ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するため、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施した。ESGに積極的に取り組み、未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを紹介する。

湯まわり設備メーカーとして国内で大きなシェアを持つ、株式会社ノーリツ。ガス・石油機器業界初のエコ・ファースト企業として、CO2削減などの環境課題に取り組む同社は、来るべき脱炭素化社会に向けてどのような戦略を用意しているのか。ESGだけでなくIT、DXの推進にも取り組む竹中氏(=写真)に話を聞いた。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

ノーリツ
(画像=株式会社ノーリツ)
竹中昌之(たけなか・まさゆき)
―― 株式会社ノーリツ 取締役 兼 専務執行役員 企画管理本部 本部長。(経営企画,財務,人事総務,コーポレートコミュニケーション,IT推進,DX推進を管掌)

1963年9月24日生まれ。富山県出身。1992年1月株式会社ノーリツに入社。グループ会社である株式会社ハーマンの常務取締役管理本部長、株式会社エスコアハーツ社長などを経て、2016年4月、株式会社ノーリツ執行役員に就任。現在は、取締役兼専務執行役員企画管理本部長。

株式会社ノーリツ

給湯器やコンロを中心に豊かな暮しを提供する湯まわり設備メーカー。1951年神戸市で創業。給湯器の国内市場シェアは約4割。独自の技術力を活かし、環境に配慮した高効率給湯器の他、おふろの「見まもり機能」や「除菌機能」搭載機器で社会課題の解決に貢献。1993年には海外へ進出。中国・北米・豪州を中心にグローバル展開している。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役

1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス

エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird」運営など多岐にわたる。

目次

  1. ノーリツが取り組むESG
  2. 脱炭素社会の実現に向けたノーリツの戦略と課題
  3. ノーリツの再生可能エネルギーの活用状況
  4. ノーリツの社会貢献活動について
  5. ノーリツが取り組むDXやIoT
  6. 「見える化」への課題と、情報開示への考え方
  7. 投資家へのメッセージ

ノーリツが取り組むESG

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):ノーリツ様の、ESG活動における基本的な考え方や方針をお聞かせください。

ノーリツ 竹中氏(以下、社名、敬称略):ESGは「見えない価値資産」とも言われております。ノーリツは、非財務ではなく、5年後、10年後の未来に利益を生み出す将来財務として捉えながら活動しています。

また、一般的にはESGという略称で呼ばれていますが、当社ではそこに品質を示す「Q」を加えて「Q+ESG」をベースとした活動を展開しています。

事業課題と環境・社会の課題をいかに融合させるか、事業活動に環境への取り組みをどう紐付けるかという部分で、当社の企業価値をしっかり高めていきたいと考えております。

坂本:ノーリツ様のESGに対する取り組みについて、簡単にご紹介いただければと思います。

竹中:まず環境「E」についてお話します。ノーリツは1997年から、ISOの認証取得、エコ・ファースト企業の認定、環境に貢献する製品開発、CDPに基づく環境マネジメントなどの取り組みを進めて来ました。2022年2月には、2030年と2050年に向けての新たな目標と環境戦略を開示しました。

次に、社会「S」についてです。「事業を通じて社会課題を解決する」ことを目的に付加価値のある商品開発を進めるとともに、従業員が最大のパフォーマンスを発揮できるように人的資本の開発に取り組んでいます。

最後にガバナンス「G」ですが、一般的なガバナンスコードの観点から、外形的な部分と、より実効的な部分を併用しながら進めていく活動を展開しています。

坂本:ノーリツ様は、ガス・石油機器業界初のエコ・ファースト企業として、CO2削減に取り組まれていますが、着手に至った経緯や現在の取り組みについてお聞かせください。

竹中:ノーリツは、2009年にエコ・ファースト企業として認定されました。ISOの活動を全社的に展開していく中で、より地球環境に優しい企業に転換するため「エコ・ファースト企業」の認定取得を進めてきました。

企業としての認定を取得しただけではなく、社員に対して「エコ検定」を推奨し、7割近い社員が「エコ検定」を取得するなど、エコ・ファースト企業であるということを意識しながら全社的な環境活動を展開しています。

坂本:ノーリツ様は、会社の考えや方針をどのように社員へ伝えているのでしょうか。

竹中:現在、2023年までの中期経営計画を展開しているのですが、大切にしていることは「方針展開をしっかり構造化する」という取り組みです。

これまでも、企業風土の改革に取り組んできましたが、なかなか一貫性を持てないという課題がありました。方針展開をしっかり構造化して、上位方針を展開していき、従業員が自分の課題として貢献した実感を得られるように対応しているところです。

構造化された方針を運用していく基盤には、人事制度があります。従来のメンバーシップ型から、ジョブ型とメンバー型のハイブリッドに転換しています。また、若手の抜擢や、成果を報酬に繋げるパフォーマンスマネジメントを展開しています。

そして、組織の健康状態を測るために「エンゲージメントサーベイ」を導入しています。その結果から組織の状態をタイムリーに把握するとともに、1on1のミーティングで日々の状況を確認し、課題の取り組みを加速させようとしています。

▽質問に答える竹中氏

ノーリツ
(画像=株式会社ノーリツ)

脱炭素社会の実現に向けたノーリツの戦略と課題

坂本:「脱炭素社会の実現」という世界的な大きな流れは、御社のビジネスにとってリスクになるとお考えでしょうか。

竹中:ガスを燃焼させてお湯を作る過程でCO2が発生します。ノーリツが製造する製品や関わった事業活動から排出される年間のCO2排出量は、日本全体の約1.6%を占めており、脱炭素化の流れはノーリツにとって、非常に影響が大きいものです。そのため、「ノーリツのビジネスにはリスクがある」という考えはあるかもしれません。

しかし、ノーリツとしては「脱炭素を実現する新しい製品を開発して、さらなる飛躍をするチャンスだ」と捉えながら、今後の事業展開のベースとして認識しながら取り組んでいくべきだと思っています。

坂本:ノーリツ様は「2030年までの低炭素化フェーズ」と「2050年までの脱炭素化フェーズ」に分けて、CO2削減のロードマップを引いています。前者のフェーズにおける具体的な戦略や課題を教えてください。

竹中:ノーリツにおける年間CO2排出量の96%が、販売した製品の使用段階で発生するものです。従って、「販売する製品」でCO2を削減することが大きなテーマです。

「2030年までの低炭素フェーズ」では、環境対応型商品をしっかり販売していきます。ノーリツの給湯器には、潜熱回収型給湯器“エコジョーズ”(排熱を再利用)や、ヒートポンプ給湯機(再生可能エネルギーを活用)とガス給湯器のいいとこ取りをしたハイブリッド給湯機があります。これらをしっかり認知させながら、販売構成を高めることが重要だと思っています。

坂本:「2050年までの脱炭素化フェーズ」についての、戦略や課題を教えてください。

竹中:家庭内のエネルギーが、今後、どのように変化するのか、ノーリツはイニシアチブを取ることができません。電気やガスといったエネルギー会社のインフラが、どのように変わるか分かりません。そのため、どのような状況にも対応できる給湯器の開発が求められています。

たとえば、水素の需要が高まってくれば、水素燃焼技術が必要になります。再生可能エネルギー(以下、再エネ)を含めた電気の構成が高くなってくればヒートポンプ給湯機などの開発、メタネーションガス(CO2と水素からメタンを合成したガス)のニーズが高まれば、その燃焼技術が必要になります。

家庭内のエネルギー状況がどのようなに変化しても、それに対応できるような技術開発をしっかり行うことがノーリツの課題だと思っています。

坂本:脱炭素に向けて、ノーリツ様の製品の強みはどこにあるとお考えでしょうか

竹中:ノーリツには、燃焼制御技術や熱交換技術、ガス・水含めた流体制御技術といった、給湯器で培ったノウハウがあります。これらは他社にはない強みだと認識しています。これからも熱利用に関する技術を、より深めていきます。

坂本:低炭素・脱炭素化を見据えた自社設備への投資はどのような基準で進めているのでしょうか。

竹中:自社の設備投資については、ICP(インターナルカーボンプライシング)の考え方を導入しています。2022年からは、投資判断にICPの要素を組み込むようにしています。

ノーリツの再生可能エネルギーの活用状況

坂本:ノーリツ様は、RE100(Renewable Energy100)に加盟しています。「2030年に国内生産事業所の再エネ電力100%」を掲げていますが、現状の活用状況を教えてください。また、今後、どのように再エネ活用の数字を伸ばしていく計画でしょうか。

竹中:下のグラフが、国内生産事業所でのRE100達成に向けたロードマップです。現在は、4%ほど再エネを活用している状況です。

▽RE100達成までのロードマップ

ノーリツ
(画像=株式会社ノーリツ)

これからは、徹底的な省エネを行い、全体の使用量を減らしていきます。プラスアルファとして、再エネ電力を活用し、コストを上げずに再エネの活用化を進めていこうと考えています。コストは多少見え辛い状況ですが、コスト増加が財務のインパクトにならないように再エネを使っていくことが課題になります。

今後、地政学などの影響を受けて、電力コストの状況がどう変わっていくのか不透明です。状況をしっかりウォッチングしながら、適宜、必要に応じて再エネ電力への切り替えを図っていこうと考えています。

ノーリツの社会貢献活動について

坂本:ノーリツ様の社会貢献活動についてお聞きします。生物多様性保全活動として、クリーンウォーク、里山体験、ブルー&グリーンプロジェクトなどの活動をされていますが、今後はどういった活動を計画しているのでしょうか。

竹中:エコ・ファースト企業の活動として、環境と生物多様性への取り組みを行ってきました。また、給湯器のリサイクル(資源循環)事業に10年前から取り組んでおり、給湯器に多く含まれている銅などの素材を回収しています。ノーリツは1年間で約100万台の給湯器を生産出荷しているため、これら製品のリサイクル(資源循環)により力を入れていきます。

また、リサイクル事業を通して、障がい者の雇用機会を創出しています。地域の福祉施設とタイアップし、障がい者の方々に分解作業をお願いする形で就労支援を行っています。この事業は、資源循環という環境課題解決と障がい者の雇用促進という社会課題解決の両立を実現している事業です

ノーリツの活動は、「社会貢献」から、「社会課題解決」という軸足に変化してきている状況です。

ノーリツが取り組むDXやIoT

坂本:ノーリツ様のDXやIoTへの取り組み状況や、考え方を教えてください。

竹中:DX化は、2つの軸で進めていこうと考えています。

1つめは「もの作り」です。社内におけるサプライチェーンやバリューチェーンを、どのようにDXで繋げていくかに取り組んでいます。

これまでは、生産、購買、開発のシステムが、1本化できていませんでした。また、本部制を敷いていることで、各本部が他部門と連携するようなシステムにはなっていませんでした。昨年、DXを推進する専門部隊を立ち上げ、データをシームレスに繋いで、開発や生産の工数を下げていく取り組みを進めています。

2つめは、販売モデルのDX化です。ノーリツの事業は、流通を通じた売り切り型の販売モデルですから、IoTを使ってお客様とどう繋がるかが重要になると考えています。

坂本:今後、よりDXやIoTが進むことで、スマートシティを始めとした「スマート」というキーワードが様々な分野で絡んでくると思っています。ノーリツ様が、「スマート」について考えていることはありますか。

竹中:大手ハウスメーカーからスマートホームについての相談を受けています。具体的には、住宅や機器とお客様を繋げるインターフェースの開発協力で、そこは進めていくべきだろうと思っています。

「見える化」への課題と、情報開示への考え方

坂本:ノーリツ様では「ノーリツレポート」「ESGデータブック」などコーポレートサイト上でESGに関するデータを開示しています。

環境パフォーマンスの向上などを実現する上で、どのようなエネルギーをどのように消費しているか把握することが大切になってきますが、消費しているエネルギーの「見える化」に課題はありますか。

竹中:国内については、第三者保証を入れて「見える化」に取り組めています。しかし、海外についてはパフォーマンスを見ることが難しく、プラットフォームをどのように整備していくのかが課題の1つであると認識しています。

坂本:ESGへの取り組みに関する数字を公表することにメリットを感じない企業はあるかと思いますが、ノーリツ様は情報開示についてどう考えていますか。

竹中:CO2排出量の情報開示については、スコープ1.、2.、3.の数字をしっかりと見せたいと思っています。ノーリツは、情報開示していきながら「いかに数字を下げるか」や「どうマネジメントするか」というところに挑戦し、その取り組みの中で新たな課題が生まれてくると認識しています。

▽質問した坂本氏

アクシス
(画像=株式会社アクシス)

投資家へのメッセージ

坂本:最後に、ノーリツ様はステークホルダー、特に投資家の皆さまに対しどのようなスタンスで、どのような利益をコミットしていくのかをお伺いできればと思います。

竹中:まず、業績の部分についてですが、ROE(自己資本利益率)の5%を確実に達成できるように、2023年までの中期経営計画の中でしっかり推進していこうと考えています。PBR(株価純資産倍率)が1倍割れになっているという状況を踏まえて、収益力を上げることが最も重要な課題だと思います。

コロナ禍で、さまざまなサプライチェーンの分断があり、改善に向けて尽力しています。まず、中期経営計画をしっかりと達成して、ROE(自己資本利益率)の向上を図りながら、企業価値を高めていく活動が必要だと認識しています。

この先の計画に関しては、ノーリツが持つ見えない資産である「Q+ESG」、これをいかにマネタイズしていくかがポイントだと考えています。次期中期経営計画の戦略を描く中で「Q+ESG」をしっかり認識しながら、どのように事業活動や財務資本戦略を展開するべきか検討し、次期中期経営計画の中でステークホルダーの皆さまにお示ししたいと考えております。

今後は、1つの企業だけで技術やノウハウを蓄積していくのはとても難しくなってくるでしょう。いろいろな企業と連携しながら、どう付加価値を高めていくかがポイントになると考えています。本日の対談のように、多くの人と情報交換することで、そこで生まれたジャストアイディアが世の中のベースになるかもしれません。