アスクル【2678・東1】オフィス通販から「仕事場とくらし」のECへ転換 2025年までに連結売上高5500億円を目指す
吉岡 晃代表取締役社長CEO

アスクルは、事業者向けと個人消費者向けに通販事業を幅広く展開する企業だ。2021年5月期は連結売上高4,221億5,100万円(前期比5.4%増)、同営業利益139億2,300万円(同57.8%増)と過去最高を更新した。2025年までの中期経営計画では「オフィス通販からのトランスフォーメーション」を掲げ、仕事場となるすべての場所を支えるインフラ企業への転換を目指す。

吉岡 晃代表取締役社長CEO
Profile◉吉岡 晃(よしおか・あきら)代表取締役社長CEO
1968年生まれ。千葉県出身。1992年西洋環境開発入社。2001年アスクル入社。2006年メディカル&ケア統括部長、2011年メディカル&ケア担当執行役員。2012年取締役B to CカンパニーCOO。2019年代表取締役CEO就任(現任)。2020年アルファパーチェス取締役(現任)。

創業から確実な業績成長

商品数と顧客数を拡大

同社はB to Bの事業所向け通販「ASKUL(アスクル)」「SOLOEL ARENA(ソロエルアリーナ)」や、B to Cの一般消費者向け通販「LOHACO(ロハコ)」などを日本全国に展開している。2021年5月期の売上構成はB to B事業が82%、B to C事業が16%だ。

同社は1993年、文具会社プラス内に設立された新規事業「アスクル」がスタート。商品をメーカーから直接仕入れ自社で顧客に配送するビジネスモデルを確立し、1995年には利用登録数が10万オフィスを突破。1997年には分社化し「アスクル株式会社」として営業を開始した。

2000年には売上高400億円を超えるとともにJASDAQ市場に上場。2003年には売上高1,000億円、2006年には1,500億円と着実に業績を伸ばす。2004年にはメディカル&ケア事業、2008年には工場系MRO(企業が現場で消費する間接材)にも参入し、取扱商品数と顧客数を拡大してきたが、リーマンショックで伸び悩んだ。2012年にはヤフーと業務・資本提携し、B to CのECサービスであるLOHACOの提供を開始。その後2012年には売上高2,000億円、2016年には3,000億円、2020年には4,000億円と着実に成長をみせている。

B to B売上は前期比105%

幅広い業種へ消耗品提供

B to B事業では幅広い業種に対し、使用頻度の高い消耗品を当日、翌日到着など迅速な配達で提供している。

現在、同社のOA・PC用品や事務用品の販売は4割程度。取扱い商品点数は約950万点で、生活用品や工具・機械などのMRO、医療現場向け製品など多岐に及ぶ。顧客ID数はアクティブで約450万ID。内訳は医療機関・薬局、製造業、販売・小売業、土木・建設・建設資材、介護・福祉が上位5位だ。

「当社の強みは、オフィス用品からスタートしたので、オフィスがあるすべての事業所に幅広くリーチしていることです。ですから医療、製造業などはもちろん、教育や飲食業など他の業種にも、オフィス用品以外の専門商材の伸びしろがまだまだある」(吉岡晃社長)

BtoBでは2つのブランドを展開。ASKULブランドでは、個人事業主や中小事務所向けのオフィス用品・現場用品の通販サービスを行っている。SOLOEL ARENAは中堅大企業向けサービスで、分散発注への対応など無料の購買管理機能や、購入金額に応じた割引などのメリットがある。売上比率で見ると、ASKULが55%、SOLOEL ARENAが45%だ。

2021年5月期の業績は、B to B通販事業の連結売上高が3,451億円(前期比104.9%)、同営業利益が201億円(同129.7%)となっている。

BtoCで日常必需品を宅配

オリジナル商品も開発

B to C事業では一般消費者に向け、毎日使うものを低価格・スピーディに届けるLOHACO、ペット用品専門通販の「Charm(チャーム)」ブランドを展開。

LOHACOは、同社が2012年にYahoo!との業務・資本提携と同時に始めたサービス。「くらしをラクに楽しく」をテーマに、B to Bで培った商品調達や商品開発、物流の強みを生かしている。メーカーとの共創による「LOHACO限定商品」や自社開発の米などオリジナル商品も多数展開。「LOHACO by ASKUL」と、「LOHACO PayPayモール店」の2つのEC店舗で販売を行っている。従来は日用品が売れてきたが、最近は食料品の伸びが大きい。B to C通販事業連結売上高は685億円(同108.3%)、同営業利益△41億円(前期差+20億円)となっている。

アスクル【2678・東1】オフィス通販から「仕事場とくらし」のECへ転換 2025年までに連結売上高5500億円を目指す
▲LOHACOでは、家庭用限定パッケージ商品や自社開発の米なども販売

「あす来る」流通網を確立

品質と確実性で他社と差別化

同社では一部の商品を除き、注文当日または翌日に自社配達するという「あす来る(……)」の物流を確立している。これを可能にしているのは、全国各地の物流センターと張り巡らされた配送網だ。

100%自社運営の物流センターでは、オートメーション化により複数のコモディティ(日用品や生活必需品)商品を1箱に梱包、最速で出荷している。物流センターを自社で運営することで、配送の確実性と品質を高めているという。またデリバリーの面では、自社のトラックとドライバーによって配達するとともに、地方地場の配達業者と連携し、全国どこでも翌日に配達できる態勢を整えている。

「翌日配達はポピュラーになったが、他社ECでは条件によって翌日配達にならない場合もある。しかし当社は、全国翌日配達の確度はとても高くなっています。また、注文した翌日に、注文通りの商品が品質の高い梱包で届けられることは、お客様にとって価値が高い。物流センターを自社運営することで、お客様から直に寄せられる声をすべて聞き、運営に反映しています。これからも基本となるデリバリーの確実性と品質を高めることで、他社物流と差別化していく」(同氏)

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▲物流倉庫内は自動化が進みロボットが多用されている

医療・介護と製造業向け拡大

環境対応で選ばれるPB商品

同社は2021年7月に中期経営計画を発表した。2025年5月期までに連結売上高5,500億円、同営業利益率5%を目指す。最重要戦略は、B to Bの「戦略業種と品揃え拡大」「B to B最強ECサイト構築」、B to Cの「Zホールディングスとのシナジー」、そして両EC事業を支える「プラットフォームの改革」の4つだ。

B to B単体の売上は、最終年度は4,135億円と10%以上の成長を目指している。その目標に向け医療・介護、製造業の2業種専門の品揃えを強化。また取扱い商品点数を、現在の2倍の1,800万アイテムまで拡大、在庫商品は4倍の33万アイテムに増やす。

今後は、高単価で高収益だが購入頻度の低い「ロングテール商品」を増やす。これまで、日常消耗品など単価が安く購入頻度が高い「ヘッド商品」を中心に販売してきた。今後は業種による専門性の高いロングテール商品を多数揃えることで利益を拡大していく。

「お客様の身近なご要望にきちんとお応えしながら専用商品を大きく拡大することが大切と考えて、幅広い業種の顧客基盤を活かして仕入れ力(価格訴求力)を高められるのがアスクルの強みです。たとえば製造業向けの品揃えを強化する場合、まずは製造業だけでなく複数業界でも使われる身近な商品(手袋、梱包作業用品など)でオリジナリティと価格競争力のある商品でお客様のご支持を得、それに並行してセグメントした業種に特化したロングテール商品を広げていくという、ヘッド&テール戦略という手法をとります。医療・介護やMRO商品は、その手法で伸ばせてきており、今後はさらにロングテール商品を強化してゆきます」(同氏)

ヘッド商品に関しては、環境対応型のPB商品への置き換えをさらに進める。アスクルは環境対応に創業当初から取り組んできた。同社のコピー用紙は国内首位(同社調べ)だが、オリジナルコピー用紙1箱の販売につき、紙の産地であるインドネシアで原料となる木2本の植林活動を確認する「1 box for 2 trees」を2010年から続けている。また「2030 CO2ゼロチャレンジ」の取り組みでは、再生可能エネルギーの活用や輸配送用電気自動車の導入などを進めている。大企業ほど環境対応商品に敏感であることから、全社ぐるみでの環境対応への取り組みとともに、環境対応型PB商品を拡大することによって、他社との差別化を行っていく。

アスクル【2678・東1】オフィス通販から「仕事場とくらし」のECへ転換 2025年までに連結売上高5500億円を目指す
▲2022年に稼働開始予定のASKUL東京DC

ロングテールも「明日来る」

B to B最強のサイトを構築

同社はこれまで、ヘッド商品を当日または翌日配達、ロングテール商品は数日以降の配達としてきた。今後は在庫の拡大と物流の改善によって、ロングテール商品も翌日配達で提供していく態勢を整える。2022年中には東日本の最先端基幹センターである「ASKUL東京DC」が稼働開始予定。強みの高速物流にさらに磨きをかける。

「物流力を磨くことで、ヘッド商品でもしっかりと利益を出してきた。そこから利益率の高いロングテール商品に入っていくことで、売上成長だけでなく収益性も上げていきます」(同氏)

ECサイトの変革も進める。2023年5月期を目標にASKUL・SOLOEL ARENA両サイトの特徴を結集した新ASKUL WEBサイトを開設予定だ。

大きな目的は顧客の利便性の拡大だ。同社は累計購買金額3兆円、累計オーダー数5億件超という日本最大級のB to B顧客基盤とビッグデータを持つ。これを利用し顧客の注文業務を手助けする。

「データを集約することで、たとえば検索をした後にリストされる順番や商品一覧など、お客様それぞれへのパーソナライズの精度が上がる。それによって探していたものが早く見つかり、買いやすくなります。特にB to Bは間違いのない商品を確実に安く早く購入したいというマインドが大きい」(同氏)

また新ASKULサイトでは、購買管理機能や、大量に購入することによる値引き制度も適用する。テレワークの拡大を背景に、在宅からの注文にも対応。企業規模、勤務場所・形態を問わず、働くすべての顧客が必要とする商品やサービスを届ける。2022年5月期から25年5月期の4年間に、新ASKUL WEBサイト(システム)に対し40億円の設備投資をする予定だ。

「企業のお客様には請求書発行や掛け売りの対応など、購入後の需要がある。そこで、これまでは大企業向けだった機能を、中小事務所にも開放しようと考えました。新ASKUL WEBサイトには、豊富な品揃えと商品の探しやすさ、購入のスピード、環境への対応とともに、さらに購買管理機能、ボリュームディスカウント機能もある。だから我々はこのサイトを『B to B最強サイト』と考えています」(同氏)

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(画像=株主手帳)

ZHDの基盤をフル活用

B to Cも翌日配達強化

LOHACO事業は2023年5月期の黒字化を目指し、Zホールディングスとの連携を深めていく。

本店であるLOHACO by ASKULサイトは、すでにYahoo! JAPANのクロスショッピングエンジンで運用されており、これによってローコストでセキュリティの高いサイトが構築できている。また本店とLOHACO PayPayモール店との相乗効果も大きい。

「PayPayモールでは、購入時のポイント付与倍率を上げるなどキャンペーンが多い。今回、本店の基盤をYahoo! JAPANのシステムに乗せ替えたのを契機に、本店でもLOHACO PayPayモール店と同じキャンペーン倍率で購入できるようにしました。それによってお客様が安心して本店に来て購入いただけるようになりました。今後はLOHACO PayPayモール店と本店の両方をしっかりと伸ばしていきたい」(同氏)

LOHACOの商品についても翌日配達の強化をする。売り場と流通の両面で改革を進め、LOHACOの再成長と収益事業化を目指す。

ワンストップですべてを揃える

仕事場とくらしの両面支える企業へ

同社は2020年に企業方針である「ASKUL WAY」を刷新し、「仕事場とくらしと地球の明日(あす)に『うれしい』を届け続ける。」をパーパス(存在意義)として定めた。

「国内では人口も、中小企業の数も減ってきています。これからECがもっと拡大することと、医療・介護などエッセンシャルワークに対する需要が増えるのは間違いない。そういった時に、仕事場で使うものすべてをワンストップで注文、購入が完結していくようにしたい。それは環境保護はもちろん、中小企業の負担を軽減して生産性を上げるという、日本の一番重要な社会課題の解決につながると考えています」(同氏)

中期経営計画では、2025年までに「オフィス通販からのトランスフォーメーション」を成し遂げると宣言。

「企業のテレワーク化が進み、オフィスが家になることで、仕事の場に必要なものも、以前の文房具や紙といったものから、日常の生活用品に変わっていく。そこをベースに、生活用品も業務に使うものもワンストップで注文し届くようになるのが、中期経営計画終了時の姿だと思っています。だから、当社は商品数を大きく増やしていく。いつのまにか当社が、オフィスのパートナーではなく、仕事をする上でのパートナーであるという存在にトランスフォームしていきたい」(同氏)

アスクル【2678・東1】オフィス通販から「仕事場とくらし」のECへ転換 2025年までに連結売上高5500億円を目指す
(画像=株主手帳)
アスクル【2678・東1】オフィス通販から「仕事場とくらし」のECへ転換 2025年までに連結売上高5500億円を目指す
(画像=株主手帳)

2021年5月期 連結業績

売上高4,221億5,100万円前期比 5.4%増
営業利益139億2,300万円同 57.8%増
経常利益138億5,000万円同 60.0%増
当期純利益77億5,800万円同 37.2%増

2022年5月期 連結業績予想

売上高4,300億円前期比 1.9%増
営業利益140億円同 0.5%増
経常利益139億円同 0.4%増
当期純利益90億円同 16.0%増

※株主手帳4月号発売日時点

(提供=青潮出版株式会社