ステンレス伸線メーカーのトップランナーとして業界を牽引するのが日本精線だ。ステンレス鋼線分野の黎明期に創業、二次加工技術を強みに、素材メーカーや販売先の製品メーカーと連携を取りながら業績を伸ばしてきた。近年は高機能独自製品に注力、汎用品の価格競争からは一線を画す戦略をとり、「グローバルニッチトップ」としてその存在感を増している。
自動車や宇宙など幅広く活躍
特定分野のばねは50%シェア
日本精線は、ステンレス鋼線の二次加工メーカーだ。2021年3月期の売上高は342億800万円、営業利益は23億8,000万円。2022年3月期の業績予想は、売上高420億円、営業利益42億円で、過去最高となる。
部門は、建材用ビスや自動車向けのばね用材などを製造する、ステンレス鋼線部門と、半導体関連業界向けの超精密ガスフィルターなどを生産する、金属繊維部門の2つ。主軸は、部門別売上高で82%を占めるステンレス鋼線部門だ。
そもそもステンレス鋼線とは、製鋼メーカーから買い付けたステンレス鋼線材ロッドに、表面性状、線径、機械的特性などの精度の高い機能を付加し、ワイヤーとして伸線加工したものを指す。用途は非常に幅広く、自動車、鉄道、航空宇宙などに始まり、電子機器、医療機器など、数多くの最終製品の部材に利用されている。
「当社の扱うステンレス鋼線は、ばね・ねじ・金網などに加工され、日用品から最先端技術分野まで、あらゆる産業に多面的に利用されています。たとえばシャンプーやリンス、アルコール消毒用のボトルに入っているばねでは、国内で半分近くのシェアを取っています」(新貝元社長)
ステンレス二次伸線メーカーは日本に10数社存在するというが、同社はその中で圧倒的なシェアを誇っている。
「国内で作られるステンレス鋼線は月間およそ6,000トンで、輸入されるものは2,000トンです。国内生産量の50%、国内需要8,000トンのうちの3,000トンを当社が作っています」(同氏)
極細線タイプの需要増加
産業構造の変化に技術で対応
ステンレス鋼線の世界市場は、コロナ前でCAGR(年平均成長率)5%成長の市場と言われてきた。現在消費量が伸びているのは海外、特に中国における、汎用品分野だが、価格競争は激化しており、同市場での高い利益率は見込めない。そこで同社が重視しているのが、高機能独自製品の製造だ。
「我々が高機能独自製品と呼んでいるのは、お客様から厳しいスペック(のオーダー)をいただいてカスタマイズして作っている専用のオーダーメイド商品です」(同氏)
この背景には、近年の環境やエネルギーのクリーン化、デジタル化という産業構造の変化が、ステンレス鋼線分野にも影響を与えていることがある。以前にも増して、「より細く、より強く、より精密な」製品が要求されるようになっているのだ。同社の高機能独自製品の中で売上が伸びているのも、より細さを求めた、極細線と呼ばれるステンレス鋼線という。
「現在は太陽光発電パネルなどに利用される、直径11ミクロンのステンレス鋼線や、電子部品・MLCC用のスクリーンに用いられる15ミクロンの製品の売上が伸びています。極細線は時代と共に進歩しており、昔は24ミクロンでも最先端だったのですがそこから少しずつ細くなり、今、試作品としては9ミクロンも作っています」(同氏)
ステンレス鋼線部門では、生産量ベースでは汎用品6に対し高機能製品4の割合だが、売上高ベースでは反転。汎用品4に対し高機能製品が6の割合という。
金属繊維部門は全て開発品
客先に合わせオーダーメイド
一方、部門別売上高が2割弱の金属繊維部門に関しては、全てが高機能独自製品となる。
この部門の代表的な製品は、同社が独自の技術で開発したステンレス鋼繊維である「ナスロン」だ。OA機器用除電素子をはじめ幅広い分野の産業資材として用いられ、1~50ミクロンと非常に細い線径で、柔軟性を有するのが特長。このナスロンを用いた高機能メタルフィルターは、フィルムや樹脂、炭素繊維など製造の濾過プロセスで利用されている。2006年には海外拠点のひとつとして、中国の常熟に金属フィルタ事業強化のための拠点を設けた。
「最近では中国でも高機能用途の需要が出て来始め、高機能品に順次切り替えているところです」(同氏)
また、ナスロンをもとに製作した薄層のメタルメンブレンフィルター「NASclean」は、半導体・フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネルなどの生産過程でガスの濾過に用いられ、半導体製造装置などに組み込まれている。
「『NASclean』は、世界での競合は3社のみで、日本では私どもだけです。当社の世界シェアは、25%以上はあるかと思いますが、素材から作っているのは当社だけですので、その点は大きな強みと考えています」(同氏)
2023年までの中期経営計画でも高機能独自製品の生産能力重視
同社が2021年から進めている3カ年の中期経営計画(NSR23)でも、高機能独自製品の生産量拡大と品質向上という両面から、生産能力増強を目指す。同社ではNSR23の基本方針として、(1)日本精線リニューアル計画の継続・推進、(2)新製品開発と新市場開拓、(3)水素を巡る新事業の探索、の3点を掲げる。
(1)の具体的な例としては、ステンレス鋼線のさらなる細径化ニーズへの対応や、海外マーケットの取引深耕を狙いとした、極細線・ばね用材の機能能力増強が挙げられる。中長期的には直径1桁ミクロン台が求められるような状況を見越して、同社は技術革新を継続的に進め、商品開発を行ってきた。さらに、海外グループ会社のタイ精線も能力増強を行う。新貝社長は、「リニューアル計画の一丁目一番地は、高機能独自製品の上方弾力確保だ」と話す。
「2017年からずっと、減価償却以上の投資を先回りして行ってきました。大地震や水害などに備えてのインフラ投資はもちろんですが、高機能独自製品の能力増強は絶対忘れずにやろうと」(同氏)
また、高機能独自製品の生産力アップに関しては、汎用品生産量の減少で高機能独自製品の生産比率を高めるのではなく、生産する高機能独自製品の「絶対量」を増やすことを重視する。
「ステンレス鋼線の細径化は、たとえば太陽光発電の発電効率向上などにも貢献します。また、半導体製造装置用超精密ガスフィルターも、腐食性の高いガスの使用や不純物の捕集性能など、より過酷な条件下での高性能半導体製造への対応が求められることが予想されます。高機能独自製品の展開におけるサステナビリティやカーボンニュートラルの流れは、我々にとってはものすごく大きいビジネスチャンスですね」(同氏)
2021年3月期 連結業績
売上高 | 341億800万円 | 前期比 2.3%減 |
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営業利益 | 23億8,000万円 | 同 23.5%増 |
経常利益 | 26億200万円 | 同 30.1%増 |
当期純利益 | 18億2,500万円 | 同 30.8%増 |
2022年3月期 連結業績予想
売上高 | 420億円 | 前期比 23.1%増 |
---|---|---|
営業利益 | 42億円 | 同 76.5%増 |
経常利益 | 42億円 | 同 61.4%増 |
当期純利益 | 29億4,000万円 | 同 61.0%増 |
※株主手帳4月号発売日時点
(提供=青潮出版株式会社)