EBITDAは、企業の利益水準を示す経営指標です。税金や支払利息・減価償却費などが影響しない利益額を算出できるため、国内だけでなく国際的な競争力を計る際にも使われます。本記事ではEBITDAのメリットとデメリット、活用方法などを解説します。計算方法について理解し、収益力が高い銘柄への投資を目指しましょう。
目次
1.EBITDAとは?
EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は、企業の利益水準を示す経営指標で、収益性を分析する際に使われます。定まった呼び方はなく、「イービットディーエー」「イービットダー」「イビッダ」などさまざまです。EBITDAは、支払利息や税金・減価償却を差し引く前の、企業活動で得たキャッシュベースの利益を求める際に利用されます。
減価償却とは、対象となる資産の購入費用を一括計上ではなく、耐用年数に応じて毎年分割で計上する会計処理のことです。また、実際に計上する費用を減価償却費といいます。たとえば、150万円の自動車を購入した場合、耐用年数の6年で減価償却(定額法といいます)すると毎年の減価償却費は25万円です。
1-1 EBITDAと企業の利益について
EBITDAを考えるにあたっては、まず損益計算書に記載される以下の5つの利益について理解しておくことが大切です。
▽損益計算書に記載される企業の利益
利益の種類 | 特徴 |
---|---|
売上総利益 | ・売上高-売上原価 ・粗利益ともいわれる |
営業利益 | ・売上総利益-販売費および一般管理費 ・本業による儲けをあらわす |
経常利益 | ・営業利益+営業外収益-営業外費用 ・企業活動をするうえで、通常発生する収益と費用が計算対象となる |
税引前当期純利益 | ・経常利益+特別利益-特別損失 ・法人税などの税金を差し引く前の利益 |
当期純利益 | ・税引前当期純利益-法人税、住民税および事業税±法人税等調整額 ・最終的な経営成績を示す |
EBITDAと同様に、企業活動で得た利益を計る指標が「経常利益」です。このうち営業利益は、本業で稼いだ金額を示します。営業利益は、売上総利益から販売費および一般管理費を差し引いて求めるため、減価償却費は含まれません。
1-2 営業利益の弱点をカバーする指標
営業利益とEBITDAの大きな違いの1つが、減価償却費を含めるかどうかです。
減価償却費はすでに支払ってしまっている資産を分割して計上していく会計上の概念のため、実際に現金の支出は行われません。そのため減価償却費がある企業は、営業利益と実際の利益額に乖離が生まれることがあります。
とくに、設備投資などで減価償却費が大きくなった企業では、キャッシュベースで稼いだ金額よりも営業利益が小さくなってしまうことも少なくありません。このように減価償却費を差し引くことで生まれる会計上と、キャッシュベースとの数字の乖離を防ぐのがEBITDAです。
2. EBITDAを利用するメリットとデメリット
EBITDAは営業利益をもとに、よりキャッシュベースな利益を捉えることができる指標です。ここでは、株式投資においてEBITDAを利用するメリットとデメリットを挙げてみましょう。
2-1. メリット1:計算が簡単であり、財務諸表をもとに計算できる
営業利益や減価償却費を用いて計算するEBITDAは、財務諸表をもとに誰でも比較的簡単に計算できます。決算書を読むのが苦手な人や計算が不得手な人でも、利用しやすい指標です。
2-2. メリット2:国や企業によるバラつきを無視することができる
EBITDAは、利息や税金・減価償却費を含めて“利益”とします。そのため国や企業によるバラつきに惑わされない利益の比較が可能です。
利息や税金・減価償却費は、国や企業によって差があります。仮に売上総利益が同じ場合でも、借入金利や法人税率の大きさが違う国では、当期純利益計算時に差が生まれます。国や企業によって生じる差を抑えて企業の価値を判断できるのが、EBITDAの魅力だといえるでしょう。
2-3. デメリット1: M&Aなどにより生じた「損失」をマイナス要因として扱えない
EBITDAのデメリットは、過剰な設備投資やM&A(企業の合併・買収)による「損失」を考慮できない点です。企業を発展させていくために、ある程度の設備投資は必要です。しかし、大きすぎる設備投資は、経営を圧迫する原因となりかねません。過剰な設備投資により経営状態が悪化しているケースでも、EBITDAには反映されない点には注意しましょう。
2-4. デメリット2:設備投資や運転資本を考慮していない
設備投資や運転資本・税金といった、企業が継続的に活動していくために必要な資金が考慮されていない点も注意が必要です。EBITDAの金額が大きくても、設備投資や運転資本がかさんでいる企業は、企業活動を続けていくのが難しいケースもあります。
3.EBITDAの計算方法
EBITDAは、財務諸表の数字から計算できます。1-1で紹介した企業の利益を参考に、確認してみましょう。EBITDAには、以下の3つの計算方法があります。どの利益をもとに計算されているかで数値が異なるため、違いをよく理解することが重要です。
・計算式1:EBITDA=当期純利益+税金+支払利息+減価償却費
計算式1は、最終的な経営成績である当期純利益を使った計算です。当期純利益に、税金と支払利息、減価償却費を足して求めます。
・計算式2:EBITDA=営業利益+減価償却費
計算式2は、本業の儲けを表す営業利益に減価償却費を足して求めます。EBITDAを求める式の中では、最も簡単な方法です。
・計算式3:EBITDA=経常利益+支払利息+減価償却費
計算式3は、経常利益を用いた計算方法です。経常利益は営業利益と異なり、本業以外の利益も含まれます。
3-1 EBITDAマージンとは?
EBITDAを活用した指標の1つに、EBITDAマージンがあります。EBITDAマージンは、売上からどのくらいのEBITDAを生み出せるかを示すもので以下の式で算出します。
EBITDAマージン=EBITDA÷売上高
EBITDAマージンは事業収益の効率性を計る数値であり、高いほど収益力がある会社だとされます。EBITDAマージンを活用すれば、国や業種に関係なく企業の収益性を見ることができるでしょう。また、企業の数年分のEBITDAマージンを確認すれば、減価償却費などに惑わされない本業での収益力の推移を確認できるメリットがあります。
3-2 EV/EBITDA倍率とは?
EV/EBITDA倍率は、簡易買収率を示す指標です。「ある企業の買収価格を回収するのに、何年かかるか」を表しています。EBITDAマルチプルとも呼ばれ、M&Aの際に企業価値を計る指標として活用されるのが一般的です。EV/EBITDAを計算するにはまず、EV(企業価値または事業価値)について考える必要があるでしょう。EVの計算式は、次のとおりです。
EV=株式時価総額+有利子負債-現金および現金同等物+少数株主持分
EVは、負債を含めた企業全体にどのくらいの価値があるかを示す数値です。これは「株主と少数株主・債権者に帰属する価値の合計がどのくらいか」といい換えることもできます。EVの意味や求め方がわかったら、以下の式でEV/EBITDAを計算してみましょう。
EV/EBITDA倍率=EV/EBITDA
・EV/EBITDA倍率とは企業価値(EV)がEBITDAの何倍かを表す指標
EV/EBITDAは、企業価値がEBITDAの何倍かを示す数値です。たとえば、EVが50億円でEBITDAが10億円の企業のEV/EBITDAは5倍(50億円÷10億円)と計算できます。
・M&Aなどにより企業の買収にかかるコストを回収できる年数を表す
EV/EBITDAは、M&Aの投資評価基準としても利用されます。M&Aにあたり、どのくらいの金額までなら出せるのかなどを検討する材料としても活用できるでしょう。
評価基準として用いる際にポイントとなるのは、EV/EBITDAは“実績”をもとに算出されるという点です。
倍率が低いなら割安、高いなら割高といわれますが、これはあくまでも過去の業績を数値化したにすぎません。M&Aには双方の企業の弱点を補い長所を伸ばすことで、企業のさらなる成長を目指す目的があります。M&Aが成功すれば、現在よりも大きな業績を上げられる可能性もあるでしょう。
そのため、双方に多大なシナジー効果(相乗効果)があるのなら、EV/EBITDAが高くてもM&Aが成立するケースもあります。
4.EBITDAはどうやって活用する?
EBITDAは、前項で説明したとおりM&Aの判断材料としても多く用いられる指標です。では、株式投資にEBITDAを活用するには、どのようにしたらよいのでしょうか。注意点とあわせて解説します。
4-1 海外企業との比較ができる
EBITDAの一番の魅力は、海外企業との比較ができる点です。1-3で解説したとおり、借入利息や税金は国により異なります。一例として、法人税(法人実行税率)の国際比較を以下に紹介します。
▽法人税の国際比較
日本 | ドイツ | フランス | 米国 | カナダ | イタリア | 英国 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
法人 実行税率 | 29.74% | 29.93% | 26.50% | 27.98% | 26.50% | 24.00% | 19.00% |
日本とドイツ・フランス・米国では、法人税にそれほど大きな差はありません。しかし、日本と英国では10%以上の差があります。日本と英国の企業利益について税金を差し引いた値で比較すると大きな差が出ることになるでしょう。とくに利益額が大きな企業において、10%の違いは大きな金額になることも考えられます。
そのような状況では、企業の価値を正確に比較することはできません。これは、借入金の利率に関しても同様です。EBITDAを活用すれば、借入金や利率の違いの影響を抑えて企業価値の比較検討ができます。そのため海外の競合他社との収益性の比較や、海外拠点の業績評価・海外企業とのM&Aの検討には、EBITDAが有効な判断材料となるでしょう。
4-2. 初期投資や減価償却費の多い企業の本業の評価ができる
EBITDAは初期投資(開業資金)や設備投資が多い企業の、本業での業績を評価するにも適しています。事業をスタートさせるにあたってのおもな開業資金には、以下が挙げられます。
・法人設立費
・事務所や店舗の開設費用
・従業員の採用経費
・車両購入費用
・初期在庫購入費用
・機械購入費用
・宣伝広告費 など
どのくらいの費用がかかるかは、業種によって異なります。たとえば、コンサルティング業など個人事務所で開業する場合や、ライターやデザイナーなどパソコン1つで起業できる業種は、初期投資は少なくすむでしょう。一方で、物品販売をする小売業は、初期の在庫購入費用や在庫保管場所、送料などがかかるため初期費用がかさみがちです。
製造業では、製品を作る機械購入費用や原材料費、製品の保管場所など、さらに多くの初期費用がかかることも予想されます。このように、業種によって金額に開きがある初期費用や設備投資の影響を抑えて営業利益の比較ができるのが、EBITDAの特徴です。
5. EBITDA活用時の注意点
EBITDAを活用するには、いくつかの注意点があります。最後に、EBITDAを上手に使うために知っておくべき2つのポイントを見ていきましょう。
5-1. EBITDAは正確なキャッシュフローを表しているわけではない
ポイントの1つ目は、正確なキャッシュフローとは異なる点です。EBITDAとキャッシュフローの違いを知るにはまず、キャッシュフローについて理解しておく必要があります。
キャッシュフローとは、1年間のお金の流れを記した財務諸表です。キャッシュフローは、以下の3つで構成されます。
▽キャッシュフローの種類
キャッシュフロー名 | 内容 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | 本業における資金の動きが記されており、企業の営業活動による資金繰りがわかる |
投資活動によるキャッシュフロー | 設備投資など、企業の成長のために投資した資金の動きがわかる |
財務活動によるキャッシュフロー | 企業がどのように資金調達したかがわかる |
EBITDAと比較されるのは、フリーキャッシュフローと呼ばれる指標です。フリーキャッシュフローは、以下の式で求めます。
フリーキャッシュフロー
=「営業キャッシュフロー」-「投資キャッシュフロー」
営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いたフリーキャッシュフローは、一見するとEBITDAと同様に思えるでしょう。しかし、フリーキャッシュフローとEBITDAには、以下の違いがあります。
▽フリーキャッシュフローとEBITDAの違い
EBITDA | フリーキャッシュフロー |
---|---|
利息計算や設備投資費の計上、税金計算などを済ませる前の本業での収益 | 利益計算や設備投資費の計上、税金計算などを済ませた後に手元に残る現金 |
EBITDAは、本業で稼いだ利益の額を知るのに便利です。一方、実際に手元に残るお金や詳細なお金の出入りを知るには、やはりキャッシュフローもあわせて確認する必要があるでしょう。
5-2.投資後の効果を評価するには有用だが、効果しかわからない
EBITDAは、投資後の効果を評価するには有用な数値といえるでしょう。なぜなら、EBITDAが本業による利益額を端的に表しているからです。しかし、実際にどのようなお金の動きがあったかは、EBITDAだけでは知ることができません。返済が難しいくらいの借り入れや過剰な設備投資があったとしても、EBITDAには反映されないのです。
経営状態が健全で収益力がある企業を探すには、EBITDAとあわせてキャッシュフローも確認し、細かい資金繰りまで深掘りすることが重要になります。
6.1つの指標に振り回されないようにしよう
本業で稼いだ金額を示すEBITDAは、収益力の高い銘柄を選ぶ材料として株式投資でも活用されます。EBITDAの特徴は、利息や税金、減価償却費が差し引かれない点です。国外や業種の異なる企業と業績が比較できる一方、事業への投資実態がわからないといった問題点もあります。株式投資の材料としてEBITDAを利用する際にはキャッシュフローもあわせて確認し、さまざまな視点から企業を評価することが肝心です。
文・N.ヤマモト
(提供:SmallCap ONLINE)