2021年の金融界で起きた大きなニュースといえば、SBIホールディングス(以下:SBI)による新生銀行への敵対的TOB、そして子会社化ではないでしょうか。海外ではそれほど珍しい話ではありませんが、かつて「護送船団方式」と呼ばれた日本の金融界でこうした再編劇が起きたことには、時代の変化を感じざるを得ません。

そもそもなぜ、SBIは敵対的TOBを仕掛けてまで新生銀行を傘下に収めたかったのか、そしてなぜそのターゲットが新生銀行だったのか。この再編劇にはこれからの日本の金融界や銀行との付き合い方を考えさせられる多くの示唆があるので、それも含めて今回の再編劇で起きたことと、これから起きると思われることを考察します。

なぜSBIは新生銀行を買収しようとしたのか

SBI vs 新生銀行のTOBで起きたこと、これから起きること
(画像=SB/stock.adobe.com)

SBIは証券会社や保険会社、そして銀行などを傘下にもつ金融グループです。先進的なサービスなどで多くの顧客を集めて成長してきたSBIですが、そのSBIには「第4のメガバンクを構築したい」という大きな構想があります。その布石としてすでに複数の地方銀行と業務提携を進め、こうした銀行を取りまとめた大きな金融グループを目指してきた経緯があります。

しかしそれらはすべて経営が思わしくなく再編のターゲットになりやすい状態にあった地方銀行であり、この集合体の中核に据えるような全国規模の銀行を傘下に収めたいとの思惑があり、そのターゲットが新生銀行だったというわけです。

SBIの代表を務める北尾氏は過去に「新生銀行を地銀連合の中核的な銀行にしたい」と語っており、買収前から白羽の矢を立てていたことがわかります。そして新生銀行を傘下に収めたあとにも「地銀連合構想の中核銀行にする」と公言しており、SBIにとって新生銀行は特別な存在であることが改めてうかがえます。

この経緯もあって、TOBを仕掛ける前からSBIは新生銀行の株式を20%保有する大株主でした。それを48%にまで引き上げて子会社化し、旧経営陣を刷新して立て直しを図るというのが、TOBの目的です。

しかしこの提案を、新生銀行は拒否します。そればかりかSBI傘下のネット証券大手であるSBI証券とライバル関係にあるマネックス証券との提携を発表し、SBI側の心証が悪化します。このことが怒りを買い、敵対的TOBの引き金になったともいわれています。

新生銀行が抱えていた諸問題

今回のターゲットになった新生銀行は、かつての日本長期信用銀行(長銀)です。長信銀3行と呼ばれる「銀行の中の銀行」の一角でした。しかしバブル崩壊で経営破綻した際には公的資金が注入され、一時国有化されます。その後2000年にはアメリカの投資会社リップルウッドに経営権を譲渡し、外資系銀行のような個人向けサービスを売りに再出発しました。

その後リップルウッドは新生銀行株を売却し経営から撤退、国から注入された公的資金を返済するメドも立たず、経営の低迷状態が続いてきました。バブル崩壊時に公的資金が注入された銀行の中で未返済なのは新生銀行だけであり、このことに対する批判も高まっていました。

SBIによる新生銀行買収までの主な経緯

それでは、2021年に起きたSBIによる新生銀行の買収に至るまでの主な経緯を時系列で見てみましょう。

1.SBIが新生銀行に対して「1株あたり2,000円でTOBを実施、20%の持ち株比率を48%に引き上げる」と発表

2.新生銀行はTOBの提案を拒否、買収防衛策の導入を決議。SBIはこの決議に対して法的措置を検討すると発表

3.SBIがTOB期間を延長し、新生銀行に「公的資金を返済できていない理由」や「返済に向けた具体的な計画」などに関する質問状を送付

4.新生銀行がSBIによるTOBを正式に反対すると表明

5.新生銀行が買収防衛策としてポイズンピルを発動
※ポイズンピルとは新たな株式を発行してSBI以外の株主に割り当て、株数を増やすことでSBIが買収しにくくする買収防衛策のこと

6.11月24日、新生銀行が買収防衛策を取り下げて事実上の敗北宣言、これをもってSBIによる新生銀行の子会社化が確定

以上が一連の経緯です。新生銀行がSBIの傘下に収まることを拒否し、抵抗を続けてきたものの最後は白旗を挙げた格好です。最終的に報道で新生銀行の株式を保有する預金保険機構と整理回収機構が買収防衛策に賛同しないと報じられたことで買収防衛策を取り下げたのが、決め手になったようです。大株主である国が味方についてくれないとあっては、もう抵抗はできないと判断したのでしょう。

SBI傘下の新生銀行は今後どこへ向かう?

紆余曲折を経てSBIの傘下となった新生銀行は、これからどこに向かうのでしょうか。最大の懸案はSBI傘下になってからも引き続き残る公的資金の返済ができるのかどうかです。そのためには株価の上昇が不可欠なのですが、SBIは今のままでは難しいと判断しているようで、新生銀行の非上場化を検討していると報道されました。残っている公的資金は3,500億円もあるため、これを返済するのは並大抵のことではありません。それを穏便に解決するためにあらゆる手を講じていくと見られます。

これと並んで、SBIは当初の構想にあったように新生銀行を「第4のメガバンク」の中核に据えたいとの意向をもっています。旧経営陣を刷新し、SBIから送り込まれた経営陣によって経営の立て直しを図り、地銀連合との経営統合も含めた連携を模索していくことになるでしょう。新生銀行を買収して傘下に収めるという目的は達成できたものの、経営陣が変わったからといって問題がすべて解決されるわけではないので、今後も難しい舵取りが迫られるものと思われます。

今回の再編劇からは、多くの教訓や気づきが得られたと思います。低迷にあえぐ地方銀行がSBIのような新興勢力の傘下になり、再編されていくことはすでに既定路線だったかもしれません。しかし、かつての名門であって今も大手銀行の一角である新生銀行であってもこうした再編の波と無関係ではいられない事実がもつ意味は大きいと思います。どんな銀行であっても今後の展開次第では再編される可能性があり、自分が取引している銀行の資本関係が変わってしまうことがあっても全く不思議ではありません。

今回の再編劇で、新生銀行がこれまで堅持してきた方針が変更される可能性があります。例えば100万円以上の預金があればほとんどのATM手数料が無料になることや、毎月5回までであれば振込手数料が無料になるといった優遇サービスを提供していますが、SBI傘下の新生銀行がそれを継続する保証はありません。そのメリットがあったからこそ新生銀行を使ってきた人はそれに似たサービス体系となっている他行への乗り換えを模索しなければならない可能性もあるわけです。

すでに新生銀行は会員ステージ制度のリニューアルを発表しています。このリニューアルでは制度が改悪されたわけではありませんが、今後の展開次第では会員ステージ制度が改悪されて新生銀行を利用する意味がなくなってしまうことも考えられるので、「銀行はどこを使っても同じ」ではない時代が本格的に到来していることを実感させられます。

大手だから安心、ずっと使ってきたからこれからも、といったことがその銀行を利用する理由として成り立たなくなってきています。そんな時代に向けて重要なのは、自分自身の銀行との付き合い方をしっかりと把握してそれに合ったサービスや手数料体系になっている銀行であるかどうかの精査です。ATMの手数料1つをとっても不利な銀行を利用し続けていると積もり積もった手数料が大きな金額になってしまいます。新生銀行の再編劇を通じて、今一度利用している銀行の先行きやサービス内容を精査してみる機会としてみてはいかがでしょうか。

(提供:Incomepress



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