経営者が知っておきたい地方創生の現状

政府や自治体などの施策により、地方創生の概念は着実に浸透してきている。具体的にどのような段階なのか、次は国内における地方創生の現状を解説していこう。

従来の施策はうまく機能せず

2014年に政府が「地域創生」というスローガンを掲げたことを機に、国内では地方創生に関するさまざまな施策が行われてきた。交付金や補助金をはじめ、地域文化の振興や発掘、地方からの情報発信など、その内容は挙げればキリがないほどだ。

しかし、期待していた効果が出た地域は少なく、今でも高齢化や過疎に悩まされる自治体は全国に点在している。一部成功を収めた自治体もあるが、地域によって抱えている問題や事情は異なるため、全国一律の施策や成功例の模倣で地方創生を実現することは難しい。

また、一時的な効果しか得られない施策が多かった点も、地方創生が期待通りに進まなかった要因だろう。地方事業に多額の補助金を投入しても、そもそも事業に収益性がなければ無駄な支出となってしまう。

このように、従来の施策では多角的・中長期的な視点が欠けていたため、各地域が抱える問題を根本から解決するまでには至らなかった。

関連施策が見直され、支援制度などが充実しつつある

地方創生には多くの課題が残されているが、関連施策や全体の方向性は少しずつ見直されてきている。

例えば、内閣府地方創生推進事務局は2019年に、従来施策の見直しを含む資料「地方創生の現状と今後の展開」を公表した。この資料の中では、地方創生に関する3本の矢(情報支援・人材支援・財政支援)を以下の観点から見直すことが明記されている。

・人材支援をさらに強化する
・必要に応じて地方創生関係交付金の見直しを実施

そのほか、人材確保のために外国人留学生に関する制度が見直されたり、地域の交通ネットワークがうまく連携するような競争政策が検討されていたりなど、新たに手を加えられている施策は少なくない。

2021年からはデジタル田園都市国家構想(DIGIDEN)の会議が開催されるなど、地方格差を埋める具体策の議論が進められている。

ビジネスに地方創生をとり入れるメリット

地方向けのサービスを展開したり本社を地方に移したりなど、ビジネスに地方創生をとり入れる方法はいくつか存在する。では、ビジネスに地方創生をとり入れると、企業にはどのようなメリットが発生するのだろうか。

1.自治体や地元民からの支援を受けられる

事業を展開する地域によっては、その自治体独自の支援制度が用意されている。例としては、税負担が一定期間免除されるものや、補助金・助成金の支給などが挙げられるだろう。

また、進出する地域の活性化に貢献すれば、住民からも支援を受けられるかもしれない。つまり、外部からさまざまな支援を受けられるので、事業の収益性がそれほど高くなくても経営を続けられる可能性がある。

2.コストを軽減しやすい

首都圏に比べてコストを軽減しやすくなる点も、地方で事業を展開する大きなメリットだ。中でも賃貸料は大きく削減できるため、本社や事務所を地方に移すだけでランニングコストをぐっと抑えられる。

ほかにも人件費や仕入れ費、外注費など、地方への移転によって軽減できるコストは少なくない。

3.同業のライバルを減らせる

中小企業がありふれた首都圏や都会では、どのような業種にも強力なライバルが存在する。競合に顧客を取られないように、毎月多額の広告宣伝費をかけている中小経営者も多いはずだ。

その点、地方は企業の数自体が少ないので、競争が激しくない環境でゆったりと事業に取り組める。また、都心部の人材獲得競争で劣っていた企業は、女性やシニア人材を積極的に採用することで、人材不足が解消される可能性もあるだろう。

ただし、地域によっては競争が激しい業種も存在するため、地方への進出前にも市場調査は必須となる。

4.投資家へのアピールにつながる

SDGsや地方創生の概念は投資家にも浸透しつつあり、最近ではESG投資に資金を投入する投資家や機関も増えてきた。ESG投資とは、「環境・社会・ガバナンス」の3つの観点から投資先を選定する手法である。

これらの観点のうち、地域活性化などは社会貢献につながる取り組みなので、ビジネスに地方創生をとり入れると投資家から注目される可能性がある。

ESG投資の国内市場は年々拡大しているため、地方への進出を検討しているのであれば投資家の存在も意識しておきたいところだ。