本記事は、眞山徳人氏の著書『会計士・税理士のための伝わるプレゼン術』(中央経済社)の中から一部を抜粋・編集しています。
プレゼンに適した声を作る
メラビアンの法則における聴覚情報のウェイト
プレゼンテーションの「伝え方」における聴覚情報、すなわち声の扱い方について解説します。具体的には、以下のようなものです。
- 声の高さ
- 声の大きさ
- 話すスピード
- 間(ま)
- 口癖
メラビアンの法則によれば、聴覚情報が占めるウェイトは全体の38%で、視覚情報(55%)に比べると、やや数値としては少なくなってはいます。しかし、プレゼンテーション中には、聞き手が何らかの理由で話し手から視線をそらしてしまった場合など、視覚情報そのものが伝えられなくなることが時折あるわけですが、そのような場合、聴覚情報が与える影響が相対的に高まることになります。
よって、視覚情報と聴覚情報は、単純にその数字だけで重要度を比較できるものではなく、いずれも重要性が高いものなのだという認識を持って頂けたらと思います(図表8-1)。
口癖を減らして、間を増やそう視覚情報では「手癖」がプレゼンテーションのノイズになることが多いわけですが、聴覚情報でも同様に、話したい内容と関係のない言葉をつい口走ってしまう「口癖」が、聞き手の理解を阻害する可能性を持っています。
話している途中に「えー」とか「あのー」が入ってしまったり、「新しい会計基準の、おー、概要については、あー」など、語尾を伸ばしたりする癖がある人は非常に多いです。これらの言語的な意味を持たない口癖を、英語で「Filler Words」ということがあります。
言語的な意味を持つ口癖もあります。「一応ですね」「基本的に」「いわゆるひとつのー」など、何を言うつもりでもないのに思わず出てしまう口癖は、どなたでも1つは持っているものです。ちなみに、筆者の口癖の1つが「要は」です。
なぜ、これらの口癖が出てしまうのでしょうか。それは、主に以下のような理由によります。
- 次に何を言おうとしていたかを思い出せない、またはその場で考えている。
- 次に言おうとしている言葉にリズム感や弾みをつけたい。
- そもそも、プレゼンテーションでは「沈黙」を作るべきではないと思っている。
立て板に水のように、すらすらと言葉が出てくるプレゼンテーションは、話している人自身にとっては心地よく感じるものです。しかし、実は聞き手にとって、絶え間なく入ってくる声は、聞いていて非常に疲れます。
話している人の声が耳に届き、それを頭の中で咀嚼して理解するまで、少しの「間」が必要なことがあるからです。会計士・税理士が行うプレゼンテーションの多くが、比較的高度な会計・税務に関する内容を伴うことを考えると、「間」の確保はとりわけ大事なことです。
要するに、私たちのプレゼンテーションは、ところどころに沈黙があった方が良いのです。少なくとも、次に話す言葉が浮かぶまでの間に「えーと」「あのー」と無理に声を出すのではなく、静かに頭の中で次の言葉を思い出したほうが、聞き手にはずっと優しいプレゼンテーションになります。
筆者自身も、長時間のセミナーや講演をするとき、ひとまとまり話しきった後は数秒間の小休止を取ることがあります。それは、聞き手の皆さんの反応や、時間の進み具合などをいったん整理して、「次にどんな話をしようか?」ということを微調整する意味があります。1時間以上話すケースでは、ご用意いただいた水を飲むこともあるので、時には10秒以上「無音」の状態になります。
その間、聞き手の皆さんが「早く次を話せ!」と怪訝な顔をするかというと、決してそんなことはなく、今までの話のメモを取ったり、私と一緒に一息ついたりしています。それで良いのです。
また、意図的に間をとる場合だけでなく、次に話す内容が本当に浮かんでこないことも、時にはあります。そういう時には「えー……」と長く言葉を伸ばすのではなく「あれ? 何を話そうとしたんでしたっけ?」と正直に言うほうが、良い結果になることが多いです。
「えー……」という言葉は、その場に緊張感をもたらします。そうではなく、「あれ? 何を話そうとしたんでしたっけ?」というと、空気はむしろ和むことのほうが多かったりします。時には聞き手が助け舟を出してくれることもあります。もちろん、何度もそれを繰り返されるとさすがに聞き手も心配になるかもしれません。しかし、長い時間の話の中で、たまにこういったセリフが出てきたからと言って、突然怒り出す聞き手はまずいないでしょう。
- あれ? 何を話そうとしたんでしたっけ?
- そうだなぁ、ちょうどいい例えがパッと浮かばないのですが…
- 今の話、伝わりましたか? もう一度ご説明したほうが良いでしょうか?
こういった、もともとの台本から少し逸脱するときのフレーズがすんなり出てくる人は、むしろプレゼンテーションに慣れていて落ち着いた印象を持たれるものです。会計士・税理士のような専門職であればなおさらです。
そもそも、一字一句間違えずに、正確に話さなければならないシチュエーションは非常に限られています。一方の聞き手にも一字一句をすべて聞き漏らすまい、と身構えている人はいないわけですから、完璧を目指す必要は全くないのです。
気にしすぎないことが最大のコツ
さて、ここまで間をとることの重要性をお伝えしてきましたが、実は「口癖」を減らす最大の特効薬が、「気にしすぎない」ことです。筆者自身を含め、ほぼすべての人が口癖を持っていますから、時折口癖が出てしまうことは自然なことでもあります。
筆者は「えーと」を言わないように気を付けながら話す訓練をずっと続けているので、10~20分程度なら「えーと」「あのー」といった口癖は完全に封印することができます。でも、それ以上の長さになると、ついついそういった言葉が出てくることも自覚していますし、むしろ「ちょっとくらいなら出てもいい」と思っているほどです。
2004年慶應義塾大学経済学部卒業。2005年公認会計士試験合格。監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)を経て、2016年に独立。合同会社フォルケCEO。
その他数社でCFOや監査役を務め,マイナビ会計士インタビュアーやCPA-learning等の経理スクール講師などの顔も持つ。JAPAN MENSA会員。
主な著書に『一番やさしい儲けと会計の基本』(日本実業出版社)、『スピーチ・ツリー ~どんな場面でも人前でブレずに「話せる」技術』(洋泉社)等がある。
2016年に行われた日本最大のスピーチコンテスト全国大会(トーストマスターズインターナショナル主催)にて日本一に輝いて以来、プレゼンテーションの専門家としての活動も行っており、小学生から経営者に至るまで、指導実績は延べ3万人を超える。
2022年2月2日YouTubeチャンネル「眞山徳人のプレゼン相談室」開設。※画像をクリックするとAmazonに飛びます