供給制約の下でも景気拡大は持続
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雇用環境改善で前年同月比減少に転じた7月の自殺者数

(警察庁「自殺統計」)

三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト / 宅森 昭吉
週刊金融財政事情 2021年10月5日号

 全国の新型コロナウイルスの新規感染者数は、8月20日に2万5,868人と過去最高になった。今夏の緊急事態宣言は、多い時期で21都道府県に発出され、19の都道府県では9月末まで延長された。感染力の強い変異ウイルスが猛威を振るう中で、景気回復はもたついてしまった。

 しかし、「第5波」における新規感染者数2万人台は、9月1日の2万23人が最後になったようだ。9月以降の新規感染者数は減少傾向にあり、ワクチン接種完了者が全人口の50%超となるなど明るい兆しも出ているように思われる。そこで今回から3カ月間にわたり、「コロナ禍からの回復はどこに表れているか」をテーマに執筆していきたい。

 7月の完全失業率は6月から0.1ポイント低下し、2.8%だった。半期ごとに小数第2位まで見ると、完全失業率は、2020年上半期の2.57%から同年下半期に2.99%に悪化したが、21年上半期には2.87%にやや改善した。

 7月には、有効求人倍率も1.15倍と6月から0.02ポイント上昇し、20年5月の1.18倍以来の水準になった。給付金、協力金、雇用調整助成金などの政策効果による下支えで、雇用は底堅く推移している。もっとも、7月は変異ウイルスの蔓延により求職活動を手控える動きが、数字の改善につながった面もあるようだ。

 こうした雇用情勢と強い相関があるのが自殺者数だ。完全失業率と警察庁の自殺者数の年次データの相関係数は、データが存在する最長期間(1978年~2020年)で0.911(1に近いほど正の相関が強い)となっている。自殺の理由は、健康問題、家庭問題などさまざまだが、経済生活問題が理由となるケースも多いことを示している。

 7月の自殺者数は、20年7月比9.5%減の1,687人にとどまり、前年同月比としては13カ月ぶりの改善となった。これは、自殺者数と強い相関関係にある雇用関連統計における7月の改善と整合的な結果だ。

 また、21年上半期の1カ月平均の自殺者数は1,827人だった。前年同期の同1,596人に比べて14.5%増だったが、20年下半期の同1,917人に比べ4.7%の減少だ。完全失業率と同様の動きになっている。

 最新の動向を見ると、8月の自殺者数(暫定値)は1,674人で、20年8月から13.3%減少した。前年同月比では、2カ月連続の減少だ。21年下半期の自殺者数は前年同期を下回りそうだ。

雇用環境改善で前年同月比減少に転じた7月の自殺者数
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(提供:きんざいOnlineより)