オルタナティブ投資とは、代表的な投資商品である株式や債券以外の資産への投資全般を指す。コモディティや仮想通貨、不動産、金銀銅への投資は、すべてオルタナティブ投資である。本記事では、オルタナティブ投資の意味や種類、メリットとメリットをわかりやすく解説していく。
オルタナティブ投資とは?
まず、オルタナティブ投資の意味や特徴について解説する。
オルタナティブ投資とは「代替投資」の意味
オルタナティブ(Alternative)とは、英語で「代替」という意味だ。オルタナティブ投資を直訳すると代替投資となる。つまり、オルタナティブ投資とは、代表的な投資対象である株式や債券以外の資産への投資全般を指す。穀物や貴金属などのコモディティや仮想通貨、不動産などは、すべて「オルタナティブな」投資対象といえる。
オルタナティブ投資の特徴
オルタナティブ投資には、いくつか特徴がある。
1つ目は、オルタナティブ投資の投資対象と株式や債券の値動きは相関関係が弱いことだ。資産配分(ポートフォリオ)におけるオルタナティブ投資の割合を増やすことで、ある程度は株式や債券の値下がりリスクに備えることができるだろう。
2つ目は、株式や債券と比べて流動性が低い投資先が多いことだ。流動性の低さは投資のリスクを増大させるケースも多いため、慎重な投資判断が求められる。
多くの機関投資家がオルタナティブ投資を実践
いまや多くの機関投資家がオルタナティブ投資を実践している。たとえば、アメリカのハーバード大学基金のポートフォリオは次の通りだ(出典:Annual Financial Report2019-2020 )。
投資の種別 | |
Public Equity(上場株式) | |
Private Equity(非上場株式) | |
Hedge Funds(ヘッジファンド) | |
Real Estate(不動産) | |
Natural Resources(天然資源) | |
Bonds/TIPS(物価連動国債) | |
Other Real Assets(その他現物資産) | |
Cash & Other(現金その他) | |
このポートフォリオを見ると、ハーバード大学基金の投資先は、上場株式、物価連動国債を除く76%がオルタナティブ投資資産に該当することがわかる。
イェール大学基金のポートフォリオも紹介する (出典:Endowment Reports2020 )。
投資の種別 | |
Absolute Return(ヘッジファンド) | |
Domestic Equity(米国株) | |
Foreign Equity(外国株) | |
Leveraged Buyouts(LBO) | |
Natural Resources(天然資源) | |
Real Estate(不動産) | |
Venture Capital(ベンチャー・キャピタル) | |
Cash & Fixed Income(現金と固定収入) | |
イェール大学のポートフォリオでも、米国株、外国株を除く86%はオルタナティブ投資資産である。なお、ハーバード大学は7.3%、イェール大学は6.8%のリターンをあげている。
オルタナティブ投資のメリット、デメリット
世界的に注目され、米国でも存在感を増しているオルタナティブ投資。続いては、このオルタナティブ投資のメリット、デメリットを紹介する。
オルタナティブ投資のメリット
上場株式や債券だけではなく、オルタナティブ投資とされる投資対象も選んで分散投資をすることで、投資にかかるリスクを抑えることができる。特にオルタナティブ投資の投資対象の中には、株式や債券など伝統的な投資対象とは異なる値動きをする資産も多いことから、株価が暴落した際のリスクを低減できる。
また、幅広い投資先から自分に合う投資方法を選択できるのもオルタナティブ投資の魅力だろう。
オルタナティブ投資のデメリット
オルタナティブ投資の対象は種類が豊富であり、複雑な仕組みの商品も少なくない。うかつに手を出すと大きく損をしてしまうリスクがある。また、個人投資家に開放されていない投資先があることや、投資額以上の損失が発生するリスク商品があることもデメリットといえるだろう。
また、前述したように、オルタナティブ投資の投資対象には換金性や流動性が低い商品も多く、このことも投資家によってはデメリットとなるかもしれない。
商品の仕組みをよく理解し、事前にしっかりと情報収集をしたうえで、投資に取り組むようにしたい。
オルタナティブ投資の種類と特徴
株式や債券以外を対象とした投資は基本的にすべてオルタナティブ投資といえる。そのため、オルタナティブ投資の対象商品の種類は幅広い。続いて、オルタナティブ投資対象の代表的な種類と特徴を解説していく。
主なオルタナティブ投資対象1:コモディティ
コモディティとは英語で「商品」という意味だ。原油やガソリン、トウモロコシや大豆など、具体的な商品に投資する。
コモディティ投資はインフレのリスクヘッジとしても効果的だ。インフレが発生してモノの値段が2倍になると、現預金の価値は2分の1になってしまう。しかし、コモディティ投資で商品を保有していた場合、インフレによって価値が上昇する可能性が高い。
最近では美術品や骨董品、ヴィンテージ品、ワイン、高級腕時計などの現物商品に投資する動きもある。
主なオルタナティブ投資対象2:プライベート・エクイティ
プライベート・エクイティ(PE)とは、非上場株式(未公開株)のことだ。
ベンチャー・キャピタルは、未上場のベンチャー企業に資金を提供して成長を促し、株式上場によるリターンを狙う。一方、再生ファンドは、業績不振の企業を立て直し、再上場やM&Aによるリターンを狙う。一般の投資家がプライベート・エクイティに投資する場合、株式投資型クラウドファンディングを利用したり、プライベートバンクから紹介を受けたりする方法がある。
プライベート・エクイティは上場していないことから、従来の投資対象である株式のように、証券会社を通じて売買することができない。基本的には中長期で成長を見守り、上場後に売却してリターンを得ることになる。
主なオルタナティブ投資対象3:ヘッジファンド
オルタナティブ投資というと、ヘッジファンドをイメージする人も多い。ヘッジファンドとは、機関投資家や資産家など大口の投資家から資金を集め、ファンドマネージャーが運用する投資商品だ。
ヘッジファンドの投資先は株式や債券だが、投資家が直接、株式や債券に投資するわけではないため、オルタナティブ投資に分類される。なお、運用を専門家に委託することから、ヘッジファンドには手数料がかかることが一般的だ。
投資先選定を専門家に一任する投資商品といえば、投資信託を思い浮かべるかもしれない。運用を一任するという点でいえば、投資信託とヘッジファンドは同じだが、運用方法に違いがある。
投資信託では、運用指標であるベンチマークを基準に、相対的なリターンの獲得を目指す。ベンチマークとの連動を目指す投資信託をインデックス型といい、ベンチマークを上回る成果を目指す投資信託をアクティブ型というが、いずれにせよベンチマークが基準となっている。
一方、ヘッジファンドはベンチマークに関係なく、絶対的なリターンの獲得を目指す。ファンドマネージャーの判断で市場の下落に備えて株式の保有比率を下げるなど、投資信託より運用の自由度が高いことが特徴だ。
主なオルタナティブ投資対象4:クラウドファンディング
クラウドファンディングは、企業や個人が特定のプロジェクトを立ち上げ、ネットを通じて不特定多数の投資家から資金を募る資金調達手法だ。ネットで広範囲に告知できることから、多くの投資家から資金を募ることができ、プロジェクトによっては一度に多額の資金を調達することが可能となる。
投資家は自身が共感できるプロジェクトに投資することで、プロジェクト終了後にリターンを得ることができる。リターンの種類は多様で、株式投資型のクラウドファンディングでは上場後のキャピタルゲインがリターンになるケースがある。
クラウドファンディングの市場規模は急激に拡大しており、従来の金融システムを補完・代替する存在として注目を集めている。クラウドファンディングによって、企業や個人は金融機関からの融資や株式の上場といった従来の方法以外でも、資金調達ができるようになった。また、投資家にとっても、投資先の選択肢が多様化したといえるだろう。
主なオルタナティブ投資対象5:仮想通貨
仮想通貨は国家による裏付けを持たないインターネット上の通貨のことだ。最初に登場した仮想通貨であるビットコインをはじめ、多くの仮想通貨にはブロックチェーンの技術が採用されている。
仮想通貨は値動きが激しいことで有名で、ほんの数日で価格が数十倍から数百倍、時には数千倍になることすらある。
近年は、ブロックチェーン技術の活用がさまざまな産業で進んでいることから、各ブロックチェーンの基軸通貨である仮想通貨への期待感が高まっている。また、ビットコインをはじめ、多くの仮想通貨では発行上限が定められており、希少性が高まるにつれ、価値が上昇する可能性を秘めている。
仮想通貨の代表格でもあるビットコインは当初、市場が不安定な時の安全資産「デジタル・ゴールド」として注目を集めた。株式など従来の伝統的市場とは異なる値動きを見せたからだ。ただし、株式との相関性が高いか低いかについては、まだ定まった見方はない。
主なオルタナティブ投資対象6:不動産(現物、証券化商品)
不動産投資はオルタナティブ投資の代表格ともいわれている。
不動産投資の主な方法は、融資を受けてマンションや戸建てなどの不動産を手に入れ、第三者に貸し出すことで、家賃収入を得ることだ。また、買った金額より高く売却することで売却益を狙うこともできる。不動産価格が上がり続けたバブル期には売却益を狙う投資手法が多かったが、最近では家賃収入を目的とする投資手法が中心だ。
REIT(Real Estate Investment Trust)など不動産を証券化した商品も登場している。投資家から集めた資金で専門家が複数の不動産に投資を行い、収益を投資家に分配する。不動産投資より少額で始められるのが魅力だ。
不動産は、景気が悪化したからといってすぐに解約されることは少なく、一般的に従来の投資方法と比べて景気に左右されにくい性質を持つといわれている。
主なオルタナティブ投資対象7:金、銀、銅その他の現物商品
金、銀、銅、プラチナといった貴金属投資もオルタナティブ投資の1つだ。貴金属投資はコモディティ投資の一種ともいえる。
「有事の金」という投資の格言があるなど、金は安全資産として投資家の信頼を獲得している。供給量が限られており、常に一定の需要が見込まれることから、経済の先行きが不透明で、株式など従来の投資ではリターンを獲得しにくい時期でも、堅調な値動きを見せるといわれている。
主なオルタナティブ投資対象8:NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)
NFTとは、ブロックチェーン技術を用いた非代替性トークンのことで、デジタルの世界において一点ものの価値を保証する。この希少性の担保により、NFTはアート作品を始めとしたあらゆるデジタルコンテンツに価値を付与することができる。
2021年には、Twitterの創業者が自身の初ツイートをNFTで約3億円で販売し、話題になった。また、NFTを活用すれば唯一無二の存在であることを証明できるため、(NFTによる)アート作品のオークションも実施されている。さらに、オンラインゲーム内のアイテムをNFT化して売買する動きもある。
NFTも仮想通貨と同様、株式や債券など従来の投資商品とはまったく異なる値動きをすることが期待され、オルタナティブ投資として注目を集めている。
オルタナティブ投資の実行方法
続いて、オルタナティブ投資の種類別に、投資を実行するための具体的な方法を解説していく。
オルタナティブ投資の実行方法1:コモディティやヘッジファンド
一般の投資家がコモディティやヘッジファンドへの投資を希望するなら、(コモディティやヘッジファンドを投資先に組み入れている)投資信託やETF(Exchange Traded Funds:上場投資信託)を選ぶという選択肢がある。投資信託やETFなら、少額から始めることができる。まとまった資金があるなら、現物で金を保有するなど、コモディティそのものに投資することもできる。
オルタナティブ投資の実行方法2:PE(Pravate Equity)
上場している株式なら、証券会社を通じて好きなタイミングで売買ができる。しかし、プライベート・エクイティは非上場(未公開)であるため、証券会社を通じて投資することはできない。
個人でプライベート・エクイティに投資する場合、クラウドファンディングを利用する方法がある。株式投資型クラウドファンディングでは、上場していないプライベート・エクイティを取り扱っており、将来性のあるベンチャー企業を探して株主になることが可能だ。その後、上場して株価が上がったタイミングで売却すれば、大きなリターンを得られる可能性がある。ただし、すべての企業が上場するとは限らないことや、譲渡制限が付いていることが多いことには注意しておきたい。
投資家から集めた資金を元手に企業価値を高め、IPO等を通じてリターンの獲得を目指すPEファンドも存在する。PEファンドに投資をするのは、主に機関投資家や富裕層だ。個人投資家ならプライベートバンクを通じてPEファンドに投資する道があるが、口座開設の審査は相当厳しい。
この他に、株主との個人的なつながりから未公開株を譲渡されたり、相続や贈与によって手に入れたり、といった方法もある。あるいは、ストックオプションによって勤めている企業のプライベート・エクイティを取得するケースもある。
オルタナティブ投資の実行方法3:クラウドファンディング
クラウドファンディングを通じて投資をするなら、まず、目当てのクラウドファンディング・プラットフォームを提供する運営企業会社を選び、会員登録、口座開設を行う。その後、興味のあるプロジェクトに申し込み、投資することになる。
オルタナティブ投資の実行方法4:仮想通貨
仮想通貨取引所でさまざまな仮想通貨に投資できる。世界には数千種類の仮想通貨があるといわれている。仮想通貨取引所によって取り扱っている仮想通貨の種類が異なるため、口座開設前に投資したい仮想通貨があるかどうかを確認することが大切だ。
オルタナティブ投資の実行方法5:不動産
不動産物件を探し、金融機関から融資を受けて購入する。購入時より高く売却することを目指すキャピタルゲイン狙いの投資と、物件を貸し出して家賃収入を得るインカムゲインの投資があるが、最近はインカムゲイン狙いが一般的だ。
不動産オーナーとして賃貸経営をする場合、入居者の募集や入居者対応などの管理は、不動産管理会社に一任することができる。
また、現物の不動産に投資する以外に、不動産投資クラウドファンディングを通じて配当を得る方法や、証券会社を通じてREITを購入する方法など、さまざまな投資手法が登場している。
まとめ:オルタナティブ投資でリスク分散
コロナショックによって、分散投資の大切さをあらためて痛感した投資家も多いだろう。そのため機関投資家だけでなく、個人投資家もオルタナティブ投資に関心を寄せている。オルタナティブ投資で幅広い資産に投資し、リスクヘッジをしながら資産形成を目指したい。
手軽に始めるならコモディティ投資信託や不動産投資信託、クラウドファンディングも
すぐにオルタナティブ投資を始めたいと考えるなら、投資信託でコモディティに投資したり、REITで不動産に投資するのがいいだろう。投資信託やREITであれば、流動性のリスクもないため、始めやすいといえる。クラウドファンディングも少額で始めやすいものが多い。
比較的リスクが高めの商品が多い
オルタナティブ投資の中には、リスクの高い商品もある。たとえば、不動産投資をする時は、不動産仲介会社が作成した事業計画等を十分に確認し、慎重に物件選びをする必要がある。また、仮想通貨やNFTは新しく登場した投資対象であり、値動きが激しいことから、余裕資金で運用することを徹底したい。
リスク管理を重視してオルタナティブ投資に取り組むことが大切だ。