この記事は2022年6月23日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「ランキングと独占禁止法-「食べログ」に関する東京地裁判決」を一部編集し、転載したものです。
2022年6月16日、有名グルメサイトである「食べログ」に、掲載飲食店に対して賠償を行うべきとの判決がでた。報道(*1)によれば、「食べログ」が各店舗に付しているランキング(5点満点中何点か)についてアルゴリズム(計算手法)を変更した結果、原告である飲食チェーンが、チェーン店であることを理由としてランキングが下がったと主張し、損害賠償を求めた。東京地裁は、このような行為は独占禁止法が禁じている優越的地位の濫用に該当するとして、飲食チェーンの損害賠償請求を認めたというものである。
筆者は現時点で判決文を入手出来ておらず(さらに判決文は一部不開示の模様)、また第一審判決であることも考慮すると、さしあたり本判決についての筆者の考えるところを述べることにとどめたい。
まず、ランキングが独占禁止法との関係で現在どのように位置づけられているかを確認する。一般にランキングとは、広義には店や商品に点数を付与すること、プラットフォーム上のお勧めに表示すること、検索結果で上位に表示することなどが含まれると考えられる(*2)。日本においては、関連があるのは2021年2月施行の「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(*3)である。本法では、ランキングについての規定があり、商品等利用提供者(いわゆるビジネスユーザー)と利用者(エンドユーザー)との両方に対して、ランキング決定にあたっての重要事項を開示しなければならないとされている(法5条2項1号ハ、2号イ)。特にランキング付与にあたって広告宣伝費の支払が影響を与える場合はその旨も開示する必要があるとされている。本法は開示について規定しているが、独占禁止法違反行為に関する予防法的な性格も有する。
ちなみに、本法は大規模なデジタルプラットフォームを「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、法律を適用する(法4条)が、「特定デジタルプラットフォーム提供者」に食べログは指定されていない。
海外の事例を見てみよう。まず目につくのは、Google Shopping事件である(*4)。Googleは自社の比較販売サイトであるGoogle ShoppingをGoogle検索で上位に表示していた。これを欧州委員会はEU機能条約(EU競争法)違反であるとして、2017年に課徴金を賦課した。これに対してGoogleが訴訟を提起したが、EU一般裁判所は欧州委員会の決定を認めた(=EU競争法違反であると認めた)というものがある。ここで注目いただきたいのが、Google ShoppingはGoogle(Alphabet)の傘下にあるサービスであることである。つまり、自社グループサービス優遇のためにランキングに差異を設けたと見ることができる。
もう一つの事例としては、2020年11月に公表された欧州委員会によるAmazon第二次調査である(*5)。概略としてはAmazonの有償の商品保管運送サービス(フルフィルメントサービスという)を利用する小売業者に対しては、Amazon Prime会員への優先的な提案を可能にするなどの有利取扱いが行われており、それはEU競争法違反ではないかという点についての調査を行うものである。この事案では(認定されれば)、デジタルプラットフォームの自社サービスを利用する小売業者を優遇するために、ランキングに差異を設けたと見ることのできる事案である。
つまり、ランキングに差別的な取り扱いを設けることは、他社の利益を犠牲にしつつ、ランキングを設定するプラットフォーム提供者サイドの利益を確保することが通例である。
そうすると今回の「食べログ」判決で疑問なのが、チェーン店であることで不利益に取り扱うことに関する「食べログ」側のメリットが見えてこない点である。チェーン店であることが減点要素となることにそもそも合理性があるのかについては議論のあるところであろうが、「食べログ」自身の利益のためとは認定しがたいアルゴリズム変更である可能性がある。
ところで優越的地位の濫用であるが、本件に関連したところでいうと、(1)自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、(2)正常な商慣習に照らして不当に、(3)相手方に現状よりも不利益となるように取引条件を設定する(独占禁止法2条9項5号)ことである。
「食べログ」は月間利用数が8700万を超える大きなプラットフォームであって、「食べログ」経由での予約があり、飲食店も会員契約を簡単にやめるわけにはいかないことを考えると(1)は満たしそうだ。また、報道によると相手方に不利益になるように一方的にランキングを下げたということであるから(3)も満たしそうである。問題は(2)正常な商慣習に照らして不当にと言えるかである。「正常な商慣習に照らして不当」かどうかは相手方の不利益の程度、その取引条件が広く用いられているか、取引条件があらかじめ明確にされているかなどを考慮するとされている6。
上述の通り、「食べログ」サイドのメリットは見えず、可能性としては、チェーン店であることについてランキングの減点要素として考慮すること自体は、正常な商慣習に照らして不当とまではいえないかもしれない。ただし、仮にそうだとしても、報道によればこれまで減点要素でなかったものを減点要素としたようである。このように、特に売上高に直結するランキングを左右できる立場にいる運営会社が、既存の取引相手方に不利益となる、これまでとは異なる取引条件を適用する場合には、相当の透明性を確保し、納得性のある説明や代替策の提示等をもって行わないと優越的地位の濫用とされる可能性がある。
以上からチェーン店のランキングを下げることとなったアルゴリズム変更に際しての事実関係の詳細な評価・分析が不可欠となる。しかし筆者には現時点で特段の情報はなく、今回の検討はここまでとしたい。
*1:たとえば日経新聞6月17日朝刊
*2:EUのデジタル市場法案6条5項 https://www.consilium.europa.eu/media/56086/st08722-xx22.pdf 参照
*3:基礎研レポート「デジタルプラットフォーム透明化法案の解説」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/64519_ext_18_0.pdf?site=nli 参照
*4:基礎研レポート「グーグルショッピング EU 競争法違反事件判決」 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/69734_ext_18_0.pdf?site=nli 参照
*5:基礎研レポート「デジタル・プラットフォーマーと競争法(3)Amazon を題材に」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/67955_ext_18_0.pdf?site=nli 参照
*6:幕田英雄「公取委実務から考える独占禁止法」(商事法務2017年)p232参照
松澤 登(まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任
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