株式投資を行う上では、現状の株価がどのような水準にあるのかを示す「株価指標」の読み解きが重要です。さまざまな指標の中でも、株価の割安度を計る「PER(株価収益率)」は、今後の値動きを予測する上で大切な材料の1つとなります。PERの考え方や目安・注意点を確認し、投資判断に活かしていきましょう。
目次
1.PERとは
代表的な株価指標のひとつである「PER(株価収益率)」は、株価の割安度を計る指標の1つです。ここではまず、PERの概要とPBR(株価純資産倍率)との違いを確認しましょう。
1-1 PERの概要
PERとは、「株価が、1株当たりの利益の何倍になっているか」を表す指標です。PERは、以下の式で算出します。
PER(株価収益率)= 株価÷1株当たり利益(※) ※1株当たり利益(EPS)は、「当期純利益÷発行済株式数」で算出 |
一般的に、PERが低い銘柄は割安、PERが高い銘柄は割高と判断されます。例えば、PERが10倍の銘柄AとPERが20倍の銘柄Bがあったとしましょう。この場合、銘柄Aのほうが割安でお買い得な株だと考えられます。
またPERは、1株の利益だけで投資資金を回収するのに、現状で何年かかるかを示している数値でもあります。上記の例でいうと、PERが10倍の銘柄Aは投資資金を10年で回収できるのに対し、銘柄Bは20年かかると判断することができるわけです。
PERは自分で算出する以外に、株価情報サイトなどのツールで確認できます。PERは株価が算定材料となるため日々変動することから、最新の株価で算出している証券会社などの株価情報ツールを利用するのがよいでしょう。
1-2 PERは市場関係者の“期待”が反映された数値
PERは株価の割安・割高を表す一方で、市場関係者の“期待”が反映される指標でもあります。そのため、低いから割安、高いから割高と一概にいえない点には注意が必要です。PERを見る際には、どのような理由でその数値になっているかまで読み込む必要があるでしょう。
PERには、なぜ市場関係者の“期待”が反映されるのでしょうか。それは、PERが株価をもとに計算されることと、株価が需要と供給によって変動することが挙げられます。
株価をもとに算出されるPERは、株価が高いほどPERが高く、株価が低いほどPERが低くなります。仮に1株当たりの利益が100円の銘柄があったとしましょう。株価が1,000円の場合のPERは10倍(1,000円÷100円)です。株価が2,000円だと、PERは20倍(2,000円÷100円)となります。
PERの計算に使用される株価は、市場の需要と供給により変動します。一般的に今後の企業活動に期待できるなら買い(需要)が増え株価が上がり、期待薄となれば売り(供給)が増え株価が下がります。
このように、投資家の期待値が高く買われている銘柄は高PERとなり、期待値が低く売られている銘柄はPERが低くなるのです。
1-3 PBRとの違い
PERと同様に、株の割安・割高を示す株式指標に「PBR(株価純資産倍率)」があります。PBRは、直前の本決算期末の1株当たりの純資産に対して株価が何倍まで買われているかを示すものです。PBRは、以下の式で算出します。
PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株当たり純資産(※) ※1株当たり純資産(BPS)は、「純資産÷発行済株式数」で算出 |
PERとPBRの違いは、下表のとおりです。
▽PERとPBRの違い
PER | PBR |
---|---|
・1株当たり利益をもとに算出 ・予測値での算出になる ・変動が大きい | ・1株当たり純資産をもとに算出 ・確定値で算出できる ・変動が小さい |
1株当たり利益で算出するPERは、今期もしくは来期予想など、予想される業績を用いて計算するため、結果は予測値(「予想PER」)となります。過去の実績をもとに計算する「実績PER」もありますが、株式市場は将来の業績を反映して動くため、予想PERを利用するのが一般的です。また、1株当たり利益は企業の業績によって毎年変わるため、PERは変動幅が大きくなる特徴があります。
これに対し、PBRはこれまでに築いてきた資産をもとに算出するため、確定値を出すことが可能です。また企業の資産額は短期間で大きく上下するとは考えにくいため、PERと比比較して変動幅は小さくなるのが一般的です。
2.株式投資でPERを見るメリット、デメリット、注意点は?
割安・割高や市場の期待感を計れるPERは、投資前にチェックするべき指標の1つです。より有効に活用するために、PERのメリットと注意点を確認しておきましょう。
2-1 メリット:指標として比較しやすい、株価予想に活用しやすい
PERを株式投資に活用するメリットは、計算が比較的簡単で誰でも利用しやすい点です。株価と1株当たり利益で算出するPERは、公開されている情報で計算でき、投資初心者でも参考にしやすい指標だといえます。勘や運に頼るのではなく、情報やデータを活用した株式投資を目指すための第一歩になる指標と言えるでしょう。
2-2 デメリット:指標だけでは投資に活かしづらい
PERを株式投資に用いるデメリットは、業績により数値が大きく上下する点です。突発的な損益の発生により、一時的にPERが上がったり下がったりすることは知っておくべきでしょう。特に、実績PERと予想PERに大きな差がある場合には、その原因についてしっかり考える必要があります。
2-3 注意点:低いから良い、高いから悪いとはいえない
PERを確認することで株の割安・割高がわかりますが、それだけで購入銘柄を決めるのは危険です。
1-2で述べたとおり、PERは市場の期待値が反映されています。そのためPERが低い銘柄の中には、“割安でおトク”なのではなく、市場関係者の期待が低く成長が見込めない企業が含まれることもあるのです。反対に、割高で投資に適さないとされるPERが高い銘柄の中には、市場の期待が高くさらなる業績アップが見込まれるものもあります。
なぜ、低PERに放置されているのか、なぜ高PERまで買われているのかなどを考える習慣をつけましょう。PERを投資に活用するときには、数値のみを見るのではなく指標を構成する要素を読み解くことが重要です。
3.PERはどうやって見ればいいのか?目安は?
低ければ割安、高ければ割高といわれるPERですが、どのくらいの値を基準に見ればよいのでしょうか。PERを見る際のポイントと併せて紹介します。
3-1 PERの目安は?日経平均株価のPERとは
PERは一般的に15倍を目安とし、15倍より低ければ割安、高ければ割高とされます。一例として、日本の代表的な株価指数のひとつである日経平均株価のPERを下表に紹介します。
▽2021年6月における日経平均株価のPER
日にち | 指数ベース:倍 |
---|---|
6月1日 | 16.16 |
6月2日 | 16.23 |
6月3日 | 16.29 |
6月4日 | 16.22 |
6月7日 | 16.27 |
6月8日 | 16.23 |
6月9日 | 16.18 |
6月10日 | 16.23 |
6月11日 | 16.23 |
日経平均株価は、東証1部に上場する約2,200銘柄から業種などの偏りなく選定された、225銘柄の平均株価です。上表の数値からも、PERの判断の目安を15倍程度とすることは妥当であるといえるでしょう。
3-2 PERが高い業界、低い業界
PERを考える上での重要なポイントに、企業が属する業界よってPERの水準に差がある点が挙げられます。PERをチェックする際には、その企業が属する業界の水準がどのくらいなのかも併せて確認しましょう。
長期的に安定した利益が期待される、食品や医療品といったディフェンシブ業界はPERが高い傾向にあります。これに対して、景気の影響を受けやすい銘柄や株価の値動きが大きい業界のPERは低い傾向にあります。
では、各セクターにおけるPERの水準は具体的にどのくらいなのでしょうか。2021年5月の東証1部上場銘柄の業種別PERを下表に紹介します。PERを見る際の参考にしてみてください。
▽2021年5月 東証第一部業界別PER(加重平均)
業種 | PER(倍) | 業種 | PER(倍) |
---|---|---|---|
1.水産・農林業 | 15.2 | 18.精密機器 | 48.3 |
2.鉱業 | ― | 19.その他製品 | 26.8 |
3.建設業 | 9.5 | 20.電気・ガス業 | 10.6 |
4.食料品 | 24.1 | 21.陸運業 | 16.8 |
5.繊維製品 | 21.4 | 22.海運業 | 20.9 |
6.パルプ・紙 | 11.8 | 23.空運業 | 30.3 |
7.化学 | 28.9 | 24.倉庫・運輸関連 | 16.6 |
8.医薬品 | 28.4 | 25.情報通信業 | 37.5 |
9.石油・石炭製品 | ― | 26.卸売業 | 13.6 |
10.ゴム製品 | 89.1 | 27.小売業 | 54.1 |
11.ガラス・土石製品 | 22.8 | 28.銀行業 | 10.4 |
12.鉄鋼 | ― | 29.証券・商品先物取引業 | 14.1 |
13.非鉄金属 | 55.0 | 30.保険業 | 15.6 |
14.金属製品 | 27.6 | 31.その他金融業 | 12.0 |
15.機械 | 30.4 | 32.不動産業 | 17.1 |
16.電気機器 | 38.2 | 33.サービス業 | 51.7 |
17.輸送用機器 | 24.5 |
3-3 企業の成長フェーズによって、PERの数値は異なる
また、企業の成長フェーズによってもPERは変動します。成長フェーズによるPERの推移傾向を、下表にまとめます。
▽企業の成長フェーズによるPERの推移
成長フェーズ | PERの傾向 | ||
---|---|---|---|
創設・成長期 | 高めになる | ||
成熟期 | 創設期よりも低め | ||
衰退期 | 低めになる |
設立直後から大きな利益を出せる企業は多くありません。事業を軌道に乗せるための設備投資といった費用などがかかることもあり、創設・成長期の純利益は低い企業が多くPERは高めとなります。
設立から一定の期間が経過すると、企業は成熟期に入ります。成熟期には、安定した純利益を出し続ける企業も多いでしょう。それにより、創設期と比べPERは低めに落ち着く傾向にあります。そして、企業の衰退期には利益が減っていくことに加え、市場の期待値も下がるためPERはさらに低くなっていくのです。
3-4 低PERの罠
PERが低い銘柄を見付けても、即座に購入するのは避けたほうが良いでしょう。購入を決めるにあたっては、PERが低くなっている理由を確認するべきです。PERが低くなる理由には、おもに以下の3つが挙げられます。
- 業績が好調にもかかわらず、株価が評価されていない
- 市場関係者の期待値が低く、人気がない(需要が少ない)
- 業績アップの見込みが少ない衰退期である
1の理由で低PERとなっているのであれば、今後株価が上がる可能性がある銘柄と考えられます。2や3の理由でPERが低い銘柄の場合には、株価の上昇はあまり期待できません。場合によっては、現在よりも株価が大きく下がる可能性もあります。PERを上手に活用するには、なぜその数値になっているかまで考えることが重要です。
4.PERは株式投資にどう活用する?
PERを上手に取り入れた株式投資をするには、単純に各銘柄のPERを比較するだけでは足りません。PERを利用した目標株価の考え方や、PERの読み取り方を知ることでより有益な情報として投資に活用することができます。
4-1 目標株価の考え方
株式投資で継続的に利益を上げていくには、目標株価について投資家独自の考えを持っておくことが重要です。
株式投資では、購入時よりも高い価格で株を売却することで売却益を得られます。より低い株価で購入し高値で売却できれば、多くの売却益を得られるでしょう。しかし実際には最安値や最高値を判断するのは難しく、最大の利益の獲得はプロでもできません。株式投資で重要なのは、大きな利益を狙うよりも少しずつでも確実に利益を積み上げていくことです。
確実な利益の積み上げに重要なのは、目標株価を参考にした無理のない売買です。
目標株価とは、業績や市場の動向などをもとに示される妥当な株価のことをいいます。証券会社や投資顧問会社などが独自の調査をもとに発表していますが、予想される株式指標などを用いて投資家自身で計算することもできます。目標株価の計算式は、以下のとおりです。
目標株価=現在の株価×(平均PER÷現状PER)×(予想EPS÷実績EPS) |
*平均PERは、目標株価を算出したい銘柄の業種別や規模別の平均PERを用います(東証ホームページなどで確認できます)
*現状PERは、目標株価を算出したい銘柄のPERを用います
*予想EPSは、最終利益の予想値を発行済み株数で割って求めます
たとえば、A社の現状PERが15倍、A社が属する業種の平均PERが20倍とします。平均PERは現状PERの約1.3倍(20÷15≒13)になっていますから、A社の株価も1.3倍くらいは上昇するだろうと予想することができます。現在、A社の株価が1,000円なら1,300円くらいまで値上がりするだろうと予測できるわけです。
続いて、予想EPSを実績EPSで割れば、ある種の業績成長率が求められます。これに先ほど算出したPERの伸び率を考慮して、1つの目安としての目標株価を求めることができます。
目標株価を投資の参考にするには、企業が発表している決算書やビジネスモデルなどをよく見て、自分なりの投資判断を身につけていくことが重要なポイントとなります。
4-2市場関係者の“期待”の意味を深堀りしよう
1-2で解説したPERに反映される“期待”は、業績や資産額などのように数値として目に見えるわけではありません。PERから読み取れる市場関係者の“期待”には、どのような意味があるのか深堀りしていきましょう。
PERが示す期待は、あくまでも今期の業績と株価をもとに算出されるものです。つまり、将来に渡り続く数値ではありません。例えば、現時点でPERが高い企業であっても、将来的に業績が追いつけば徐々にPERは低くなります。また、現在は業績が赤字でPERが算出できない銘柄の中には、将来的に大きな成長が見込まれる企業もあるでしょう。
PERで測れる期待値は現時点のものであることを念頭に置き、数年後のPERの推移も予測して購入銘柄を決めていくことが投資成功のポイントとなるでしょう。
5.株式市場のサイクルでPERの評価も変わる
低PERと高PERのどちらが有望な銘柄かは、株式市場のフェーズによっても異なります。
例えば、2020年以降のコロナ相場ではグロース株が大きな成長を遂げました。今後の経済や業績予測が立てにくい状況の中では、企業のビジョンやビジネスモデルなどが魅力的な銘柄が買われたからです。グロース株とは成長期待が高まっている銘柄のことで、現在の株価の高低は問いません。つまり、2020年以降の相場では、市場での期待が高い高PER銘柄が多くの投資家から選ばれたのです。
今後、市場フェーズがバリュー相場へと移った場合には、割安株とされる低PERの銘柄が再び脚光を浴びることもあるでしょう。このように、低PERと高PERのどちらの銘柄を買うべきかは、相場のトレンドによっても変わってきます。
6. 指標に踊らされず、深堀りと複数の視点をもって活用しよう
PERは、株価の割安・割高を表す株式指標のひとつです。予想PERだけでなく、実績PERや同業他社のPERと比較検討し投資の参考にしましょう。高PERと低PERのどちらの銘柄が有力な投資先となるかは、企業の成長フェーズや相場のトレンドによっても異なります。単純にPERの数値を見るだけでなく、その数値が含む意味まで深堀りすることで、PERをより有効に活用した株式投資を実現させましょう。
(提供:SmallCap ONLINE)