この記事は2022年4月26日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「経済成長を下振れさせかねない4つのリスク」を一部編集し、転載したものです。


経済成長を下振れさせかねない4つのリスク
(画像=PIXTA)

ウクライナ危機がユーロ圏経済を圧迫している。欧州中央銀行(ECB)が2022年4月上旬にエコノミストなどの専門家を対象に行った四半期調査(SPF)では、2022年の成長率見通しは、前回1月調査時の前年比4.2%から同2.9%へ大幅に下方修正された。2023年見通しについても、同2.7%から2.3%へ引き下げられている。一方、インフレ率見通しは22年が前年比3.0%から同6.0%へ顕著に引き上げられ、23年も同1.8%から2.4%へ上方修正された(図表)。

経済成長を下振れさせかねない4つのリスク
(画像=きんざいOnline)

ウクライナ危機は、食料やエネルギーといった一次産品を輸入するユーロ圏にとって、交易条件の悪化を通じて成長下押しと物価上昇に作用する。加えて、ウクライナ経済やロシア経済の落ち込みが、東欧を経由してユーロ圏経済を圧迫する。ユーロ圏の対ロシア貿易はエネルギー分野を除き限定的だが、中東欧との関係は他分野でも密接だ。

それでも、現時点でユーロ圏の景気後退局面入りは、多くが賛同する中心的な見通しではない。SPFにおいて2022年は4四半期すべての成長率予想が前期比プラスだ。失業率が史上最低に達するなど労働市場の回復が進み、ウクライナ危機に伴う下押し圧力の緩衝材として機能する見込みだ。

しかし、筆者は次の4つの観点から、成長の下振れリスクが明らかに大きいとみている。1つめは戦争状態の長期化リスクだ。執筆時点で停戦交渉に進展は見られず、経済への圧迫懸念が膨らむ。2つめに、エネルギー供給不足のリスクだ。経済見通しはエネルギー価格の急上昇を勘案しているが、ユーロ圏のエネルギー需要が満たされない事態をメインシナリオに据えていない。3つめは、欧州を取り巻く政治情勢の不安定化リスクだ。ウクライナ危機に対し、ユーロ圏やEUは政治的に一致団結した。しかし、北アフリカや中東の政治情勢が食糧危機により不安定化し、欧州に波及する懸念がある。そして最後に、金融政策運営の難しいかじ取りだ。

ユーロ圏経済は余剰がようやく消えた程度であり、経済動向だけ見れば、金融緩和の縮小は肯定されない。さらに、労働市場は逼迫しているが、賃金上昇ペースは加速していない。

賃金上昇が緩やかなことはインフレ動向にも表れている。2022年3月のユーロ圏のインフレ率は、総合では前年比7%を超えたが、食料とエネルギーを除けば3%程度にとどまる。ECBは、総合インフレ率の上昇を踏まえ、家計のインフレ期待と実際の物価上昇がスパイラル的に高まることを懸念して利上げに動こうとしている。ウクライナ危機がはらむ景気下押し圧力とあいまって、利上げが成長に冷や水を浴びせる可能性を否定できない。

SMBC日興証券 チーフマーケットエコノミスト/丸山 義正
週刊金融財政事情 2022年4月26日号