スピンオフはあくまで経営戦略のひとつ
2017年度から始まったスピンオフ税制の影響で、近年では国内でもスピンオフが注目されている。ただし、スピンオフはあくまで経営戦略のひとつであり、事業再編や企業価値向上を目指す方法としては別の選択肢もある。
スピンオフの実施が最終的なゴールとならないように、まずは将来の計画や目的をはっきりとさせた上で、各ケースに最適な手段を選ぶようにしよう。
スピンオフでよくある質問
スピンオフやスピンアウトは仕組みが複雑であるため、実施するとさまざまな疑問が生じやすい。以下ではよくある質問集をまとめたので、計画を立てる前に基礎知識を押さえていこう。
Q1.スピンオフ会社とはどういう意味?
スピンオフ会社とは、親会社から一部門を切り離す形で独立した企業である。子会社を切り離す場合は現物配当、事業の一部を切り離す場合は新設分割によって実施される。
スピンオフの実施目的には、肥大化したグループの再編やハイリスクな事業の独立などがある。また、新規事業を立ち上げる際に、リスクヘッジの意味合いで実施されるケースもある。
Q2.スピンオフとスピンアウトの違いは?
スピンオフとスピンアウトは、いずれも親会社から一部門を独立させる施策である。ただし、親会社との資本関係を継続させるスピンオフに対し、スピンアウトでは資本関係が継続されない。
スピンアウトを実施すると、親会社の設備や販売チャネル、ブランド力などを活用できなくなるため、新会社は完全に独立する形となる。
Q3.スピンオフの具体例は?
国内のスピンオフは昭和から実施されており、1935年には富士通が富士電機から、1937年にはトヨタ自動車が豊田自動織機からそれぞれ独立した。平成以降にも実施例があり、1991年には親会社である日本電信電話から出資を受ける形でNTTドコモが独立をしている。
スピンオフ会社は新規上場(IPO)を目指すことが多く、2003年にはソフトバンクから独立したヤフーが東証一部に上場した。
Q4.スピンオフの成功例を知りたい
1930年代にスピンオフ会社となった富士通やトヨタ自動車、1990年代に独立したヤフーなどは、いずれも業界を代表する企業に成長している。スピンオフを機に新たなビジネスモデルを展開することで、親会社をしのぐ大企業となった例も少なくない。
スピンオフは米国でも実施されており、2015年にはeBayから切り離される形で、決済サービスを提供するPayPalが独立した。
Q5.スピンオフのデメリットや問題点は?
スピンオフによって親会社から離れると、安定した経営基盤を失うことがある。資本関係は継続するが、親会社の経営資源をすべて活用できるわけではないため、特に不採算事業の収益化が難しい。
また、独立した部門の業績が回復しない場合は、従業員のモチベーション低下や離職を引き起こすリスクもある。事業運営のハードルが上がるため、グループ再編を目的とする場合は事業譲渡などとの比較が必要だ。
Q6.スピンアウトのデメリットは?
スピンアウトは経営の自由度が高まる施策だが、親会社との資本関係は継続できない。つまり、親会社の経営資源(ブランド力や販売チャネルなど)が活用できないため、新会社の経営力が試される状況になる。
また、親会社との資本関係があるスピンオフに比べると、スピンアウトは従業員の負担が増えやすい。その結果、モチベーションや生産力の低下、離職などを引き起こす恐れがあるため、従業員のケアにも力を入れる必要がある。
Q7.スピンオフすると株価はどうなる?
スピンオフによる株価への影響は、会社・事業の切り離し方によって異なる。
子会社を切り離す場合は、株式が親会社の株主に分配されるため、理論上は株価が変動することはない。一方で、一部門を完全に切り離すケースでは、事業価値に応じて株価は下落すると考えられる。
なお、スピンオフを機に新株を発行すると株式の希薄化を引き越すため、スキームに関わらず株価は下落する可能性がある。
Q8.スピンオフの税金の仕組みは?
日本では2017年度から、スピンオフ実施時のみなし配当課税が免除される「スピンオフ税制」が施行されている。譲渡損益課税も繰延できる制度だが、スピンオフ税制には細かい要件が設けられている。
一般的な事業継続要件のほか、役員や従業員、株式などに関する要件があるため、スピンオフの計画を立てる前に概要を確認する必要がある。