本記事は、眞山徳人氏の著書『会計士・税理士のための伝わるプレゼン術』(中央経済社)の中から一部を抜粋・編集しています。

レジュメ,資料
(画像=DESIGN ARTS/stock.adobe.com)

会計士・税理士のプレゼンは資料作りが8割

資料作りを重視すべき3つの理由

スティーブ・ジョブズ氏のような著名人が、たくさんの聴衆やカメラの前で舞台に立ち、大きなスクリーンの前で堂々と話す。そしてプレゼンテーションが終わると、聴衆が惜しみない拍手を送る……。

プレゼンテーションという言葉を聞いたときにまず想像するのは、そういった姿であることが多いのではないでしょうか。

確かに、身振り手振りを交えながら自信たっぷりにプレゼンテーションをする姿は、会計士・税理士のみならず、多くのビジネスパーソンにとって憧れともいえるものです。しかし、こういった伝え方(「デリバリー」という呼び方をすることがあります)は、プレゼンテーションの数ある構成要素のほんの一部にすぎません。

特に、会計士・税理士が行うプレゼンテーションのほとんどは、発表時に使用する資料を「いかにわかりやすく作るか?」といった部分で、出来栄えが8割がた決まってしまうものです。なぜそういえるのか、主な理由を3つほど挙げておきます(図表1-1)。

会計士・税理士のための伝わるプレゼン術
(画像=会計士・税理士のための伝わるプレゼン術)

【理由(1)】 会計士・税理士の作ったプレゼンテーション資料は、持ち帰って使われることが多い

最も大きな理由として挙げたいのは、税制や会計基準といった内容を取り扱うことの多い会計士・税理士のプレゼンテーション資料は、会社に戻って仕事をするときの参考書代わりに用いられることが多い、ということです。

例えば、毎年の税制改正について、一度セミナーで話を聞いただけで内容のすべてを理解して業務に活かせる人は、おそらくほとんどいないでしょう。だからこそ、私たちの作る資料は、その場限りではなく、後々になってから仕事に役立てられるようにしておかなければなりません。

セミナーや研修以外のプレゼンテーションでも同様のことが言えます。新規クライアントを獲得するための営業資料は、その後社内決裁のために回覧されることになりますが、プレゼンテーションに同席していない人にとってはその資料が唯一の判断基準となるわけですから、やはり資料作りをおろそかにすることはできないのです。

【理由(2)】 資料作りを綿密に行うことで、発表のクオリティが高まることが多い

この理由は資料そのものの重要性ではなく、資料をしっかり作りこむことによって生まれる副次的な効果に基づく理由、と言っても良いかもしれません。すなわち、自分の話す内容をしっかりと練り上げて資料に反映させておくことで、意識していなくても表情や語り口といった、資料以外の部分に自信が滲み出てくるということです。

また、ロジックがしっかり整理され、見やすい図表を適度に用いた資料を用意しておけば、たとえ緊張して頭が真っ白になったとしても、資料を頼りに何とか乗り切ることができるようにもなるため、一種の保険としても役に立ちます。

逆に、資料の準備が不十分なまま、表情や話し方だけを取り繕ってプレゼンテーションを行ったとしても、胡散臭い印象を与えてしまうだけです。少なくともそのようなセミナーに参加しても得るものはほとんどないでしょうし、そんな会計士・税理士と顧問契約を結びたいと考える担当者は少ないはずです。

【理由(3)】 会計士・税理士のプレゼンテーションにドラマティックな演出は必要ない

先ほど例に挙げたスティーブ・ジョブズ氏がCEOを務めていたアップル社の新商品発表は、ステージの演出や話す順序、ポケットから何かを取り出すしぐさまで、綿密に計算されています(それどころか、プレゼンテーションのための専用ホールまで建設されています)。なぜそこまでやるのかというと、新しい商品やサービスの特徴を感動的に伝えること

で顧客の所有欲を搔き立てるとともに、企業としてのイメージを高めることで株価、あるいは時価総額に良いインパクトを与える必要があるからです。

一方、会計士・税理士が行うプレゼンテーションのほとんどは、そこまで大きなスケールのものではありません。むしろ、新しい知識を無理なくインプットしてもらうことや、新規クライアントにご自身の強みやサービス内容を理解してもらうことなど、比較的「身近な目標」が設定されることが一般的です。そのような場合、ドラマティックなプレゼンテーションを組み立てることよりも、多くの人が理解しやすい内容を作り上げることに注力することのほうが、はるかに大事です。

会計士・税理士はあくまでも会計や税務に関するプロフェッショナルですから、プレゼンテーションの手法を過度に追求する必要はありません。むしろ、内容をしっかりと作りこむことでプレゼンテーションの8割がたが決まるということは、人前で話すことが苦手な方にとっては朗報と考えて良いでしょう。その意味で、プレゼンテーションを任された際には、ぜひ気を楽にして、入念な準備に取り掛かりたいものです。

シュレッダーに直行してしまう2つのパターン

では、会計士・税理士にとって、プレゼンテーションにおける分かりやすい資料作りのポイントは、どのようなところにあるのでしょうか。本題に入る前に、私たちがやってしまいがちな悪い例を2つ挙げます。

先ほど述べた資料作りを重視すべき理由は、「念入りに資料を作ることで得られるメリット」と読み替えることもできます。裏を返せば、資料作りのプロセスや、出来上がった資料のどこかに不十分な点があると、それらのメリットを享受できないということでもあります。

本来であれば持ち帰って社内で活用してもらうはずの資料がシュレッダーに直行してしまう……そんな事態にならないためにも、ありがちな悪いパターンを理解しておくことは重要です。

=会計士・税理士のための伝わるプレゼン術
眞山 徳人
公認会計士。
2004年慶應義塾大学経済学部卒業。2005年公認会計士試験合格。監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)を経て、2016年に独立。合同会社フォルケCEO。
その他数社でCFOや監査役を務め,マイナビ会計士インタビュアーやCPA-learning等の経理スクール講師などの顔も持つ。JAPAN MENSA会員。
主な著書に『一番やさしい儲けと会計の基本』(日本実業出版社)、『スピーチ・ツリー ~どんな場面でも人前でブレずに「話せる」技術』(洋泉社)等がある。
2016年に行われた日本最大のスピーチコンテスト全国大会(トーストマスターズインターナショナル主催)にて日本一に輝いて以来、プレゼンテーションの専門家としての活動も行っており、小学生から経営者に至るまで、指導実績は延べ3万人を超える。
2022年2月2日YouTubeチャンネル「眞山徳人のプレゼン相談室」開設。

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