企業がスピンアウトを実施するメリット
親会社の立場から見ると、スピンアウトには「不採算事業を整理できる」「事業再編につながる」などのメリットがある。では、切り離される子会社から見た場合に、スピンアウトにはどのようなメリットがあるのだろうか。
1.経営の自由度が高まる
スピンアウトでは両社の資本関係が継続されないため、子会社は親会社から干渉を受けることなく事業に取り組める。したがって、資本関係を継続するスピンオフやカーブアウトに比べると、スピンアウトでは新会社の独立性が高い。
つまり、経営の自由度が非常に高いため、事業内容だけではなく資金調達や投資、海外進出なども独自に行える。将来性のある事業を分離させれば、短期間で大きな成長を目指すことも可能になるだろう。
2.イノベーションを実現しやすくなる
経営の自由度が高まることで、イノベーションを実現しやすくなる点も子会社に生じるメリットだ。
例えば、親会社が自前主義にこだわる企業であった場合、開発に費やせる経営資源は常に限られる。このような状況下では、業界をひっくり返すような革新を起こすことは難しい。
一方で、スピンアウトの実施後には他社との提携も自由になるため、優れたパートナー企業を見つけられればイノベーションの実現がぐっと近づく。つまり、スピンアウトされた企業は古い慣習やルールから解放されるので、イノベーション創出に向けた体制を整えやすくなるだろう。
3.投資家へのアピールにつながる
スピンアウトによる新会社の設立は、投資家へのアピールにつながることもある。
投資家の立場からすると、ひとつの成長事業に集中している企業は、将来の見通しを立てやすい投資対象となる。一方で、数多くの事業を手がけている企業はさまざまな外的要因の影響を受けるため、的確な投資判断が難しい。
そのため、スピンアウトによって成長性の高い事業を独立させると、投資家からの評価が高まる可能性がある。
企業がスピンアウトを実施するデメリット
スピンアウトによって切り離された子会社には、以下のようなデメリットやリスクが生じることもある。
1.親会社の経営資源を活用できなくなる
スピンアウトされた子会社は完全な独立企業となるため、親会社の経営資源は活用できなくなる。設備や人材はもちろん、親会社のブランド力や販売チャネルなども活用できないため、状況次第では事業に大きな支障が生じるだろう。
したがって、スピンアウトによって独立をする前には、十分な経営資源があるかどうかを確認しなければならない。もし十分な経営資源を確保できない場合は、ビジネスを収益化させることが難しくなるので、中長期的な成長プランを用意しておく必要がある。
2.従業員のモチベーション低下や離職を引き起こすことも
スピンアウトを実施すると、一部の従業員は親会社から子会社へと移ることになる。親会社から離れることで、少なからず業務環境や人間関係には変化が生じるため、なかにはモチベーションが低下する従業員も現れるかもしれない。
特に注意しておきたいのは、モチベーションの低下やストレスの蓄積によって離職が増えてしまうケースがある点だ。優秀な人材が離れると、ノウハウや技術の喪失によって生産性が下がるため、従業員のケアには力を入れる必要がある。
スピンアウトとスピンオフの比較
ここまでの内容を踏まえて、スピンアウトとスピンオフの違いを改めて整理しておこう。
経営の自由度の面ではスピンアウトに分があるが、その一方でスピンオフされた企業は親会社の経営資源を活用しながら成長を目指せる。どちらも一長一短であるため、独立する事業の特性やプランなどを踏まえて、各ケースに適したほうを選ぶことが重要だ。