この記事は2022年6月7日(火)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『労働市場の逼迫から賃金上昇が生れる方向に』」を一部編集し、転載したものです。
要旨
失業者の減少トレンドと比較をして、失業率の低下幅が大きい。更に、新規求人数のトレンドが、有効求人数のトレンドを上回り始めた。新型コロナウィルスの感染が抑制されてきて、経済活動が回復しつつあることを反映している。労働市場の逼迫から、賃金上昇が生れる方向に動き始めているようだ。
新型コロナウィルスの感染が抑制されてきて、経済活動が回復しつつある。耐久財とサービスともに、消費にはリバウンドの動きがみられる。一方、エネルギー価格の上昇が家計の購買力を削ぎ、消費需要を減退させることで、国内のデフレ圧力が徐々に蓄積されることに警戒する必要がある。
2022年4月の日銀実質消費指数
2022年4月の日銀実質消費指数は前月比+0.8となった。2022年3月の同+2.9%から2カ月連続の上昇となった。新型コロナウィルスの感染が抑制されてきて、経済活動が回復しつつあることを反映している。
2022年4月の3M/3Mは—1.5%と、同年3月の—2.6%から持ち直し、底割れは防がれたが、まだマイナス圏を脱せていない。感染抑制による経済活動の更なる回復と、政府の経済対策による家計支援などが支えとなり、持ち直しが続くことが期待される。
業界データなどで補強されたプラス指数と実質消費指数の比であらわすマクロ統計では見えにくい消費の2022年4月の前年同月比は−0.1%と、2021年10月から横ばいの動きとなっていて、まだ消費活動の回復が鈍いことを示している。
▽日銀実質消費活動指数
2022年4月の実質耐久財指数
2022年4月の実質耐久財指数が前月比+1.7%となり、2022年3月の同+4.8%に続き、全体の上昇をけん引した。2022年4月の3M/3Mは−1.3%と、まだ強さはみられない。部品不足などで、耐久消費財の納期が遅れていることも影響しているとみられる。
2022年4月の実質サービス指数は前月比+2.0%となり、2022年3月の同+4.9%に続き強かった。2022年4月の3M/3Mは—1.6%と、まだマイナス圏であり、同年1・2月の落ち込み分を取り戻せていない。
2022年4月のインバウンド指数の3M/3Mは0%と、動きはまったくない。海外からの旅行者の受け入れが始まっており、夏までにはリバウンドが期待される。
消費者の楽観度合を示す実質耐久財指数と実質非耐久財指数の比の4月の6M/6Mは—0.9%となり、昨年11月の底から持ち直しが続き、プラス圏までもう一歩のところだ。
▽実質耐久財指数と実質サービス指数
PCEデフレーター
名目消費指数と実質消費指数の比で表すPCEデフレーターの2022年4月の前年同月比は+2.1%となり、2022年3月の−0.5%から一気に上振れた。2020年10月以来のプラスとなり、一気に2%に到達した。昨年の携帯電話通信料の値下げの反動でジャンプしたCPIと同じような動きとなった。
PCEデフレーターは、需要側と供給側の統計からウェイトを作成したGDPベースなので、消費者物価指数よりも総じて物価のトレンドを把握しやすい。
これまで第3次産業活動指数を用いて「通信業」の実質値を推計していたが、今回から、サービス産業動向調査の「通信業」の売上高を消費者物価指数でデフレートする方法に変更となり、消費者物価指数に近い動きとなった。
2022年4月の消費者物価指数の同+2.5%と比較すると、上昇幅は緩やかだ。PCEデフレーターの2022年4月の3M/3Mでは+1%と、3カ月連続の上昇となっている。エネルギー価格の上昇が家計の購買力を削ぎ、消費需要を減退させることで、国内のデフレ圧力が徐々に蓄積されることに警戒する必要がある。
▽PCEデフレーター
2022年4月の失業率
2022年4月の失業率は2.5%と、同年3月の2.6%から3カ月連続で低下した。新型コロナウィルスの感染が抑制されてきて、経済活動が回復しつつあることを反映している。
2022年3月の失業者の6M/6Mは—5%と安定した減少トレンドが続いている。2022年4月の有効求人倍率は1.23倍と、同年3月の1.22倍から4カ月連続で上昇した。
4月の有効求人数の6M/6Mは+4.9%と安定した増加トレンドが続いている。4月の新規求人倍率は2.19倍と、3月の2.16倍から上昇した。3月の新規求人数の6M/6Mは+6.5%と、増加に加速感が出てきた。
失業者のトレンドが安定化している中での失業率の低下は、これまで労働市場から退出していた労働者の回帰が既に一服している可能性を示唆している。更に、新規求人数の増加トレンドが有効求人数より加速を始めている。労働市場の逼迫から、賃金上昇が生れる方向に動き始めているようだ。
▽失業率と失業者
▽有効求人倍率と新規求人倍率
▽有効求人数と新規求人数
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