減価償却をコントロールし、有利な税率で納税せよ
(画像=PIXTA、ZUU online)

「富裕層や高所得者(高所得法人含む)の資産管理における減価償却」と聞くと、真っ先に思い浮かべるのが「不動産投資における減価償却」だろう。実際、現金購入すれば「支払利息」という経費は発生せず、自主管理をすれば「管理費」という経費も発生しないが、不動産投資(不動産賃貸業)を行ううえでは、「減価償却費」という経費はほぼ確実に発生する。

そして、減価償却の扱い方の巧拙で不動産投資から得られる利益は大きく変わる。そこで、[特集]「減価償却ハック」第2回と第3回では、7棟を保有する現役不動産投資家であり、『「減価償却」節税バイブル』の著者でもある不動産専門税理士の萱谷有香氏(叶税理士法人副代表、東京事務所代表)に「不動産投資における減価償却のコツ」を聞く。

菅野陽平
萱谷 有香(かやたに・ゆか)
叶税理士法人東京事務所代表。不動産専門の税理士。不動産投資に特化した税理士事務所で働きながら収益物件について税務と投資面で多くの知識を得られたことを活かし、自らも不動産投資を手掛ける。大手管理会社、ハウスメーカーや賃貸フェアなどで講演実績があり、記事執筆も行う。不動産投資の規模を拡大していくために、なくてはならない金融機関からの融資についても積極的に紹介やアドバイスを行う。金融機関から融資を引きやすい、または金利交渉しやすい決算書の作成を得意とする。物件購入前、物件保有中、物件売却時、相続時、どの時点で相談を受けても必ず投資家にプラスになるアドバイスを心掛けている。著書に『減価償却節税バイブル』( 技術評論社)がある。

知っておきたい「400万円の壁」と「800万円の壁」

上記書籍は「法人名義で不動産投資をすること」が前提に書かれている。不動産を専門に扱っている叶税理士法人の顧客の約9割が法人名義での運用だそうだ。個人の所得税は累進課税であり、住民税を含めた合算の最高税率は55%におよぶ。一方、法人の実行税率は高くてもおよそ33%であり、不動産投資の規模(物件の保有件数や保有総額など)が大きくなればなるほど、不動産の所有方法は実質的に法人一択となってくる。なお、法人形態としては「株式会社の場合もあるが、多くの人は合同会社を設立して不動産を取得している。株式会社、合同会社いずれでも税務対応に変わりはない」(萱谷氏)という。

法人の実行税率は本特集の企画の根幹に関わってくるので、最初に解説していこう。法人の利益(所得)の金額によって、実行税率はおおよそ以下のような数字になる。

法人の利益額(所得額) 実効税率
400万円以下 21%
400万円超〜800万円以下 23%
800万円超 33%

中小企業税制によって、資本金1億円以下などの要件を満たす中小企業は、800万円までの利益に対しては法人税率が15%に軽減される。しかし、400万円までの区切りがあることを知らない人はいるかもしれない。これは法人事業税が関係している。法人事業税は400万円と800万円に区切りがあり、当然、利益が大きいほど税率が上がっていくのだ。

この表で注意したいことは、800万円を境にして実効税率が約10%も上昇することだ。利益の絶対値が大きくなれば、当然税金の絶対値も大きくなるため、この10%の差はかなり大きい。反対に言えば、減価償却をうまくコントロールすることで、この税率差を逆手に取り、節税を行うことができる。

「なかには低い税率で適用されるように10社以上の法人を設立して、利益を分散させて節税している人もいる。『次に買う物件は既存法人で買ったほうが良いか、新規法人で買うべきか』もよくある質問だ。『物件によりけり』としか言いようがないが、購入する物件の土地比率が大きい場合は、減価償却費があまり取れず、利益が大きくなりそうなので、(400万円や800万円までの余白を丸々使える)新規法人が良いのではないかと思う」(萱谷氏)という。

さらに、「節税は『分散』が重要になる。たとえば、10社以上の法人を設立して、利益を分散させるのも1つの手だ。一物件一法人で取得していくと、最近は不動産M&Aが広がっていることもあり、出口戦略を描きやすい。1つの法人でたくさんの物件を取得すると、『こっちは売りたいが、あっちは売りたくない』ということが起こる。また、一物件一法人のほうが、売却益のコントロールがしやすいとも言える」(萱谷氏)と解説する。

「任意償却」というキーワード

「法人での不動産投資の減価償却」を考えていくうえで、実効税率に加えて知っておきたいキーワードが「任意償却」だ。減価償却における個人と法人の大きな違いは償却が強制か、任意かということだ。詳しく説明しよう。