、最初に行うのは物件探しだ。投資用物件は、インターネット上の物件情報サイトや、不動産仲介会社や新築アパート開発業者への問い合わせで見つけるのが一般的だ。

不動産投資初心者の場合、資金計画や物件の選び方などについてもしっかりと相談に乗ってもらえるように、不動産仲介会社や新築アパート開発業者へアドバイスを求めるのが無難と言える。新築アパートには土地を購入して新たにアパートを建築する方法と、建売の新築アパートを購入する方法がある。ここでは後者について説明したい。

気になる物件が見つかったら、次は物件の内覧に赴き「建物・土地の状態「周辺環境」「物件があるエリアの賃料相場・賃貸需要」などを確認し、購入するか否かを決めることになる。

物件購入を決めると、次に行うのが売主との売買契約だ。この際に、重要事項説明が実施され、双方合意に至った場合は売買契約を締結、手付金の支払いをする。

その後、事前にアパートローンなどを利用して調達した資金で残額の支払いを終えた後は、不動産登記を行う必要がある。アパートの購入では、全額自己資金で行わない限り、事前に金融機関にローンを申し込み、金融機関側の審査を受けるというステップが必要になる点に留意されたい。

不動産登記とは、建物や土地に関する情報を公示する登記簿に登記をするために、法務局にて行う手続きだ。

不動産登記では新築物件と中古物件では登記する内容が異なる。新築物件では登記のない物件情報を登録する「建物表題登記」と「所有権保存登記」、中古物件の場合は「所有権移転登記」が必要だ。

不動産登記まで終えることで、物件の取得が完了となる。

物件購入からアパート経営スタートまでの手順

物件の購入が完了すると、次に考えなければならないのは入居者の募集だ。物件取得から、アパート経営スタートまでに必要な手順としては「①管理会社の選定→②入居者募集」となる。

物件の購入後は、物件管理と賃貸管理を委託する管理会社を選定する必要もある。管理会社の仕事は、主に入居者の募集、入居者との契約の代行、内覧への対応、物件の維持・清掃、入居者からのクレーム対応などだ。

アパート経営では、中古物件を購入した場合はすでに入居者がいて、すぐに家賃が入ってくるケースがほとんどだろう。一方で、完成前の新築を購入した、あるいは購入した物件に空室が発生している場合は、不動産業者への仲介手数料を支払い、入居者を募らなければならない。

アパート経営に必要な税金の知識

アパート経営を行うことで課税される税金は「物件の取得時に課税される税金」「所有している物件の価値に応じて自動的に課税される税金」「その不動産が生み出す利益によって発生する税金」の3種類となる。

物件の取得・所有で発生する税金

アパート経営のために物件を購入した場合、土地と家屋に不動産取得税が課税される。2021年現在、土地と住宅用の建物の税額は「固定資産税評価額×税率3%」だが、土地が宅地なら課税標準が半額になる軽減措置がある。さらに、不動産取得税の税率は2024年3月31日までの軽減税率が適用されている。本来は4%なのだ。この他、居住用の土地や新築の建物については、別途軽減措置がある。

さらに、物件取得時の売買契約書に課税される「印紙税」(電子契約の場合は印紙代が不要)や、不動産登記に必要な「登録免許税」を納める必要もある。

物件の所有期間中は「固定資産税」が課税され、その物件が市街化区域内にあれば「都市計画税」も課税される。いずれも、毎年1月1日時点で土地・家屋(固定資産)の所有者として固定資産課税台帳に登録されている人に対し、課税される。課税額は原則「固定資産税評価額×1.4%」だ。

都市計画税は、地方自治体の都市計画事業や土地区画整理事業に充てるために徴収される。固定資産税と同様に、固定資産税評価額に対して原則0.3%の税率で課税される。

通常、物件を購入した年においては、市区町村に対し、直接固定資産税や都市計画税を納めることはない。年初時点では所有者として登録されていないからだ。代わりに、売主に対し「固定資産税精算金」という形で所有以後の固定資産税・都市計画税を支払うことになる。

アパート経営を行うと発生する税金

アパート経営を行なって得た不動産所得には、給与所得などと同じように「所得税」「住民税」が課税される。原則として翌年2月16日〜3月15日の間に確定申告を行わなければならない。

さらに、アパート経営は国が定めた法定業種に該当するので、個人で経営する場合でも利益が一定額を超えたり、事業的規模での経営になったりすると個人事業税が発生する。法人化した場合は、法人事業税を支払うことになる。

アパート経営における消費税の扱いだが、居住用物件の貸付は原則非課税だ。ただし、アパート物件でも、貸付期間が1か月未満だったり、貸付物件が事業用であったりすると、消費税が課される。

アパート経営に必要な入居者募集の知識

アパート経営で入居者を見つける方法は「一般募集(一般媒介契約)」「専任募集(専任媒介契約・専属専任媒介契約)」の2種類がある。

一般募集(一般媒介契約)

一般募集は、入居者探しの際に複数の不動産仲介会社に入居者募集のための広報活動を依頼する手法だ。一般募集では、自分で直接入居希望者を探し、物件の賃貸契約をできるのが特徴となる。

専任募集(専任媒介契約・専属専任媒介契約)

専任募集とは、特定の不動産仲介業者のみと契約をする手法で「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の2種類がある。専任媒介契約は、物件オーナーが見つけた入居者との契約も可能だが、専属専任媒介契約では、それもできない。

媒介契約を締結した場合、不動産仲介業者は専任媒介契約では2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上、業務の進捗状況について、物件オーナーに報告する義務が生じる。さらに、媒介契約は3ヵ月などの期間を決めて締結するので、仲介業者も本腰を入れて集客を行ってくれやすいだろう。

アパート経営に必要なメンテナンスに関する知識

アパート経営で家賃を下げることなく入居率を高く保つためには、物件の状態を綺麗に維持する必要がある。アパート経営で数年おきに、定期的なメンテナンスを行わなければならない箇所は、ガス・水道・電気まわりの設備、物件の外壁などだ。

また、空室が発生するたびに、部屋を元の状態に戻さなければならない。部屋の原状回復を行う箇所は、壁・天井のクロスや、畳・フローリングの張り替えなどとなる。

入居者が傷つけてしまった箇所に関しては、入居者負担を請求することもできる。しかし、退去時の原状回復はトラブルの元となりやすいので、事前に国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で各項目を確認しておきたい。

アパート経営に必要な資金計画の知識

アパート経営を行うにあたって、物件の購入費もしくは建築費が初期段階で必要になるので、数千万円単位の資金を用意しなければならない。アパート経営を始めるための資金を用意する手段としては、金融機関でアパートローンなどを組み、融資を受けるのが一般的だ。

アパートローンの金利にも「固定金利」「変動金利」の2種類がある。固定金利は融資開始時点の金利設定がずっと続くため、安定感があるだろう。変動金利は固定金利よりも低い金利が設定されているケースも多くなっているが、定期的に金利が見直され、社会経済情勢の影響も受けやすいというリスクがある。

ローンの返済方法には「元利均等返済」「元金均等返済」がある。元利均等返済は毎月の支払い額が一定となるが、元金均等返済よりも返済総額が高くなってしまう。対して、元金均等返済は元金が一定のため返済当初の返済額が高くなる分元金の減少が早いため、返済総額は抑えられるだろう。

アパート経営では、毎月のローンの返済額が支出の中でも大きな割合を占める。例えば、借入金3,000万円、金利3%(固定)、借入期間25年、元利均等返済の条件でアパートローンを利用した場合、毎月の返済額は約14万2,000円となる。

アパート経営における資金計画では、想定される毎月の家賃収入とローン返済などの支出とを天秤にかけ、余裕のあるプランを策定するようにしよう。

アパート経営で起こりうるリスクと対応策

アパート経営では、主に下記のようなリスクに備えなければならない。

  • 賃料変動リスク
  • 空室リスク
  • 家賃滞納リスク
  • ランニングコスト変動リスク
  • 金利上昇リスク
  • 災害のリスク
  • 価格変動リスク

空室や家賃の滞納などにより、不動産収入が減ってしまうと、毎月のローンの返済や税金の支払いに対する負担が増してしまう。また、建物や設備が経年劣化することで賃料を下げざるを得ない状況になったり、経年劣化を補うための修繕費といった毎月、毎年かかるランニングコストが変動したりすることもある。突発的に発生する災害へのリスク、社会経済情勢が影響した金利の上昇リスク、物件の価値が下がって購入価格を下回る売却価格になるリスクも考えなければならない。家賃下落、突発的な災害の発生による物件の修繕費負担も、不動産投資を行う上で覚悟しなければならないリスクと言える。

突発的に不動産収入が減った、あるいは支出が必要になったという状況を乗り切るためにも、アパート経営における収支計画を綿密に行い、手残りのキャッシュをなるべく多く確保するようにするのが賢明だ。

まとめ

所得税の節税対策にもなり、上手く経営すれば毎月安定した家賃収入を得られる。しかし、経営状態を破綻させないために、事前に把握しておくべき事柄は多岐にわたる。

アパート経営は、知識を正しく把握すれば、無駄な支出を減らしつつ所得を増やせる投資方法だろう。必要な知識を身につけ、破綻のない経営を行うようにしよう。

税務に関する記述の監修:税理士 鈴木まゆ子

(提供:manabu不動産投資

- コラムに関する注意事項 -

本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部執筆者の方に本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。