この記事は2022年7月5日に「第一生命経済研究所」で公開された「対面型サービスにおける供給制約」を一部編集し、転載したものです。


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目次

  1. 経済活動の正常化が進展する中で、対面型サービスの課題は需要喪失から供給制約へ

経済活動の正常化が進展する中で、対面型サービスの課題は需要喪失から供給制約へ

オミクロン株の猛威が落ち着いてきたことにより、人流は増加してきている。GoToイートや県民割が実施され、2022年7月前半からは全国を対象とした観光需要喚起策(全国旅行支援)の実施が予定されるなど、政策的な後押しも強化されている。経済活動が正常化に向かう中で、宿泊業や飲食業の休業率(休業者数/就業者数)はコロナ前の水準にまで低下しており、休業の必要が無くなっていることが示されている。

このこと自体はポジティブだが、問題は人手不足による供給制約の発生だ。日銀短観の雇用人員判断DIを見ると、一回目の緊急事態宣言の影響を受けた2020年6月調査で+27と人員の余剰感が強まっていた宿泊・飲食サービス(全規模)は、2022年6月調査では▲34と人員不足となっており、先行きも▲47と、一層人員不足が進むことが見込まれている。

第一生命経済研究所
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コロナ禍での対面型サービスにおける労働環境を確認すると、多くの対面型サービス事業者は従業員を休業させるという選択を余儀なくされた。また、雇用が維持できないこと、賃金が減少したことなどから、宿泊業・飲食業を中心とした対面型サービスにおける就業者数は大きく減少した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、対面型サービスの需要は急速に消失し、それに伴い人員は余剰感が急速に強まることになった。

足もとでは、経済活動の正常化が進展していく中で、コロナ前の水準にまで休業率が低下している。休業率の低下自体は、正常に対面型サービスが稼働していることの証左であり、望ましいことであるが、人員の不足感が強まる環境下では、事業者が保有する人員の稼働率に余裕が無く、新たな人員を確保する必要が出てくることを意味する。

新たな人員を確保する上では、全産業の人員余剰感を確認する必要があるが、全産業(全規模)の雇用人員判断DIを見ると、2022年6月調査で▲24、先行きが▲28と強まっており、対面型サービスのみならず、全体として人員が不足していることが示されている。

そのような環境下、宿泊業・飲食業といった対面型サービスが需要回復に向けて人員を確保することは困難であると言わざるを得ないだろう。

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人員のみならず、設備投資についても不足感が強まっている。長期に渡るコロナ禍での厳しい経営環境から、宿泊・飲食サービスの設備投資は大きく減少している。インバウンドの増加などを契機として、宿泊業・飲食業の設備投資額は増加傾向で推移してきたが、コロナ禍以降、設備投資額は大きく減少している。

今後、経済活動の正常化が進み、国内の対面型サービスが回復に加え、入国上限の緩和等による訪日外国人の本格回復も期待される。人員が不足している中で需要回復に対応するためには、デジタル対応等による効率化が欠かせないが、2年以上に及ぶコロナ禍の中で、対面型サービスには設備投資を積極的に行う体力が残っていないものと考えられる。

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経済活動の正常化が徐々に進展する中で、これまで大きな需要喪失に見舞われていた対面型サービスの需要が戻りつつある。しかし、人員や設備投資の不足は、対面型サービスに生じている新たなリスクとなってきている。対面型サービスの課題は需要喪失から供給制約へと移りつつあり、人員の確保や設備投資の実施により、早期に供給制約を解消することが求められる。

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 小池 理人