「クジラ」と称される日本の年金運用機関GPIFとは?ポートフォリオを確認
(画像=琢也 栂/stock.adobe.com)

巨大な資金力から「クジラ」と呼ばれるのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だ。市場を左右するGPIFは、どのようなポートフォリオで運用しており、運用状況はどうなっているのだろうか。本稿では、GPIFという組織の概要を紹介し、併せてGPIFが運用方針の基本とする長期分散投資のメリット・デメリットについて考える。

GPIFとは何か、その役割を解説

GPIFは、Government Pension Investment Fundの略で年金積立金管理運用独立行政法人のことだ。厚生年金保険事業および国民年金事業の安定に資することを目的に組織された独立行政法人である。1961年11月25日に年金福祉事業団として設立され、1986年4月18日に年金資金運用事業を開始した。2006年4月1日に年金積立金管理運用独立行政法人となり、現在に至っている。

日本の金融市場が「5頭のクジラ」と呼んでいるのは、以下の機関だ。

  • 日本銀行
  • 共済年金(国家公務員共済年金、地方公務員共済年金、私学共済年金)
  • ゆうちょ銀行
  • かんぽ生命保険
  • GPIF

上記5機関の運用資産規模は大きく、なかでもGPIFは2021年度第1四半期末現在の運用資産額が191兆6,189億円におよび、「世界最大の機関投資家」と呼ばれている。国民の年金資金を預かって運用している以上、失敗は許されないため、GPIFは「資産」「地域」「時間」を分散して投資することを基本方針としている。

GPIFの運用目標

GPIFの長期的な運用目標は、公的年金の保険料収入と年金給付が賃金水準の変化に応じて変動することを見込んだ「賃金上昇率+1.7%」である。GPIFのウェブサイトによると、「このような収支構造の中で年金積立金の運用が年金財政の安定に貢献するためには、長期的に賃金上昇率を上回る運用収益を確保する必要がある」とのことだ。

2001年度から2021年度第1四半期までの累積収益は、年率約3.7%の運用利回りを確保している。しかしこれは名目運用利回りとなるため、実質利回りは賃金上昇率を考慮して計算しなければならない。例えば、この期間の名目賃金上昇率が0.15%だったとすれば、実質利回りは3.7%-0.15%=3.55%だ。反対に賃金上昇率が-0.15%だった場合、実質利回りは3.7%+0.15%=3.85%となる。

仮に賃金上昇率を1.0%と見込んでも1.0%+1.7%=2.7%あればGPIFの運用目標は達成できるので、現状の年率3.7%の運用利回りを今後も維持できれば、年金積立金は比較的余裕を持って運用することが期待できるだろう。

市場を左右するGPIFのポートフォリオ

市場を左右するといわれるGPIFは、どのようなポートフォリオを組んで運用しているのだろうか。GPIFは、長期的な観点からポートフォリオを策定している。資産内容は、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式をそれぞれ25%という構成だ。このポートフォリオは、第4期中期目標期間(2020年4月1日からの5年)における保有比率である。

第1期中期目標期間(2006~2009年度)のポートフォリオは、国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%、短期資産5%というリスクをあまりとらない構成であった。第1期は、株式の比率が国内外を合わせても20%と低かったが、第4期では50%と半分を占めるまでになった。逆に国内債券は、低金利を反映して縮小の一途をたどっている。

このようにGPIFは、その時点の金融情勢を加味してポートフォリオを最適化してきた。これが運用資産を大きく増やしてきた要因の一つといえるだろう。

<GPIFポートフォリオの推移>

「クジラ」と称される日本の年金運用機関GPIFとは?ポートフォリオを確認

出典:GPIF公式サイト「基本ポートフォリオの考え方」より株式会社ZUU作成

気になるGPIFの運用状況

上記ポートフォリオをもとにGPIFの運用状況はどのようになっているのだろうか。2021年度第1四半期の期間収益は+4兆9,819億円で、うち利子・配当収入で1兆612億円、期間収益率は+2.68%だった。一方で、GPIFの2001~2021年度第1四半期までの累積収益は+100兆3,182億円で、うち利子・配当収入が41兆2,152億円である。

収益率は、年率+3.70%となっており優秀な運用成績といってよいだろう。またGPIFは、2017年度から複数のファンドに分散投資する「オルタナティブ資産運用」の充実も図っている。オルタナティブ資産とは、株式や債券以外の代替資産のことをいう。GPIFが運用しているオルタナティブ資産は「インフラストラクチャー」「プライベート・エクイティ」「不動産」などである。

運用を充実させた結果、オルタナティブ資産の時価総額は2014年3月の約2億円から2021年3月には約1兆3,419億円まで拡大している。

長期分散投資のメリット・デメリット

GPIFは、長期分散投資を基本としている。その方法には、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。

長期分散投資のメリット

株式の運用は、短期のピンポイントで見ると、リーマンショックやコロナショックなどで一時的に大きく評価益を減らすことも少なくない。しかし株式・債券ともに長期的視点で見れば、世界の経済成長に合わせてほぼ右肩上がりで資産価値が上昇している。これが「時間分散」のメリットだ。1969年12月末に100万円を投じそのまま保有した場合、2020年12月末の資産は以下のとおりだ。

  • 外国株式:3,898万円(39倍)
  • 国内株式:2,255万円(23倍)
  • 国内債券:1,264万円(13倍)
  • 外国債券:570万円(6倍)

どの商品も大きく資産価値を伸ばしており、その増加率は6~39倍もある。国内外の株式の上昇が大きいため、「それならすべて株式に投じればよいのでは?」と感じる人もいるだろう。しかし株式は、下落したときの幅が大きいケースがある。下のグラフを見ると、国内債券は株式が暴落した期間もほぼ横ばいで影響が少なかったことが分かる。つまり債券がポートフォリオを下支えしていたと言えるだろう。これが「資産分散」のメリットである。

「クジラ」と称される日本の年金運用機関GPIFとは?ポートフォリオを確認

出典:GPIF公式サイト「長期的観点からの運用」

もう一つの大きなメリットが「複利効果」だ。買った銘柄からは、毎年配当金や利子が入り元本に加算される。1969年から2020年までの51年間では、1970年代のニクソンショックやオイルショック、1990年代初頭のバブル崩壊、2000年代初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のコロナショックなど国内外で大きな市場の下降局面はあったものの、長期的に見れば金融商品の価格はこれらの下落局面を乗り越え上昇してきたためにかなりの複利効果が発生したことになるだろう。これが短期投資にはない長期投資の大きなメリットである。

長期分散投資のデメリット

長期分散投資のデメリットは短期投資のように上昇した銘柄を機動的に売却することができないことだ。そのため大きな利益を上げるチャンスを逸することがある。GPIFのような機関投資家ならともかく、個人投資家にとってはみすみす大きく儲かるものを長期保有にこだわって売却できないのはデメリットに感じるかもしれない。

また、投資期間の最終段階で大きな市場の下降局面にあったり、分散の方法を誤ると損を拡大させてしまったりすることがある点もデメリットだ。

個人投資家にとって参考になるGPIFの投資手法

GPIFは、日本の年金資金を預かっているため、運用方針に則って安定した運用を行ってきた。2017年以降は、運用の高度化に向けてESG投資にも取り組んでいく方針だ。年金資金の成長だけでなくESG投資で社会に貢献することも目指すGPIFは、今後も金融市場における「クジラ」としての存在感を増していくだろう。

GPIFの長期投資を基本とした堅実な投資手法は、個人投資家にとってもおおいに参考になるといえるのではないだろうか。

(提供:manabu不動産投資

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