東芝の子会社である東芝デジタルソリューションズ株式会社は18日、暗号化ネットワークがブロックチェーン上の通信の保護に利用可能なことを示す実験に成功したと発表した。

東芝アメリカやJPモルガンら、米国初となる量子鍵配送の実験に成功
(画像=月刊暗号資産)

この実験は東芝アメリカ社、JPモルガン・チェース、シエナの3社が行なった。3社による研究グループによれば、「量子物理学を利用した量子鍵配送(QKD=Quantum Key Distribution)ネットワークが、サイバー攻撃からブロックチェーンを保護すること」が検証されたことは初めてであるという。

QKDは「量子暗号通信」とも呼ばれている。安全な暗号通信プロトコルであり、2者がメッセージの暗号化と複合化に使用でき、2者だけが知りえる共有ランダムキーの生成ができる。QKDは、量子コンピュータの攻撃に耐性があることが数学的に証明されており、量子コンピュータをもってしても、理論上、盗聴は不可能とされている。

将来、高度な計算が可能な「量子コンピュータ」が一般化されるとの見方が強まっている。量子コンピュータは、現在のコンピュータよりも劇的に高速処理が可能で、その分、サイバー攻撃に利用される可能性が非常に高く、驚異も増す。

JPモルガンなどの研究者たちは、銀行システムをハッカーなどから守る緊急の策を求められている。それは銀行業会のみならず、あらゆる業界がこの分野のセキュリティ対応を迫られている状況だ。その脅威は当然、ブロックチェーン技術や暗号資産(仮想通貨)にも及ぶ。

今回の実験では、JPモルガン・チェースの研究施設において実施された。JPモルガンの研究室が中心となり、東芝の開発したQKD技術を用いた。

実証実験では、70kmの光ファイバー上でQKDにより保護された、実行データレート800Gbpsの光データ通信に成功した。また、光ファイバーを最大100kmの距離にまで延ばした実験も行い、正常にQKDが実行されることを確認した。さらに、高度暗号化標準(AES)の256ビット暗号鍵を毎秒1回変更する場合で258チャンネル分を保護できることを確認した。

東芝の最高デジタル責任者・東芝デジタルソリューションズの取締役社長・島田太郎氏は「東芝グループはQKDの産業界への早期展開を目指し、日本、英国などでパートナーとの協業により数多くのQKDのユースケースに関する実証実験を推進してきました。今回JPモルガン・チェース、シエナと金融業界の最先端アプリケーションで実用性を実証できたことは素晴らしい成果です。今後、この実証実験がきっかけとなり、金融業界においてQKDの応用展開が加速することに期待します」と述べた。

また、JPモルガンの研究室責任者のマルコ・ピストイア(Marco Pistoia)博士は「我々にとってセキュリティこそ最重要事項。ブロックチェーンや暗号資産などのテクノロジーのセキュリティ環境を近い将来変化させることになるだろう」と述べた。(提供:月刊暗号資産