北東アジアと比べて回復が遅れるアセアンの雇用環境
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北東アジアと比べて回復が遅れるアセアンの雇用環境

(アジア各国の雇用統計ほか)

日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター / 松本 充弘
週刊金融財政事情 2021年9月28日号

 コロナ禍における社会経済活動の制限などを背景に、アジアの雇用環境が悪化している。国際労働機関(ILO)の「World Employment and Social Outlook」によれば、アジア太平洋地域では、2020年の労働時間が19年と比べ7.9%減少し、約7,300万人分に相当する雇用が失われたと推定されている。失われた雇用のうち、業種別で最も多くの割合を占めるのは製造業(30%)であり、次いで建設業(21%)、卸売り・小売業(16%)、宿泊・飲食サービス業(10%)と続く。

 もっとも、アジアの中でも労働市場の悪化の程度は国・地域によって異なる。各国の統計から新型コロナの発生前後の失業率の推移を見ると、中国や韓国、台湾などの北東アジア地域は19年末に近い水準まで改善しているのに比べて、アセアン諸国では回復の遅れが目立つ(図表)。特にフィリピンでは今年7月の失業率が6.9%(19年末=4.6%)と高い水準が続いているほか、マレーシアでは4.8%(同3.3%)、タイでは4~6月期に1.9%(同1.0%)、ベトナムでは2.6%(同2.2%)と、いずれもコロナ前の水準に戻っていない。毎年2月と8月分のデータのみが公表されるインドネシアでも、今年2月の失業率は6.3%(19年8月=5.2%)と、コロナ前を上回った。

 雇用への悪影響がアジア各国・地域で異なる要因として、活動制限の実施状況の違いが挙げられる。アセアンでは厳しい活動制限が断続的に実施されたのに対して、中国や韓国、台湾では比較的短期に集中し、国内雇用へのダメージを抑制することに成功した。アセアンにおける活動制限の強化は、グローバル経済の供給面に混乱をもたらしている。ILOによれば、アセアンでは全雇用に占める「製造業のグローバルサプライチェーンに関わる雇用」の割合が約3割と、他の地域と比べて高く、足元では、アセアン諸国を中心とする自動車製造のサプライチェーンが途絶するなどの問題が深刻化している。

 世界的な感染流行の収束が見えないなか、アセアンではワクチン接種ペースが他の地域に比べて遅いことなどを背景に、今後も断続的に外出規制などが実施される可能性がある。今後のアセアンの雇用情勢を展望すると、失業率は年末にかけてこれまでと同程度の水準で推移し、コロナ前の水準に回復するのは難しいとみられる。

北東アジアと比べて回復が遅れるアセアンの雇用環境
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(提供:きんざいOnlineより)