『マンガでわかるピーター・リンチの投資術』より一部抜粋
(本記事は、栫井駿介氏の著書『マンガでわかるピーター・リンチの投資術』=ループスプロダクション、2021年11月27日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
有望な銘柄を見つける決算情報の読み方
貸借対照表に注目
これまで再三語っているが、クライスラーのような業績回復株のポイントは「負債がどれくらいあるのか」「負債以上の資産(キャッシュ)があるか」にあり、決算資料の確認は必須となる。
なお、資産があるかという点は資産株のポイントとも似ており、リンチはこうした多くの資産を貯めた「お金持ち」の銘柄にも目をつけていた。
一般的に決算資料は「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の財務三表が有名であるが、本節ではクライスラーの例から業績回復株と資産株を探す2点に的を絞り、貸借対照表の読み方を解説する。
貸借対照表は企業の財務状態を表す書類で、記載内容は、おおまかに、左右に分けることができる。左側が現金や有価証券、不動産といった企業の資産。右側が会社の負債と純資産の情報だ。負債は支払う必要があるが、純資産は、株主から受けた出資による資本金や配当や利益などの余剰金など支払う必要のないお金で構成されている。
なお、右側と左側の数字が必ず一致することから、「バランスシート」とも呼ばれている。
負債の額を把握する
主な資産には、1年以内に現金化できる「流動資産」と、現金化に1年以上かかる「固定資産」の2種類ある。流動資産は、企業が持つ現金や有価証券など、固定資産は建物や設備などに分けられる。
負債も同様に、1年以内に返済しなければいけない「流動負債」と、1年を越えた時期に支払う「固定負債」がある。流動負債として考えられるのが、金融機関からの短期的な借り入れ。返済期間が短いため、これが多い企業は倒産の危険が高まってしまう。しかし、それを返済できるだけの現金があれば倒産しづらくなるため、リンチは「流動負債よりも現金・預金が多ければ、流動負債については無視している」と語る。
固定負債の代表は社債である。これは会社が発行する債券のことで、発行されると返済まで5~10年ほどの時間がある。すぐに企業の財政を苦しめるものではないが、多すぎると後々問題になる。
では、固定負債の多さは何を基準に判断すればよいのだろうか?
リンチによると、固定負債と資本金の比率から判断することができる。リンチの考えでは、株主資本が75%、固定負債が25%となれば健全な財務といえる。たとえば、株主資本が500万円あれば、固定負債額は125万円以内が安全ということだ。
直近の例で説明しよう。左ページの上図は、任天堂(7974)が2021年8月に発表した決算短信の一部だ。任天堂は業績回復株や市況関連株ではないが、固定負債と株主資本を比較すると固定負債の割合が約2%に抑えられており、財務が健全な企業だとわかる。一方、ペッパーフードサービス(3053)が2021年8月に発表した決算短信によると、固定負債が約33億円、株主資本が約26億円。つまり、固定負債の比率は約56%であり、不健全な財務だとわかる。
業績回復株の貸借対照表を見る場合は、この負債額が年々減少しているかなど改善具合に着目しよう。リンチが投資したクライスラーは、負債は多額ではあったが現金・預金が多く、支援もあったことから、彼はすぐに倒産することはないと判断した。
次は資産についての読み解き方である。
会社の「蓄え」に着目する
会社の資産が多いといっても、固定資産のように、換金に時間のかかるものもある。そこでリンチは、「会社が使おうと思えばいつでも使えるお金」に着目した。こうした自由度の高いお金は、会計では一般にネットキャッシュが該当する。
手元に資金がたくさんあっても、その資金のほとんどが借りたお金であれば健全な財務状況とはいえない。要するに、ネットキャッシュとは企業のお金持ち度合いを表す指標のひとつで、この額が多いほど「蓄え」がある健全な状態ということだ。
決算資料のなかに「ネットキャッシュ」という項目はないが、貸借対照表の「現金・預金」「有価証券」の合計から「有利子負債」を除くだけで簡単に算出できる。また、『会社四季報』においては、キャッシュフローの欄にある「現金等」から財務欄にある「有利子負債」の金額を引くことでわかる。
また、このネットキャッシュは、会社が保有している「会社の価値」と考えることができる。企業の価値には、「すでに保有している価値」と、「将来的に生み出される価値(=利益)」の2種類があるが、ネットキャッシュは現時点で企業が持っている価値なので、前者に該当する。
※上記は、本書からの抜粋であり、
<著者プロフィール>
東京大学経済学部卒業。2009年より大手証券会社にて投資銀行業務に従事。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。2016年にバリュー株投資の実践を目的としたつばめ投資顧問を設立。ビジネス・ブレークスルーにて、「株式・資産形成実践講座」の講師を務める。
著書に『株式vs. 不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)、『年率10% を達成する! プロの「株」勉強法』(クロスメディア・パブリッシング)。
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(提供:Wealth Road)