投資信託は個人の資産形成で活用されることが多い金融商品ですが、法人が取得することも可能です。法人が投資信託を取引する場合、個人とは税金の取り扱いが異なるため、特徴を理解した上で投資をすることが大切です。
本記事では、投資信託を法人口座で取引するメリット・デメリット、税金について詳しく解説します。
投資信託とは
投資信託とは、投資家から集めた資金を1つにまとめ、専門家が株式や債券などで運用する金融商品です。運用成果は、投資家それぞれの投資金額に応じて分配される仕組みになっています。
投資信託によって運用方針は異なり、どのような資産・銘柄を投資対象とするかは、その投資信託の運用方針に基づいて専門家が決定します。
投資信託は元本保証ではなく、運用成績は市場環境に左右されます。基準価額が値上がりすれば利益を得られますが、値下がりして損失が生じる恐れもあります。ただし、投資信託は少額から国内外のさまざまな資産・銘柄に分散投資ができるため、比較的リスクを抑えた運用が可能です。
投資信託の保有中は「信託報酬」と呼ばれる運用管理費用がかかります。信託報酬は特に中長期の運用成果に大きな影響を与えるため、なるべくコストが低い商品を選ぶことが大切です。
投資信託は法人口座でも取引可能
投資信託は個人だけでなく、法人口座で取引することも可能です。法人が収益獲得を目的に手元資金を運用する場合、個別株式や不動産だけでなく、投資信託も選択肢となります。
法人が投資信託を取引する場合は資産として計上する必要があり、保有目的によって会計処理方法や税務上の取り扱いが変わってきます。詳細は後ほど詳しく解説します。
法人が投資信託で利益を得る方法
法人が投資信託で利益を得る方法は以下2つです。
・売却益
・分配金
投資信託が値上がりしたタイミングで売却すれば、購入時と売却時の価格差が利益となります。例えば、1,000万円で購入した投資信託を3,000万円で売却すれば、差額2,000万円が売却益です。ただし、売却益には税金がかかるため、利益2,000万円から税金を差し引いた残りが手取り額となります。
投資信託の中には、保有口数に応じて分配金が支払われる商品もあります。分配頻度は「年1回」「毎月」など投資信託によってさまざまです。
分配金は「普通分配金」と「特別分配金」の2種類があります。普通分配金は利益をもとに支払われるので課税対象ですが、特別分配金は元本の払い戻しであるため非課税となります。
法人口座で投資信託に適用される税率
法人口座で投資信託に適用される税率は、売却益と分配金で以下のような違いがあります。
売却益
法人口座の投資信託を売却する場合は、「買取請求」と「解約請求」のいずれかの方法で換金します。
買取請求:
投資家が販売会社に投資信託を買い取ってもらう方法
解約請求:
投資家が販売会社を通して信託財産の一部の解約を請求する方法
買取請求は「上場株式等の譲渡所得(申告分離課税)」と同じ取り扱いで、源泉徴収の対象外です。一方、解約請求は所得税15.315%が源泉徴収されます。
分配金
分配金のうち、普通分配金は課税対象で所得税15.315%が源泉徴収されます。特別分配金は「投資元本の返還」とみなされるため、課税対象外で源泉徴収されません。
投資信託を法人口座で取引するメリット
投資信託を法人口座で取引すると、以下のようなメリットを得られます。
関連費用を経費にできる
法人口座では、投資信託取引の関連費用を必要経費にできるのがメリットです。投資の知識を得るために購入した書籍代や参加したセミナー費用、口座開設時の交通費や郵送代などは経費にできる可能性があります。
ただし、支出が必要経費に該当するかは、状況に応じて個別に判断しなくてはなりません。自分で判断できない場合は税理士などの専門家に相談しましょう。
最長10年間損失を繰り越せる
法人口座で投資信託を取引して損失が生じた場合、その損失を含めた法人の損益(所得)が赤字であれば、繰越欠損金として最長10年間繰り越すことが可能です。繰越欠損金は翌事業年度以降の所得金額から控除できるため、税負担の軽減につながります。
個人でも損失の繰り越し控除は可能ですが、繰越期間は最長3年間で法人よりも短くなります。
投資信託を法人口座で取引するデメリット
一方で、法人口座で投資信託を取引すると以下のようなデメリットもあります。
特定口座に対応していない
特定口座とは、個人の確定申告の負担を軽減するための制度です。特定口座で投資信託の取引を行うと、証券会社が損益を計算し、投資家に代わって納税手続きを行ってくれます。
しかし、法人は証券会社で特定口座を開設できません。自分で損益を計算して税金を納めなくてはならないため、取引回数が多いほど損益や税金の計算に手間がかかります。
NISA口座を開設できない
NISA口座は、投資信託の運用益が非課税になるお得な制度です。個人はNISA口座を開設できますが、法人は開設できません。そのため、法人のほうが税制面で不利になる可能性もあります。運用成績によっては、個人でNISA口座を活用するほうが資産を増やせるかもしれません。
含み益に課税される恐れがある
法人口座は、投資信託の含み益に課税される恐れがあるのもデメリットです。
法人口座の投資信託は、保有目的に応じて「売買目的有価証券(短期売買)」と「投資有価証券(長期保有)」に区分されます。売買目的有価証券に該当する場合は、保有しているだけで期末時点の含み益に課税されてしまいます。
投資信託の保有目的については、税理士などの専門家と相談して適切に対応することが大切です。
投資信託を法人口座で取引する場合の税金の取り扱い
法人口座で投資信託を取引する際は、個人との税金の違いを理解しておく必要があります。ここでは、法人口座における投資信託の税金の取り扱いについて解説します。
運用益は法人税の課税対象となる
法人が取得した投資信託の運用益は、本業の利益とあわせて法人税の課税対象となります。
個人の場合、投資信託の運用益は他の所得と区分して課税されます。しかし、法人では区分せず、本業の利益と運用益を合算して利益(所得)を算出し、その利益に一定の税率を乗じて法人税を計算します。利益が大きくなると、その分納める税金も増えるので注意が必要です。
源泉徴収された所得税は「所得税額控除」が適用できる
法人が投資信託の取引で得た売却益や分配金について、所得税が源泉徴収されている場合は「所得税額控除」が適用されます。
所得税額控除とは、源泉徴収された所得税を法人税の額から控除できる制度です。法人税の確定申告書において、控除を受ける金額およびその計算に関する明細書(別表6(1))を記載すると控除を受けられます。
法人税の負担を軽減するためにも、所得税額控除の手続きを忘れないようにしましょう。
一部の分配金・売却益は「受取配当等の益金不算入」の対象となる
受取配当等の益金不算入とは、法人が受けた配当等を課税所得の計算上、益金(税務上の利益)に算入しない制度です。配当を支払う法人には法人税が課税されているため、二重課税を排除する観点から本制度が設けられています。
法人が投資信託の取引で得た一部の分配金や売却益は、受取配当等の益金不算入の対象となります。益金不算入となる額は投資対象によって異なるため、制度対象となるかは税理士と相談して判断するといいでしょう。
まとめ
法人口座で投資信託を取引すると、関連費用を必要経費に計上でき、損失を最長10年間繰り越せるのがメリットです。一方で、特定口座やNISA口座には対応しておらず、保有目的によっては含み益に課税される可能性もあります。メリット・デメリットを比較した上で、法人で投資信託を取引するか検討しましょう。
(提供:Incomepress )
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