脱炭素化が原油価格を押し上げ、当面1バレル=60~90ドルに
みずほ証券 マーケットストラテジスト / 中島 三養子
週刊金融財政事情 2021年10月19日号
足元のWTI原油先物価格は1バレル=80ドルを超え、7年ぶりの高値水準となっている。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国を含むOPECプラスは10月4日の閣僚級会合で、11月も減産幅を日量40万バレル縮小する方針を確認した。
米政権はインフレ懸念から、OPECプラスに対して追加の増産を要請していたため、市場では追加増産を検討するとの見方も高まっていた。これに反し、追加増産を見送った(減産幅の縮小にとどめた)ことから、需給逼迫観測が強まった。OPECプラスが減産を縮小する現行のペースは、2022年末に終了する見通しとなっている。今後もこのペースが維持される場合、原油価格にはさらなる上振れ余地もあるが、OPECプラスが追加増産に踏み切れば上昇が一服しよう。
足元の上昇の要因は、世界的な経済活動の再開による需要増のほか、米石油施設がハリケーン被害を受けたことによる供給減も加わっている。米消費者物価指数はガソリン価格の高騰を受けて高止まりしており、米金利上昇と株安への圧力につながっている。今後、より一段の原油高となるとさらにインフレ懸念が強まりそうだ。
逆説的だが、世界的な脱炭素化の動きが原油価格を押し上げる要因となっている。米石油企業が脱炭素化に伴い原油の生産量を減らしており、供給が絞られる構図が起きている。また、ニューヨーク市場の天然ガス先物価格が過去最高値圏にあり(図表)、天然ガスから原油にエネルギーを切り替える動きが活発化したことが原油相場の押し上げに寄与している。天然ガス市場では、ロシアからの供給が滞るなか、脱炭素化を要因として中国勢による買い占めが起こるなど、争奪戦が続いている。天然ガス先物価格は当面、北半球の厳冬予想による暖房需要の増加が見込まれる一方、ロシアが新パイプラインの早期操業に取り組む姿勢を示して供給増となる可能性もあり、高値圏での綱引きが予想される。
WTI原油先物の非商業筋(投機筋)の建玉は、差し引き52.7万枚と活況を呈している。オプション市場では、投資家は当面原油価格の上昇を見込んでいるようだ。足元では期近~3カ月先のコール(買う権利)の建玉が1バレル=90ドル台に最も積み上がっている。一方、同じ時期のプット(売る権利)の建玉は1バレル=55ドル前後に積み上がっている。サウジアラビアの21年の経常収支が均衡する原油価格は1バレル=52.5ドル(国際通貨基金の予想)であり、60ドルを下回る水準の下値は固そうだ。
以上の点から、当面の原油市場は堅調に推移し、21年10~12月期の原油価格は、1バレル=60~90ドルを想定している。
(提供:きんざいOnlineより)