この記事は2022年4月8日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「ASEANの貿易統計(4月号)~輸出は原材料高騰により二桁成長が続くも、今後は露ウクライナ情勢や中国都市封鎖により伸び悩む恐れ」を一部編集し、転載したものです。
2022年2月のASEAN主要6カ国の輸出
2022年2月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比17.3%増(前月:同13.9%増)と伸びが加速した(図表 - 1)。輸出は2020年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開やテレワーク需要の増加に伴う電気・電子製品の出荷増、商品市況の高騰を受けて増加傾向が続いている。もっとも、足元ではオミクロン株の感染拡大や半導体不足の影響などにより輸出の勢いは幾分鈍化しつつあり、今後はロシアのウクライナ侵攻や中国の一部都市で行われている都市封鎖の影響が表れるだろう。
ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、2月は東アジア向けが同15.2%増、東南アジア向けが同20.2%増、北米向けが同14.7%増、EU向けが同23.9%増となり、それぞれ大幅な伸びが続いた。
ベトナム
ベトナムの2022年2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比16.0%増(前月:同8.1%増)の234億ドルと伸びが加速した(図表 - 3)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いている。2月はテト休暇が早まったこと(今年は1月29日、2022年は2月1日が元日)により稼働日が多かったため、前年同月比の伸び率が上昇した。一方、輸入額は前年同月比22.9%増(前月:同11.3%増)の253億ドルとなり二桁増が続いた。結果として、貿易収支が▲19.6億ドルの赤字となり、前月から33.6億ドル悪化した。
輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比4.4%増(前月:同26.2%減)と増加に転じたほか、電気製品・同部品が同13.9%増(前月:同5.6%増)と伸びが加速した(図表 - 4)。アパレル関連では、履物が同11.2%増(前月:同3.7%増)、織物・衣類が同13.0%増(前月:同34.2%増)と、それぞれ二桁増となった。農林水産物を見ると、水産物(同62.5%増)やコーヒー(同48.8%増)、コメ(同33.2%増)、カシューナッツ(同18.2%増)、天然ゴム(同5.0%増)など増加した品目が多かった。
輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同13.3%増(前月:同2.4%増)と2ヵ月ぶりに二桁増まで加速、地場企業が同24.7%増(前月:同25.5%増)と大幅な伸びが続いた。
タイ
タイの2022年2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比16.2%増(前月:同8.0%増)の234億ドルと伸びが加速した(図表 - 5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した2020年に急減した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いているが、足元では輸出の勢いに陰りがみられる。一方、輸入額は前年同月比16.8%増(前月:同20.5%増)の233億ドルと二桁増を保ったが、伸びは鈍化した。結果として、貿易収支が1.2億ドルの黒字となり、前月から26.5億ドル改善した。
輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同25.9%増(前月:同19.9%増)と伸びが加速して12カ月連続の二桁増となった(図表 - 6)。製造品の内訳を見ると、在宅時間が増加した影響で電子機器(同26.4%増)や家電製品(同25.8%増)が堅調に拡大、また機械・装置(同19.0%増)や石油化学製品(同32.5%増)といった主要輸出品も引き続き増加したほか、半導体不足の影響で前月に下振れた自動車・部品(同12.8%増)が2ヵ月ぶりの増加に転じた。また鉱業・燃料も同35.0%増(前月:同27.8%増)と伸びが加速、石油製品(同38.0%増)を中心に大幅な増加が続いた。このほか、農産物・同加工品は同18.1%増(前月:同20.4%増)と大幅な伸びが続いている。ドリアン(同92.9%減)やゴム製品(同20.8%減)が減少したものの、コメ(同29.9%増)や天然ゴム(同15.8%増)、加工食品(同48.6%増)が二桁増となるなど、総じて増加した品目が多かった。
マレーシア
マレーシアの2022年2月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比12.8%増(前月:同19.4%増)の244億ドルと好調に推移しているが、伸びは鈍化した(図表 - 7)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いているが、足元では輸出の勢いに陰りがみられる。また輸入額も前年同月比14.3%増(前月:同22.1%増)の197億ドルとなり伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+47.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から3.0億ドル拡大した。
輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同19.8%増(前月:同17.3%増)となり、主力の電気・電子製品(同21.6%増)を中心に7カ月連続で増加した(図表 - 8)。また鉱物性燃料は同17.4%増(前月:同35.9%増)と好調だった。石油製品(同4.5%増)と天然ガス(同40.8%増)、原油(同14.4%増)がそれぞれ増加した。このほか、化学製品(同31.4%増)、動植物性油脂(同17.4%増)の二桁増が続いた一方、ゴム手袋(同69.1%減)は昨年好調だった反動で減少が続いている。
インドネシア
インドネシアの2022年2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比34.1%増(前月:同25.4%増)の204.6億ドルとなり、大幅な増加が続いた(図表 - 9)。輸出の基調は2020年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いている。2022年1月は石炭の輸出禁止措置の影響を受けて輸出の伸びが一時鈍化した。また輸入額も前年同月比25.4%増(前月:同36.6%増)の166億ドルとなり、昨年の大幅な増加傾向が鈍化しつつある。結果として、貿易収支が+38.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から28.6億ドル拡大した。
全体の9割を占める非石油ガス輸出が同35.2%増(前月:同26.8%増)、石油ガス輸出が同15.6%増(前月:同2.0%増)と好調だった(図表 - 10)。品目別にみると、今年1月に石炭の輸出禁止の影響を受けて落ち込んだ鉱産物(同53.4%増)をはじめとして、鉄・鉄鋼(同50.9%増)や電気機械(同27.9%増)、機械類(同15.6%増)、動植物性油脂(同40.6%増)が大幅に増加したほか、天然又は養殖真珠、貴石、半貴石(同126.7%増)が急伸した。一方、自動車・同部品(同6.1%減)とゴム製品(同15.3%減)は減少に転じた。
シンガポール
シンガポールの2022年2月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比7.9%増(前月:同15.4%増)の114億ドルと増加が続くものの、伸びが鈍化した(図表 - 11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により総じて好調に推移している。なお、総輸出額が同20.6%増(前月:同19.8%増)の386億ドル、総輸入額が同17.9%増(前月:同25.8%増)の334億ドルと、それぞれ増加した。結果として、貿易収支が+52.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から16.4億ドル拡大した。
輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同10.0%増(前月:同11.0%増)と伸びが小幅に鈍化したが、15カ月連続の二桁増となった(図表 - 12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同19.9%増)とディスクメディア(同37.8%増)が好調だったものの、PC(同9.7%減)と通信機器(同33.2%減)が急減した。一方、全体の約3割を占める化学品は同16.4%増(前月:同8.4%増)と伸びが加速した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同17.8%増)が鈍化したが、医薬品(同37.6%増)が増加に転じた。
フィリピン
フィリピンの2022年2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比15.0%増(前月:同9.0%増)の61億ドルとなり、堅調に拡大した(図表 - 13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いてきたが、足元では勢いが鈍化しつつある。また輸入額は前年同月比20.1%増(前月:同27.7%増)の96億ドルと大幅な伸びを保った。結果として、貿易収支が▲35.3億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から11.9億ドル縮小した。
輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同15.1%増(前月:同9.0%増)となり、伸びが加速した(図表 - 14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同20.4%増)が好調だったものの、電子データ処理機(同5.3%減)が3ヵ月連続で減少した。その他9品目については、製錬銅(同130.2%増)やココナッツオイル(同118.2%増)、生鮮バナナ(同27.5%増)、電子装置・部品(同17.2%増)、化学品(同14.2%増)、その他製造品(同12.2%増)、イグニッションワイヤーセット(同6.4%増)がそれぞれ増加した一方、機械・輸送用機器(同22.0%減)と金属部品(同6.0%減)が減少した。
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斉藤 誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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