供給制約の下でも景気拡大は持続
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供給制約の下でも景気拡大は持続

第一生命経済研究所 主任エコノミスト / 桂畑 誠治
週刊金融財政事情 2021年9月28日号

 新型コロナウイルスの感染力の強いデルタ変異株によって、世界は「第5波」というべき感染拡大に見舞われている。2020年3月に世界保健機関(WHO)が新型コロナをパンデミックと宣言してから1年半が経過したが、足元でもコロナ感染が収束する兆しは見られない。

 第5波は、ワクチン接種で後れを取るアジアを中心に流行していたが、接種が進展している米国でも感染が広がった。デルタ株による感染拡大は、拙速なマスク着用の義務付け撤廃、行動制限の解除などによってワクチン未接種者、マスクの不着用者を中心に生じた。さらに、ワクチンを2回接種した人でも感染する「ブレイクスルー感染」も増加している。今年の7月5日と9月16日を比較すると、1日当たりの米国の感染者(7日移動平均)が1.2万人から16.2万人に急増し、死者数(同)は217人から2,184人に増加している(図表)。

 新型コロナは変異を続けるため、当初想定されていた集団免疫獲得は困難とみられるようになった。ウィズコロナの下、経済活動を維持するためには継続的なワクチン接種が必要となる可能性が高い。

 ブレイクスルー感染の恐れはあるものの、ワクチン接種者は重症化しにくいことが明らかになっている。第5波に対し、米バイデン政権や各州知事は、ワクチン接種の促進やマスク着用の義務付けなど、必要最低限の政策対応にとどめる方針だ。ロックダウン、行動制限の強化などは行われないとみられ、景気拡大の足踏みは回避されるだろう。

 他方、米国では供給制約の問題が指摘されている。5G関連、パソコン、自動車などの需要拡大によって半導体の需要が強まる一方、供給不足の状況が続くとみられ、自動車、電化製品などの生産への制約が21年中は残存すると予想される。しかし、これまでも供給制約の下で堅調な経済成長を維持できたように、供給制約が景気拡大を妨げる要因にはなりにくいだろう。

 度重なる感染拡大により、バイデン政権による給付金などの経済支援策の効果が薄れたり、経済活動再開の押し上げ効果が弱まったりすることで、個人消費が鈍化するのは避けられない。しかし、21年後半の米国経済は、企業収益の改善や景気の先行きに対する楽観的な見方を背景とした設備投資の拡大、在庫復元の動きによって、前期比年率6%増程度の高い経済成長が継続すると予想している。

 リスクとなるのは、頻繁に変異が生じるコロナの特性だ。既存のワクチンの重症化に対する予防効果を大幅に弱めるような変異を起こす可能性は否定できない。より強力な変異株による感染が急激に拡大すれば、死者数を抑制するために新しいワクチンの開発と製造が行われるまでの数カ月、行動制限を強化せざるを得ず、米国を含む世界経済の成長鈍化は避けられないだろう。

供給制約の下でも景気拡大は持続
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(提供:きんざいOnlineより)