この記事は2022年3月7日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米雇用統計(22年2月)-雇用者数、失業率ともに市場予想を上回る改善を示す好調な結果」を一部編集し、転載したものです。
目次
1 ―― 結果の概要:雇用者数、失業率ともに前月、市場予想を上回る改善幅
3月4日、米国労働省(BLS)は2月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+67.8万人の増加1(前月改定値:+48.1万人)と、+46.7万人から上方修正された前月を上回ったほか、市場予想の+42.3万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表 - 2参照)。
失業率は3.8%(前月:3.9%、市場予想:4.0%)と、こちらも前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想より改善幅が上回った(後掲図表 - 6参照)。労働参加率2は62.3%(前月:62.2%、市場予想:62.2%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、前月、市場予想を上回った(後掲図表 - 5参照)。
*1:季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
*2:労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
2 ―― 結果の評価:雇用者数、失業率ともに米労働市場の堅調な回復持続を示唆
2月の非農業部門雇用者数(前月比)は前月から大幅に伸びが加速し、21年7月(+68.9万人)以来の水準となった。この結果、22年の月間平均雇用増加ペースは+58.0万人と1950年の統計開始以来最高となった21年の+56.2万人をさらに上回っており、足元で堅調な雇用回復を確認した。
また、2月の失業率も労働参加率の改善を伴って前月から低下し、こちらは新型コロナ流行前(20年2月)の3.5%まで僅か0.3%ポイントと、新型コロナ流行前の水準への回復が視野に入ってきた。
時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比横這い(前月改定値:+0.6%、市場予想:+0.5%)と+0.7%から下方修正された前月、市場予想を大幅に下回った。また、前年同月比も+5.1%(前月改訂値:+5.5%、市場予想:+5.8%)と、こちらも+5.7%から下方修正された前月、市場予想を下回った(図表 - 1)。このため、2月は前月比、前年同月比ともに賃金上昇圧力が緩和したことを示す結果となった。
このようにみると、2月は1月に続き、オミクロン株の感染拡大に伴う労働市場への影響が限定的となったほか、当月は雇用者数、失業率ともに好調な結果となり、堅調な労働市場の回復持続を確認した。また、これまで労働供給の回復の遅れを背景とした労働需給の逼迫から賃金上昇圧力が高まっていたものの、2月は労働参加率の回復にみられるように労働供給の回復を背景に賃金上昇圧力が一服しており、3月以降も同様の傾向が続くのか注目される。
3 ―― 事業所調査の詳細:民間部門は広範な分野で雇用の伸びが加速
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+54.9万人(前月:+42.4万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表 - 2)。
民間サービス部門の中では、小売業が前月比+3.7万人(前月:+6.9万人)、運輸・倉庫が+4.8万人(前月:+5.1万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した。一方、娯楽・宿泊業が+17.9万人(前月:+16.7万人)と堅調な伸びを維持したほか、医療・社会扶助サービスが+9.4万人(前月:+1.3万人)、専門・ビジネスサービスが+9.5万人(前月:+7.3万人)と伸びが加速した。
財生産部門は前月比+10.5万人(前月:+2.4万人)と前月から大幅に伸びが加速した。製造業が+3.6万人(前月:+1.6万人)、建設業も+6.0万人(前月:+0.7万人)と伸びが加速して全体を押し上げた。
政府部門は前月比+2.4万人(前月:+3.3万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府では横這い(前月:▲0.1万人)と前月からマイナス幅が縮小したものの、州・地方政府が+2.4万人(前月:+3.4万人)と伸びが鈍化した。
前月(1月)と前々月(12月)の雇用増加数(改定値)は前月が+48.1万人(改定前:+46.7万人)と+1.4万人上方修正されたほか、前々月が+58.8万人(改定前:+51.0万人)と+7.8万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+9.2万人の上方修正となった(図表 - 3)。
BLSの公表に先立って3月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+47.5万人(前月改定値:+50.9万人、市場予想:37.5万人)と▲30.1万人から大幅に上方修正された前月を下回ったものの、市場予想を大幅に上回った。この結果、ADP社の統計は前月から伸びが鈍化した一方、雇用統計では前月から伸びが加速するなどの相違はあるものの、いずれも足元で堅調な雇用拡大が持続していることを確認する結果となった。
2月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が31.58ドル(前月:31.57ドル)となり、前月から+1セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.7時間(前月:34.6時間)と前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,095.83ドル(前月:1,092.32ドル)と前月から増加した(図表 - 4)。
4 ―― 家計調査の詳細:労働参加率の上昇基調が持続
家計調査のうち、2月の労働力人口は前月対比で+30.4万人(前月:▲13.7万人)となった。内訳を見ると、失業者数が▲24.3万人(前月:+13.5万人)と減少したものの、就業者数が+54.8万人(前月:▲27.2万人)と失業者数の減少幅を大幅に上回る増加となり労働力人口を押し上げた。非労働力人口は▲18.3万人(前月:+23.1万人)と減少した。これらの結果、労働参加率は62.3%となり、21年9月の61.7%を底に上昇基調が持続している(図表 - 5)。
一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は2月が82.2%(前月:82.0%)と前月から+0.2%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が88.8%(前月:88.2%)と前月から+0.6%ポイント上昇した一方、女性が75.8%(前月:76.0%)と▲0.2%ポイント低下した。女性は21年9月から4ヵ月連続上昇していたが、2月は上昇が一服となった。
2月の失業率は労働参加率の改善を伴って低下しており、引き続き労働需給が逼迫している状況を示した(図表 - 6)。
2月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は170.2万人(前月:169.1万人)と前月から+1.1万人の小幅な増加となった。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも26.7%(前月:25.9%)と前月から+0.8%ポイント上昇した(図表 - 7)。平均失業期間は26.6週(前月:24.6週)とこちらも前月から+2.0週長期化した。
最後に、周辺労働力人口(147.1万人)*3や、経済的理由によるパートタイマー(413.5万人)も考慮した広義の失業率(U-6)*4 図表 - 8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.4%ポイント(前月:+3.1%ポイント)と前月から+0.3%ポイント拡大した。
*3:周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
*4:U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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