株の売買タイミングの判断には、投資指標の分析が非常に大切である。しかし、PBRやPER、ROEなど混同しやすい投資指標が数多くあるため、具体的にどの指標が何を表しているのか、違いを説明できない人も少なくないのではないだろうか。今回はこれらの指標のなかでも特にPBRに焦点をあて、その内容を詳しく見ていくことにしよう。その上で、この代表的な指標を実際の投資でどのように活用すればよいのかを解説する。

目次

  1. PBRとはどのような指標?
  2. バリュー投資か、グロース投資か。投資手法とPBRの関係性
  3. 投資をする際のPBRの目安は?
  4. PBRを投資に活かす具体的な方法とは?
  5. PBRを見る際の注意点とは?
  6. まとめ:割安株の目安に使われるPBR。他の指標とともに活用したい

PBRとはどのような指標?

PBRとはどのような指標? PERとどう違う? 株式投資で実践に活かす方法
(画像=tiquitaca/stock.adobe.com)

PBRが株価の割安・割高を判断する尺度であることは知っていても、その詳しい定義や、混同されがちなPERとの違いがあやふやな人は多いのではないだろうか。まず、PBRの意味をしっかり理解しておこう。

PBRとは?

PBR(ぴーびーあーる)とは「Price Book-value Ratio」の略語で、日本語では株価純資産倍率(かぶかじゅんしさんばいりつ)と訳されている。

この指標は企業の「資産価値」から見て、株価の割安や割高を判断する尺度で、この値が相対的に高いほど株価は割高であり、逆に低いほど割安と判断される。

PBRは以下の式で表される。

▽PBRの計算式

PBR(株価純資産倍率)(倍) = 株価 ÷ 1株あたりの純資産(BPS)

PBRをより理解するために、1株あたりの純資産(BPS:Book-value Per Share)を詳しく見ていこう。BPSは「びーぴーえす」と読む。以下の式で表される指標である。

▽BPSの計算式

BPS(1株あたりの純資産) = 純資産 ÷ 発行済株式数

純資産は企業の資産総額から負債総額を引いた金額だ。

株式を保有するということは、部分的にその企業のオーナー(所有者)になるということである。たとえば、会社が事業活動をやめて解散する場合、会社は負債をすべて返済し、残った財産(=純資産)を株主に配分することになる。

1株あたりの純資産(BPS)はこの時の金額、つまり1株あたり「どれだけの純資産を受け取れるのか」を表す。このような性質から1株あたりの純資産(BPS)は「解散価値」とも呼ばれる。

PBRは、現在の株価と1株あたりの純資産(BPS)の比率を示す指標だ。PBRの値が小さいということは、1株あたりの純資産(BPS)に比べて株価の価値が低いので、その株価が割安であることを示す。

PERとの違いは?

PBRとよく混同されやすい指標にPER(ぴーいーあーる)がある。PERは「Price Earnings Ratio」の略語で、「株価収益率」(かぶかしゅうえきりつ)と訳される。

PBRが株価と企業の「資産価値」との比較だったのに対し、PERは企業の「利益水準」から見て株価の割安・割高を判断する尺度だ。PERも相対的に高いほど割高、低いほど割安と判断される。

▽PERの計算式

PER(株価収益率)(倍) = 株価 ÷ 1株あたりの純利益(EPS)*
* 1株あたりの純利益 = 当期純利益 ÷ 発行済株式数

ROEとの関係は?

関連の深い株式の投資指標として、ROE(あーるおーいー)を紹介しておこう。ROEは「Return On Equity」の略称で、自己資本利益率と訳される。計算式は下記の通りである。

▽ROEの計算式

ROE(自己資本利益率)(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

ROEは株主が拠出した自己資本を用いて、会社がどれだけの利益を上げたかを示しており、投資家が株主としての投資効率を測る指標となる。

ROEは純資産=自己資本とすると、PBRをPERで割ったものと等しくなる。

▽ROE、PER、PBRの関係(自己資本=純資産のとき)

ROE = PBR ÷ PER

バリュー投資か、グロース投資か。投資手法とPBRの関係性

株式投資の銘柄選択は、その着眼点により「バリュー投資」と「グロース投資」に分けられる。これらの投資手法と、PBRをはじめとする指標の関係性を見てみよう。

バリュー投資とグロース投資の違い

バリュー投資とは、個別銘柄の割安性に注目して銘柄選択をする投資手法である。企業の株価が、利益水準や資産価値から判断して割安であれば、買い付けを行う。

多くの場合、個別銘柄の代表的な投資指標であるPBRやPERなどが判断材料となり、これらの数値が相対的に低い銘柄を選ぶことになる。

・大きな株価上昇より、中長期の値上がり期待するバリュー投資
バリュー投資のメリットは、株式市場全体が下落している時でも、株価の下落を比較的小さく抑えられることが期待できる点である。PBRやPERが低いということは、元々割安に売られていたことを意味するからだ。

一方、あくまで企業の成長でなく、いま割安で売られている株が本来の価値に戻ることを期待する投資手法なので、短期間で株価が大きく上昇することは期待できない。どちらかと言えば中長期的に値上がりを待つ投資手法と言える。

対してグロース投資とは、個別銘柄の成長性を重視して銘柄選択をする投資手法である。市場平均よりもPBRやPERなどの数値は多少高くなりがちだが、それよりも今後の将来性の評価を重視して投資を行う。

・短期での株価上昇を期待するグロース投資
グロース投資のメリットは、株価の大きな値上がりが期待できる点である。そもそも株式はその企業に対する期待度により株価が上下する性質を持っているので、期待が大きい企業の銘柄を選ぶグロース投資は、バリュー投資に比べ短期での利益を狙う投資と言える。

しかし、銘柄選択の基準が将来の成長性を重視しているため、バリュー投資に比べ、株が割高に買われていることが多い。したがって、売上の減少などでその成長性に疑問が生じると、株価が大きく下落することもある。

バリュー投資が優勢なタイミング、グロース投資が優勢なタイミング

バリュー投資とグロース投資は、景気や金利の状況によってそれぞれ優勢なタイミングが異なる。特に金利が上昇する局面ではバリュー投資が優勢になり、金利が下落する局面ではグロース投資が優勢になると言われている。

金利上昇の局面でバリュー投資が優勢になる原因は多岐にわたるが、そのなかの1つが株式益利回り(かぶしきえきりまわり)が低いことだ。

株式益利回りは1株あたり純利益を株価で割ったもので、PERの逆数になる(株式益利回り=1÷PER)。通常、PERが低いほど株価が割安とされるのに対し、株式益利回りは高いほど株価が割安と判断される。

株価と1株あたりの純利益を比較する点はPERと同じだが、逆数となっているのは、この指標が金利水準との比較を目的としているためである。

たとえば、PERが10倍の株式では株式益利回りは10%だが、PERが50倍なら株式益回りは2%となる。この場合、後者の株式は益利回りが低いため、金利が高くなると投資魅力が下がり、売られやすくなる。

グロース投資で選ぶ銘柄はバリュー株に比べ一般的にPERが高い=株式益利回りが低い傾向にあるので、金利が上がるとグロース株が売られやすく、バリュー株が優位になるのである。

また、金利が上がると資産調達のしやすさにも影響が出る。金利が高くなると借入金に対して返済しなければならない金額が金利上昇分だけ高くなるので、資金調達コストが高まる。

グロース投資では高い成長が期待できる企業を選ぶが、高い成長を果たすためには人材や資材などへ投資するための資金が必要になる。資金調達コストの上昇のために、もし借り入れを控えると、将来に必要な投資が行えず、事業拡大にブレーキがかかることも予想される。

したがって、企業の成長を期待するグロース投資よりも、大きな値下がりのリスクが少ないバリュー株へ投資家が流れると言われているのだ。

バリュー投資では収益バリューをPER、資産バリューをPBRで確認する

バリュー投資ではPERとPBRを利用して銘柄がどの程度割安なのかを確認する。

まず、企業の収益バリューを確認するのに有効なのがPERだ。PERは株価を1株あたり純利益(EPS)で割ったものなので、純利益が高くなればなるほどPERは低くなる。純利益というのは要するに企業の「稼ぐ力」なので、株価に対してその稼ぐ力が大きければ、その銘柄は割安と判断できるのである。

企業の資産バリューはPBRで確認する。PBRは株価を1株あたりの純資産(BPS)で割ったものであり、1株あたりの純資産(BPS)は解散価値と呼ばれることは前述の通りである。

企業の実際の帳簿上の価値は1株あたりの純資産(BPS)で表されるが、株価は財務状況の他、将来への期待度などさまざまな要因で決まるため、本来の価値より安い値段がついていることがある。

PBRはまさに株価と1株あたりの純資産(BPS)を比較した尺度であるので、PBRが相対的に低ければ本来の価値より割安と判断できるのである。

投資をする際のPBRの目安は?

実際に投資をするときのPBRの目安は何倍ぐらいになるだろうか。

PBR「1倍」が目安の理由とは?

PBRの大きな目安となるのは「1倍」である。

PBRは株価を1株あたりの純資産(BPS)で割った指標だ。1株あたりの純資産は会社が解散した時、1株あたりの株主が配分される純資産の額(=解散価値)を表す。

たとえば、PBRが0.8倍の企業を考えてみる。1株あたりの純資産が5,000円とすると、株価は4,000円と計算できる。この場合、もし4,000円で株を買った直後にその会社が活動を停止し解散したとすると、理論上は1株あたり5,000円が配分されることになる。つまり、企業の成長など関係なく1,000円利益が出るわけだ。

PBRが「割安」と言われる基準は?

実際にPBRが割安の基準はどれぐらいだろうか。最もわかりやすいのが、市場全体との比較だろう。

たとえば、2022年5月時点で東証プライム市場に上場している1,822社の平均PBRは、1.2倍である。つまり、個別の企業を見るとき、PBRが1.2倍より低ければ、全体的な相場より割安であると言える。

PBR1倍を超えると投資対象としては外したほうがいいのか?

PBR1倍が株価と会社の解散価値が等しくなる倍率で、大きな目安にはなるが、それでは倍率が1倍を超えるものは投資対象から外すべきなのだろうか。

東証プライム市場に上場している1,822社の平均PBRは1.2倍であることは紹介したが、これは本来1万円の価値のものが1万2,000円で売られているのと同じである。たとえば、これが1万円の商品券だとしたら、1万2,000円を出して買う人はいないだろう。

しかしながら、会社は価値が変わらない商品券ではない。本来の価値の1.2倍でも株を買う人がいるのは、将来の成長を期待しているからである。

この将来の成長への期待は、業種によって異なる。したがって、将来への成長が期待される業種のPBRでは高くなる傾向にあり、逆に今後それほど成長が期待できない業種は低くなる傾向があるのである。

たとえば、東証プライム市場に上場しているなかでも、将来の成長が期待されている情報・通信業の企業151社に目を向けると、PBRは1.7倍となっている。このような業界であればPBRが1.3倍であっても割安と言え、十分投資対象になり得る。

PBRを投資に活かす具体的な方法とは?

PBRが企業の割安や割高を示す指標だということはわかったが、実際にはどのように投資に活かすことができるのだろうか。

PBRを投資に活かす方法1:相場の下落局面で活用する

PBRは個別企業に対しても使われるが、相場の下落局面で活用されることも多い指標である。

日経平均株価は、100年に1度の大不況と言われたリーマン・ショックの影響が残る2009年の3月に0.81という過去最低水準まで下落した。今後リーマン・ショック以上の大不況が起こらない保証はないが、現在でもPBR0.81倍という値が目安とされることは多い。

たとえば、コロナ・ショックで株価が大きく下落した2020年3月15日に日経平均株価のPBRは0.82倍となり、上記の過去推定水準に迫った。しかし、その後は回復し、2ヵ月後の5月19日には1倍を越えている。

この場合、PBRが0.81倍に迫った時点でそろそろ底値であると予想ができていれば、多くの銘柄を割安で購入することができたはずだ。

PBRを投資に活かす方法2:割高銘柄のスクリーニングの指標として活用する

PBRはバリュー投資において割安な株を判断する際に利用されることが多い。しかし、企業にはさまざまな形態があるので、実際にはPBRだけで本当に株価が割安なのかを判断することは難しい。

たとえば、赤字が続いている企業では将来的に純資産が減ってしまう可能性がある。いまはPBRが1倍を下回っていたとしても、純資産の減少により将来的にPBRが高くなり、それによって株価のさらなる下落にもつながるかもしれない。

また、赤字とは言えなくても利益が伸び悩んでいる会社、また上場廃止などの可能性がある会社は、購入自体にリスクがあるので、PBRが低いという理由だけで購入するのは危険である。

PBRだけで確実に割安な株を見つけることは難しいが、大きな損失を避けるために、明らかに割高な銘柄を除外(スクリーニング)するためにPBRを利用するという方法もある。

PBRが高くても株が買われるのは、将来の大きな成長が期待できる企業だ。逆に言えば、それらの企業の成長が止まると投資家は一気に割高感を感じてしまい、株価の下落につながる可能性があるのだ。

そういった大きな損失を避けるためにも、市場平均、業界平均より明らかに割高な銘柄は避けた方が無難であろう。

PBRを見る際の注意点とは?

PBRは非常に有名な指標だが、単純にPBRが低い銘柄はすべて割安かというとそれほど単純なものではない。ここではPBRを利用する際の注意点を確認する。

PBR1倍の資産の中身の確認が必要

PBRが1倍の企業は、理論上は純資産額と株価のバランスが取れているが、同じ1倍でも純資産の質によってその価値は大きく異なる。というのも、将来的に減る資産とそうでない資産があるからだ。

具体的には、質の良い資産の代表例は現金や預金である。基本的にこれらの資産は減ることはない。

一方、建物・工場、機械装置、器具・備品といった固定資産は時間とともに価値が減少していく。また、大量の在庫を抱えている企業の場合、それらは棚卸資産として計上されているが、売れないままだと将来的に無価値になり、資産ではなくなる。

これらの資産の質は高いとは言えないことがわかるだろう。PBRが1倍以下であっても、質の高くない資産の将来的な減少を見越して割安のまま放置されているのかもしれない。

バリュートラップには注意が必要

PBRが1倍以下の割安な株であれば、理論上は本来の価値まで株価が上昇することが期待できる。しかし、割安な株がいつまでも割安なまま放置されることがある。この状態をバリュートラップと言う。

本来割安であるはずのPBRが1倍以下の状態が長く続いているということは、純資産の質が高くないなどの問題があることが多い。そのような企業では、何も変化がなければ割安のまま推移していくことになるだろう。

カタリストのタイミングが訪れなければ株価が上昇することはない

このような万年割安の状態に陥っている株を買う場合は、カタリスト、つまりその会社の株価が上昇につながるような材料やイベントが訪れるかどうかが重要なポイントになる。

カタリストの例としては、企業業績の改善や新製品開発、M&A、TOB(株式公開買付)などがある。投資指標だけでなく、ホームページやIR発表などに目を通し、株価上昇につながる材料を探すこともバリュー投資には必要だ。

まとめ:割安株の目安に使われるPBR。他の指標とともに活用したい

株式投資の代表的な指標であるPBRは、株価が割安か割高かを判断するのに用いられ、目安としてはPBRが1倍を下回ると割安と言われる。また、割安な銘柄を見つけるだけでなく、相場の下落局面の目安としてや、明らかな割高株のスクリーニングなどにも利用できることを覚えておくと、活用の幅が広がる。

ただし、PBRだけで判断すると、バリュートラップなどの罠に引っかかるリスクもある。あくまで他の指標や会社のIRなどと共に、判断の一材料として活用したい。