スピンオフとスピンアウトの違いとは?

スピンオフと似たビジネス用語に、「スピンアウト」と呼ばれるものがある。これは、親会社との資本関係を完全に切り離す形で、一部の事業や企業を独立させることである。

スピンオフの実施を検討する際には、スピンアウトとの違いも十分に理解しておかなくてはならない。具体的にどのような違いがあるのか、以下で簡単に紹介しておこう。

スピンオフとは? メリットやスピンアウトとの違いに加えて、有名な国内事例も紹介

親会社が出資者となるスピンオフに比べると、完全に独立するスピンアウトは経営の自由度がさらに高まる。ただし、その代わりに資本関係が継続されないため、ブランド力をはじめとする親会社の経営資源は活用できない。

一方で、スピンオフでは親会社からのサポートを受けられるが、株主に親会社が含まれることになる。つまり、親会社の意向を完全に無視することはできないので、スピンアウトに比べると経営の自由度がやや低い。

どちらにも一長一短があるため、独立した後の目標や目的を踏まえて、より適した方法を選ぶことが重要になる。

スピンオフ実施後の税金は?知っておきたい2つのポイント

スピンオフに関しては、実施後の税金に関する知識もつけておきたい。ここからは2つのポイントに分けて、特に押さえておきたい税金の仕組みを解説していく。

分離させる範囲によって税務上の取り扱いが異なる

税務上、スピンオフは「分割型」と「株式分配型」の2種類に分けられており、それぞれ税金の取り扱いが異なる。

スピンオフとは? メリットやスピンアウトとの違いに加えて、有名な国内事例も紹介

上記の通り、スピンオフでは当事者となる企業だけではなく、株主に対しても税金が課される。この点は以前から懸念されており、これまで日本ではスピンオフによる分離が避けられる傾向にあった。

2017年度からは「スピンオフ税制」が適用されるように

国内企業のスピンオフが進まなかった状況を受けて、日本では2017年度から「スピンオフ税制」が施行された。これは、スピンオフを実施する際に一定の要件を満たすことで、みなし配当課税が免除されたり譲渡損益課税が繰延されたりする制度だ。

つまり、企業や株主の税負担を抑える手段ができたため、2017年度以降は日本でもスピンオフによる分離が注目されている。ただし、スピンオフ税制の要件はやや細かいので、適用を受けたい場合は制度の概要をしっかりとチェックしておきたい。

スピンオフの国内事例と海外事例

前述のスピンオフ税制が実施された影響で、近年では積極的にスピンオフを計画する国内企業が見られるようになった。ここからは国内の代表的な事例を紹介するので、スピンオフを検討している企業はぜひ参考にしていこう。

1.国内初のスピンオフ税制の適用/コシダカホールディングス

温泉事業やカラオケ事業を営む『コシダカホールディングス』は、国内で初めてスピンオフ税制の適用を受けた企業である。同社は2020年に事業再編を目的として、フィットネス事業を営んでいる『カーブスホールディングス』を独立させた。

このスピンオフが実施された要因としては、両社のターゲット層に違いがあった点が挙げられる。ターゲット層に違いがあると、すべての顧客ニーズに一律で応えることが難しくなるため、それぞれが独立した経営体制を築くためにスピンオフが実施された。

このスピンオフは国内で大きく注目され、今後のスピンオフを後押しする事例として知られている。

2.企業価値の向上を目指したスピンオフ/東芝

スピンオフの国内事例としては、2021年11月に発表された『東芝』の件も有名だ。これまで総合電機メーカーとして地位を確立してきた同社は、スピンオフによって自社を3分割することを発表した。

東芝がスピンオフに踏み切った要因としては、「物言う株主」の存在が大きいと言われている。同社は株主である海外ファンドなどから企業価値の向上を求められており、これを実現するために大幅な事業再編を計画した。

国内では「大改革」と呼ばれるほど衝撃が走ったスピンオフだが、実は海外を見てみると大規模なスピンオフは珍しくない。例えば、米大手『Google』からは多くの企業がスピンオフされており、それぞれの企業が最先端技術を活かしたビジネスに取り組んでいる。

このような背景を考えると、今後は日本でも同じような動きが活発化するかもしれない。

3.取引先や顧客を拡大するためのスピンオフ/PayPal

スピンオフの海外事例としては、eBayから独立した『PayPal』が有名である。大手ネットオークションを運営していたeBayは、2015年にオンライン決済サービス事業(PayPal)を切り離した。

同社がスピンオフを決断した理由は、当時から有望だったPayPalの取引先が限られるためだ。親会社とは異なる方向性で成長するために、PayPalはeBay傘下から脱却する形で独立した。

その後、PayPalはアップルやグーグルと取引をするようになり、時価総額にして2,500億ドルの企業へと成長。現在でも米国を代表するフィンテック企業として活躍しており、世界中のさまざまな地域へサービス提供をしている。