低金利が続いていることもあり、首都圏のマンション市場は依然として堅調だ。2020年はコロナ禍の影響があったものの、2021年上半期のマンション供給件数は前年同期比77.3%増と回復傾向にある。ファーストコーポレーションは首都圏を中心に中規模分譲マンションの開発・建設を行っている。10月に発表された2022年5月期第1四半期決算では、売上高が前年同期比169%増の100億6800万円、営業利益が同446.5%増の6億2100万円の大幅増収増益を達成。通期業績予想も増収増益を見通している。設立から10年の節目を迎え、新たな事業領域に踏み出す同社の中村利秋社長に話を聞いた。
企画から建設まで一貫受託
「造注方式」が好採算性支える
首都圏を中心に1棟200戸程度の中規模分譲マンションを建設する同社の強みは、業界では珍しい「造注方式」の採用だ。これは自社で資金調達し土地を取得、建設プランを作成して、不動産会社などに売却し、受注する方式。同社は市場調査から用地取得計画、企画を自社で行い、大手ゼネコンに用地取得を含む事業企画を持ち込む。そこで合意が得られたら正式に対象用地を取得し、大手ゼネコンに売却する。
「特命で既存建物の解体工事から新たな建物の建設までを一貫で請け負うので、1つの案件で不動産と、工事の2段構えで利益を生み出せる。こちらから計画を持っていくので、通常の入札方式に比べて計画も工事もこちらで主導権を握りやすいメリットがあります。さらに工事代金の支払い条件についても交渉できるので、代金回収まで時間がかかりすぎないようリスク分散をすることが可能です」(中村利秋社長)
この「造注方式」を支えているのは、同社の開発部隊だ。
「当社は『土地を制する者は全てを制する』という考えで、用地開発・企画こそが生命線ととらえております。実際、当社の営業は3人ほどに対して開発は20名を抱えています。開発分野では大手ディベロッパーが競合にあたりますが、大手ディベロッパーは意思決定にどうしても時間がかかってしまいます。その点、我々はスピーディーに決定ができる」(同氏)
年によって変動はあるものの、「造注方式」は全体の工事件数の半分以上を占めているという。
「今後も土地や建設のノウハウを持つ人材を確保しながら情報網を広げ、この分野を着実に伸ばしていきたい」(同氏)
駅前再開発事業スタート
世代を跨いだ生活圏構想も
2011年の設立から10年の節目を迎え、同社は分譲マンション専業から新たな事業への挑戦も開始した。そのひとつが、「再開発事業」だ。第一号案件となる群馬県前橋市の“ブリリアタワー前橋”は、市内初となる超高層免震タワーマンションで、2024年に完成する予定だ。
同マンションはJR前橋駅北口から徒歩2分、地上27階建てで1階には商業施設、2階には子育て支援施設が入る予定。JR前橋駅北口地区第一種市街地再開発事業に位置付けられており、地元での期待も大きい。
「前橋市、東京建物と共に官民一体で公・商・住の複合再開発にチャレンジしています。これを皮切りとして、今後は再開発事業や商業施設事業への業容拡大も図っていきたい」(同氏)
一方、将来への期待が大きいのは、新たなコンセプトとして打ち出した「ウェルビーイングシティ構想」だ。これは、世代を問わず、生涯快適なサービスを提供できる施設の創出を目指していくもの。
例えば、複数シェフのいるテラス付きレストラン、シャトルバス、病院と24時間提携、看護師が常駐しており看取りまで可能と、通常は外部で受けるサービスをマンション内で完結できるようにする。
その第一弾となる“CANVAS南大沢”が、2022年1月にモデルルームをオープンする予定だ。
「今まで当社は、マンションというハコを作ってきましたが、これからはハコだけではなくそこに住む人の生活、ソフト部分に付加価値をつけて提供できればと考えました」(同氏)
“CANVAS南大沢”は郊外型の分譲マンションで若い世代、シニア世代と双方のニーズを満たすサービスを提供する。シニア特化型サービス付きのマンションはあるが、世代を問わないマンションは珍しい。
「このマンションでは敷地内で2世代、3世代合わせて住んで頂きたい。親世代には介護施設が併設されており安心、子供世代にとっては高齢の両親が心配で近所に住みたいというニーズも叶えられ、なおかつレストランやジム、テレワーク会議室などがあり日常を快適に過ごせる。マンションの管理運営については当社の子会社ファーストエボリューションが行います。南大沢は『ウェルビーイングシティ構想』の試金石といった部分があり、業界からの注目も感じています」(同氏)
中核事業強化と業域拡大図り
売上高300億円目指す
現在、同社では2024年5月期を最終年度とする3カ年新中期経営計画を推進しており、売上高300億円を目指している。
「『造注方式』を柱とした中核事業強化の継続と、『再開発事業』、『ウェルビーイングシティ構想』をはじめとする事業領域の拡大による新たな価値創出を重点計画として取り組んでいきたいと考えています。それに伴った事業エリアの拡大も視野に入れており、現在の九州支社を強化して商圏としては広島から沖縄あたりまで網羅できるようにしたい。福岡エリアはまだまだ伸びる余地があります。今後も新たな事業領域へのチャレンジも含め、期待を持って注目していただければ幸いです」(同氏)
2021年5月期 連結業績
売上高 | 209億1900万円 | 前期比 10.7%減 |
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営業利益 | 16億6600万円 | 同 24.1%増 |
経常利益 | 16億800万円 | 同 24.0%増 |
当期純利益 | 11億2500万円 | 同 29.0%増 |
2022年5月期 連結業績予想
売上高 | 265億円 | 前期比 26.7%増 |
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営業利益 | 17億2000万円 | 同 3.2%増 |
経常利益 | 17億円 | 同 5.7%増 |
当期純利益 | 11億8200万円 | 同 5.0%増 |
※株主手帳1月号発売日時点
(提供=青潮出版株式会社)