民泊仲介のパイオニア米Airbnb (エアビーアンドビー)<ABNB>は、言わずと知れたシェアリング・エコノミーの代表銘柄である。近年はコロナ禍に大幅赤字を計上していたところ、2022年8月2日発表の四半期決算では、業績が急回復しており、すでに売上はコロナ前の2019年度を抜いた。成長路線に回帰し、今期は創業来初の最終黒字となる見込みだ。
いったいなにがAirbnbを劇的な成長路線へ回帰させたのだろうか。シェアリング・エコノミーによる業界のゲームチェンジャーに、再びのイノベーションが起こったのだろうか。株価は2022年6月に上場来安値につけたばかり。もしかしたら、いまは大きな買い時なのかもしれない。英文のIR等から分析してみよう。
目次
旅行業界、ホテル業界のゲームチェンジャー
住宅、車、家具、洋服など、いままでは所有していたものを、所有せずに他人と共有するほうが効率的だという考え方が「シェアリング・エコノミー」だ。Airbnbは2008年に創業、インターネットを通じて個人所有の住居の空き部屋を他人に貸し出す「民泊」というサービスを始めたパイオニアである。
Airbnbは、空き部屋を有効活用したいホスト(所有者)と、借りたいゲストをマッチさせるプラットフォームをグローバルで展開している。まさに、旅行業界、ホテル業界のゲームチェンジャーである。
創業者のブライアン・チェスキーCEOは、大学時代の2007年に友人とともに自宅の部屋を貸し出した。これがAirbnbの起源となった。現在、宿泊先は世界220ヵ国、ホスト400万人以上が登録されており、累計のゲストは10億人を超えるビジネスに成長した。
車の「ライドシェア」である配車サービスのウーバー<UBER>やリフト<LYFT>とともに、シェアリング・エコノミーを代表する企業Airbnbは、上場前からユニコーン(市場価値10億ドル以上の未公開企業)として知名度は高く、2020年12月にナスダック市場にIPOした。
コロナ禍の大打撃から急回復。過去最高売上に
このAirbnb、旅行業界の一角であることもあり、コロナ禍において大きく収益が落ち込んでいた。しかし、2021年12月期(年間)は前年比売上77%増の59.9億ドル、営業利益は4.2億ドルの黒字(前年は35.9億ドルの赤字)とともに過去最高を記録した。
前年となる2020年12月期はコロナ禍で売上32%減の33.7億ドルと厳しい業績だったが、2021年の経済リオープニングの恩恵で、業績は急回復している。コロナ前の2019年12月期と比べても売上は25%も高い水準で、コロナ前の成長力を取り戻したと言えるだろう。
2022年12月期も、新型コロナのオミクロン株の影響に加え、ロシアのウクライナ侵攻やインフレ、景気後退などのマクロ面での逆風にもかかわらず、業績は好調を続けている。2022年5月3日発表の第1四半期(1〜3月)決算の売上は前年同期比70%増の15.0億ドル、8月2日発表の第2四半期(4〜6月)の売上は前年同期比58%増の21.0億ドルと高成長が続いている。
重要な指標(KPI)である第2四半期(4〜6月)の宿泊・アクティビティ予約件数(Nights and Experiences Booked)は前年同期比25%増の1億370万件と四半期ベースで過去最高を記録した。海外旅行が前年比約2倍と大幅に伸長したことが牽引している。
流通取引総額(Gross Booking Value (GBV))は、予約件数の伸びに加えて平均宿泊額(Average Daily Rates(ADR))の伸びていることから、27%増の170億ドルに達している。
▽宿泊・アクティビティ予約件数の推移(四半期ベース、単位100万件)
創業来初の黒字化へ
Airbnbは2022年8月2日の第2四半期決算発表時に、第3四半期(7〜9月)の予想売上のガイダンスを公表した。第3四半期は夏休みでピークシーズンとなるため、4〜6月の21.0億ドルから大きく増加し、27.8~28.8億ドルのレンジを予想している。これはアナリスト平均予想の27.7億ドルを上回るものだ。前年同期比では24%〜29%増と、前年のベースが高いため成長率では鈍化するものの、高成長をキープする。
同社は2022年(年間)予想を開示していないが、アナリストの平均予想では売上が38%増の82.8億ドル、一株あたりの利益は2.16ドル(前期は0.57ドル赤字)と、念願の創業来初の黒字に転換する見込みだ。
▽Airbnbの業績推移と2022年12月期、2023年12月期の業績予想
決算期 | 売上 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 | 最終利益 | 前年比 | 1株益 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2017.12 | 2,561 | - | -81 | - | -70 | - | -0.27 |
2018.12 | 3,651 | 43% | 18 | 黒転 | -16 | 黒転 | -0.07 |
2019.12 | 4,805 | 32% | -501 | 赤転 | -674 | 赤転 | -2.59 |
2020.12 | 3,378 | -30% | -3,590 | 赤拡 | -4,584 | 赤拡 | -16.12 |
2021.12 | 5,991 | 77% | 429 | 黒転 | -352 | 赤縮 | -0.57 |
2022.12(予) | 8,280 | 38% | NA | NA | 2.16 | ||
2023.12(予) | 9,530 | 15% | NA | NA | 2.5 |
予約件数が急増している理由は?
劇的な業績の回復を見せるAirbnb。大きな要因となっている宿泊・アクティビティ予約件数が急伸している理由は、プラットフォームのアップグレードにあるようだ。確かに、コロナ禍以降の経済リオープニングで宿泊需要が急回復しているのは間違いない。しかし、「Airbnbブランド」の価値向上のために積極的に投資したことが好業績のトリガーになっている。
8月2日の第2四半期決算後の説明会でも、業績の伸びの理由として下記プラットフォームのアップグレード内容を挙げている。
「場所」「日付」検索から、「体験」を検索できるシステムへ
2022年5月11日に、Airbnbは過去10年で最大の検索システムのアップグレードを行った。これまでは 「日付」と「場所」で検索していたのを、「素敵なプール」「最高の眺め」といったイメージや「サーフィン」「ログハウス」「ワイナリー」といったテーマからの検索を可能とした。
これらイメージやテーマは50以上のカテゴリーに分類されており、Airbnbは価格と場所訴求から体験という旅そのものの魅力訴求に変化したのだ。
2022年第2四半期の株主への手紙によると、検索システムアップグレード以降、カテゴリーのビュー数は1億8,000万回に達したとされている。ゲストが「日付」と「場所」で検索するよりも、より遠くの知らないエリアへ旅行を決める機会となるなど、より柔軟性のある旅行先を選ぶようになったのだ。
この効果として、ゲストはいままでより平均して30マイル(約54キロ)遠くの宿泊先を選ぶようになっていることも報告されている。これは滞在期間長期化、宿泊単価上昇だけでなく、人気エリアに集中しがちなニーズを分散でき、宿泊機会損失の削減にもつながっている。
分割予約機能、Airbnbだけの保険サービスで顧客満足度向上
宿泊先の分割予約を可能にしたこともシステムアップグレードにおける2つめの大きなポイントだ。いままでは長期滞在をする場合、希望期間を満たす物件が少ないケースがあった。これを、同期間に2つの宿泊先を分割して予約できる機能を導入したことで、長期滞在先を検索する場合に約40%も多く選択肢が表示され、長期滞在機会の損失を回避できるようになった。
3つめとして、「エア・カバー」という無料の保険機能を導入したことも、予約件数増に貢献している。2021年、ホスト向けに最大100万ドルのゲストのケガなどの賠償責任保険、最大100万ドルのゲストによる宿泊先や物品への損害補償、ペットによる損害補償、特別な掃除の費用の補償などを導入した(日本の適応範囲とは違いあり)。
2022年5月からは、このエア・カバーを、さらにゲスト向けにも提供開始した。ホストの理由で宿泊先をキャンセルされた場合や、なんらかの理由でチェックインできない場合には、Airbnbが同等の宿泊先やそれ以上の宿泊先を見つけるか返金を約束するもので、滞在中に冷蔵庫が壊れていたなど、予約時の掲載内容と違う場合も同様だ。
また、滞在中になにかしらの危険を感じた場合は24時間対応の緊急窓口が優先的に対応する。Airbnbだけが行なっているサービスであり、導入後顧客満足度はおよそ70ポイントも上昇した。トラブルが生じた場合にゲストが再予約する比率は10%上昇した。
このように、コロナ禍の需要減少時をチャンスとして、大きなシステム投資を行ったことが、Airbnb利用者のニーズを大きく拡大させるイノベーションを引き起こしたと言えるだろう。
Airbnbのビジネスモデルとライバル企業
ご存じの通り、Airbnbは、家や別荘などのホストと旅行者であるゲストをマッチングするプラットフォームを、Webサイトやアプリで提供している。ホストは世界のAirbnbゲストに効率的に貸すことが可能で、ゲストは通常のホテルなどより安い価格で様々な体験が可能となる。Airbnbのビジネスモデルを見てみよう。