特集「不動産業界トップランナーに聞く。アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。
今回は、愛知県岡崎市に本社を構え、不動産仲介事業(おうち探し館!)を中心に、新築住宅販売事業(Asobi-創家(スミカ))、リフォーム・リノベーション事業(Asobi-リノベ)、投資用不動産販売事業(Hugkum)などを展開する、株式会社不動産SHOPナカジツ取締役社長の樗澤和樹氏にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
1986年8月21日生まれ。中京大卒業後、株式会社不動産SHOPナカジツへ入社。執行役員(2015年)、取締役(2016年)、取締役副社長(COO)(2019年)を経て、2020年に取締役社長に就任。
就任から2年で売上高216億円から292億円に増加させた。趣味はゴルフ、野球、お酒。
不動産SHOPナカジツについて
―― 不動産SHOPナカジツ様についてお教えください。
不動産SHOPナカジツ取締役社長・樗澤和樹氏(以下、社名・氏名略):不動産SHOPナカジツは、1987年創業の中島実業を前身とし、2006年に設立しました。
不動産売買の仲介から始まり、中古住宅の取引をするうちに聞こえてきた「リフォームをしたい」という声に応えてリノベーション事業を始め、業容の拡大や顧客ニーズに沿う形で新築住宅、注文住宅と事業を展開してきました。
現在は、愛知県に25店舗、福岡県に5店舗、千葉県に3店舗、静岡県に1店舗ございます。業績は好調です。売上は2008年の4億円から、2021年には約67倍の280億円(13年間)へと成長を遂げ、現在は約680人のスタッフが働いています。
2020年からは不動産投資事業に参入しました。不動産SHOPナカジツは、店舗を通じて顧客との接点が多く、以前から収益物件の情報は挙がっていました。しかし、実需の扱いが多く、そこまで領域を広げていませんでした。
そうした中、年1回開催している事業プレゼンの大会で不動産投資事業が挙がり、組織的に人が増えていてタイミングが良かったこともあり、ビジネスとして取り組み始めました。初年度は発案者含め2人の体制で4億円を売り上げ、力を入れたところ2021年には売上20億円、2022年は売上30億円に手が届きそうな勢いです。メンバーは14人に増えました。
―― プレゼン大会によって生まれた事業を教えてください。
これまでに6回開催しています。
これをきっかけに「ラクタテ」という愛知県限定での建売代行サービスが生まれました。土地を取引する際に地場の不動産会社とお付き合いがあるのですが、「建売をしたいけど、工事中のトラブルやアフターサービスまでできない」といった声が多くありました。「所有する土地に不動産SHOPナカジツが家を建て、販売までサポートする」というプレゼンがあり、サービス化に至りました。
私たちには家を建てる技術があり、店舗を通じた販売力の高さが強みです。事業計画を立てる時点で相手方の利益なども明確にしておくので、事業の透明性も問題ありません。現在は、ウッドショックや円安の影響で建物資材の価格が上昇して事業収支が読みづらいため、限られたお客様のみに提供しています。状況が落ち着き次第、アクセルを踏み込み、事業拡大を進めていきたいと考えています。
また、大手人材紹介会社出身のスタッフのプレゼンをきっかけに、人材紹介業や人材コンサルティング業を手掛ける株式会社MUSUBUが生まれました。不動産仲介はお客様へのヒアリングをもとに建物・土地を仲介し、人材紹介は企業、求職者双方のニーズをお聞きして、マッチングを図ります。対象は異なれど、事業の構造は似ていて、収益源が手数料というのも同じです。親和性が高いことから事業化しました。
当社のスタッフの中には、すでに不動産の営業担当からMUSUBUの人材紹介コンサルタントへ転身し、高い実績を上げている社員が多数おります。今後、より拡大する会社組織の中で、社員の働き方の多様化を実現する上でも重要な機能を果たすだろうと期待しております。
不動産SHOPナカジツの事業の特徴
―― 不動産SHOPナカジツ様の家づくりにおける特長を挙げるとしたらどのような部分でしょうか。
品質の高さを打ち出しています。接客も建物もクオリティの高さに自信があります。例えば、新築住宅の場合、第三者機関に依頼して、通常の4.5倍の時間をかけてチェックした上で次の工事に進みます。
長期優良住宅に求められる耐震性、省エネルギー、劣化対策、維持管理、更新の容易性といった基準も、多くが最高等級をクリアしています。品質の高さに対するこだわりは不動産投資事業でも変わりません。
―― 不動産投資事業では、どういった物件を投資家に販売していますか。
不動産SHOPナカジツの店舗では、人気の学区や住みやすいエリアなど、お客様とスタッフの会話から細かな地域情報が収集できます。こういった情報と土地・建物の情報を照らし合わせ、収益物件に向きそうなものだけを厳選し、新築一棟、中古一棟、区分物件を投資家様に販売。土地活用をご検討の地主様の相談にも対応しています。
重視しているのは、入居者の需要が見込める駅から徒歩10分以内の立地や、売却時の最終的な資産価値に直結する土地の広さや形状です。不動産投資というと利回りの高さが注目されがちですが、我々は将来の資産価値や出口を重視するのが特徴です。
極端な例ですが、土地の価格が安い地域の築古物件は、満室経営なら利回りは高くなります。しかし、私たちは将来の資産価値を重要視するという視点から、そういった物件は敢えて扱わないようにしています。
―― 新築一棟は、どういった物件を建てていますか。
木造3階建て、6戸ほどのアパートがメインです。分譲と同じく、高気密・高断熱をうたい、購買力の高さをいかしてキッチンなどの設備は分譲と同レベルのモノを仕入れています。清掃などを委託している管理会社と相談し、宅配ボックスやオートロックといった機能も備えた物件も増えました。間取りは1K~1LDKのフラットフロアが大半です。
施工に関しては長年の建築事業で培った技術があり、ここでも自社での検査に加えて、第三者機関での検査も実施し、建物・施工の品質の高さを担保しています。立地は愛知県の名古屋駅に近い中村区や賃貸需要の高い千種区や東区などが多いです。設定家賃が高くなりますから、生活に余裕のある単身者、カップルがほとんどです。
新築物件の価格は1億円弱で、利回りは7%弱。現在は、原価が上がっているので6%台も出てきました。利回りはそこまで高くありませんが、土地の価格が高く、安定運用が見込める物件のため、売れ行きは好調です。
ご購入者は、愛知県近郊や関東圏の富裕層の方がほとんどです。税理士やご購入者からのご紹介が中心ですが、現在はセミナー経由でお問合せいただくことも増えてきました。会社経営者が個人や資産管理会社で購入されることもあれば、士業の方もおられます。サラリーマンの方は、年収や資産が相応にある人もいらっしゃいますが、相続対策で物件の購入を検討される方もおります。
不動産投資で生計を立てている利回り重視の人より、他にビジネスがあり「資産形成の1つとして持っておきたい」という人とのお付き合いが多いと思います。
不動産SHOPナカジツのビジネスは、あくまでも実需がメインですから、「投資用不動産を何が何でも売らないといけない」という考えはありません。日常の管理は専門会社に委託していますが、収益の管理・報告は不動産SHOPナカジツで行い、中長期的にオーナー様とお付き合いさせていただいております。リピートいただく方も多く、販売規模は拡大しており、ご好評をいただいております。
▽株式会社不動産SHOPナカジツのビジネスモデル
今後の課題と目標について
――業界が直面する課題や、その解決策はありますか。
ウッドショックや円安などの外部要因は業界全体に影響を与えていますが、それに加えてDXへの対応の遅さは大きな課題だと捉えています。
不動産業界には小人数で営業している地場系の会社がたくさんあり、年間数件の取引があれば生計が立つところはDXを必要としていません。ただし、不動産SHOPナカジツは地場系不動産会社と取引があり、DXに格差があると困ることも事実です。エンジニアが所属する不動産会社である当社から何らかのサービスを作り、提供できたらと考えています。
業界関係者以外が作ったITサービスは残念ながら使いにくく、この業界にいるからこそほしい機能を備えたものを作りたいと考えています。
2030年までに全国100店舗、売上高1000億円が目標
―― 今後の目標・展望についてお聞かせください。
2030年までに全国100店舗、売上高1000億円という中長期目標を掲げています。それを目指すため、不動産事業が大きなウエイトを占めることは今と変わりませんが、不動産以外の新しい領域でサービス展開していきたいとも考えています。成長を実現するためには、新事業の創出も必要不可欠です。
店舗網の拡大も大切ですが、不動産SHOPナカジツ独自の管理会社も作りたいですね。そのほうが物件の購入からアフターサービスまでワンストップで提供できますし、管理業界の常識を、ユーザー側の視点で改善できると考えています。資産の組み換えを提案するなどコンサル機能を強化し、アセットマネジメントパートナーのような存在になっていくのが目標です。
―― 読者へのメッセージをお願いいたします。
不動産投資事業において、私たちが建てたアパートの入居率はほぼ100%で、購入時にご提案したシミュレーション通りの運用ができております。新築物件は満室保証を付けて、不動産SHOPナカジツもリスクを取っていますが、言い方を変えると、それだけ物件に自信があるということです。
愛知県の収益物件を首都圏など域外の人が購入する場合、東海地方に拠点がある銀行から融資を受けることは、通常、難しいのです。しかし、不動産SHOPナカジツでご提供する物件に関しては、これまでの運用実績および建物の価値を金融機関に高くご評価いただいており、実際に融資に至った例がございます。もし、ご興味がございましたら、ぜひお問い合わせください。