人口減少や高齢化の進展、地方から都市部への人口移動などを背景として、所有者が分からない土地が増えて社会問題化している。なぜなら主に地方で土地の利用ニーズが低下するなか、人々の土地の所有に関する意識が希薄になっているからだ。所有者が分からない土地の面積は、2016年時点で九州本島よりも広くなっている。
本稿では、所有者不明土地の概要や懸念されている問題、増えている理由などについて解説していく。
「所有者不明土地」の定義とは
国土交通省が2022年3月に作成した「所有者不明土地ガイドブック」によると所有者不明土地は、以下のように定義されている。
不動産登記簿等を参照しても、所有者が直ちに判明しない土地
所有者が判明しても、所有者に連絡がつかない土地
出典:国土交通省「所有者不明土地ガイドブック」※この先は外部サイトに遷移します。
冒頭でも触れたように、所有者不明土地問題研究会の「所有者不明土地問題研究会最終報告概要」によると、所有者不明土地は2016年時点で約410万ヘクタールと九州本島(約367万ヘクタール)の面積より広いとされている。九州本島の面積は、基本的に変わることはないが所有者不明土地は年々増え続ける傾向にあるため、両者の差はさらに広がっているはずだ。
所有者不明土地が巻き起こす問題
土地の相続が発生しても、相続登記が行われないと当然不動産登記簿の情報が更新されず、亡くなった人の名義のままだ。そのため現在の土地の所有者が誰になっているかを特定することは非常に難しくなる。不動産登記簿には、土地所有者の氏名と住所が記載されているが、相続登記で名義変更していない場合は、以下のようなパターンが起こり得るのだ。
- 現在の土地所有者を特定できない
- 土地所有者を特定できても現在の所有者の所在地が分からない
- 複数の共有者がいる土地ですべての共有者を特定できない
所有者不明土地は、「当該土地を利活用したい」「土地の適正な管理を求めている」といった人が所有者に接触しようとしても、現在の所有者が判明するまでに費用や時間がかかる。公共事業や復旧・復興事業の円滑な進行を妨げる可能性もあるため、土地利用が停滞しかねない点が懸念材料の一つといえるだろう。
また、所有者不明土地が空き地として長く放置されてしまうと、雑草が生い茂ったりゴミの不法投棄が進んだりするなど管理不全の状態となり、周辺地域の住環境や治安の悪化につながりかねない。さらに、こうした土地は、手入れが行き届かないため、土砂の流出や崩壊などで周囲に災害を発生させる懸念もある。
なぜ「所有者不明土地」は生まれるのか
所有者不明土地が発生する最大の理由は、相続時に相続登記がなされていないことが多いからだ。2024年3月までは、相続登記の申請が任意とされており、相続時に名義変更をしなくても相続人が不利益を被ることが少なかった背景がある。
都市部で資産価値のある不動産を相続する場合なら売却するために相続登記を余儀なくされるケースもあるだろう。しかし、地方の山林など価値が低く売却も困難な場合は、各種のコスト面から相続登記を申請する意欲がわきにくいことも原因となってきたのだ。かつては「先祖代々の土地だから」と土地を守り伝える感覚があったとしても今はそうした所有の意識が薄くなっている。都市部に移住していればなおさらで、今さら遠く離れた地方の土地の相続に無駄なコストをかけたくない心情が強いようだ。
ただ、法改正に伴い2024年4月1日からは、相続登記の申請が義務化される。遺言書を含む相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したと知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。遺産分割協議によって不動産を取得した場合、相続人は遺産分割協議が成立した日から3年以内に登記申請することが必要だ。
これらの義務に正当な理由なく違反すると10万円以下の過料の適用対象となるため、注意したい。特に注意したいのは、施行日となる2024年4月1日以前に相続が発生したケースでも適用されることだ。法改正の施行日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなる。
相続登記の義務化とあわせた手続きの簡素化も
相続登記の義務化にあわせて手続きを簡素化・合理化する以下のような仕組みも創設される。ここでは、その一部を紹介していく。
相続人申告登記
不動産の所有者が死亡すると、遺産分割の協議中は、すべての相続人が法定の割合で不動産を共有した状態となる。この共有状態を相続登記するには、すべての相続人を把握するための資料が必要だ。しかし、より相続登記がしやすくなるように各相続人が単独で申告することが可能となる。所有不動産記録証明制度
特定の被相続人(死亡した人)が登記簿上の所有者となっている不動産の一覧が証明書として発行する制度。相続登記が必要な不動産の全容が把握しやすくなる。
・所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示
登記官が他の公的機関から死亡情報を取得した場合、死亡の事実を職権により不動産登記に符号を表示する制度だ。従前は、相続登記がなされていない場合、不動産登記簿を閲覧しても死亡の有無が分からなかった。しかしこの制度により不動産登記簿から所有権となる登記名義人の死亡の事実を確認できるようになる。
思い当たる場合は早めの対処を
所有者不明土地の多くは、相続した持ち主が土地のことを知らなかったり、関心が薄かったりして放置されることから生じる。しかし、管理者がいない土地の存在は、周辺住民の日常生活や防災施策、治安状況などに支障を来たす恐れがある。昨今は、相続手続きを見直し簡素化される方向にもなっているため、心当たりのある人は早めに手続きを進めておきたいところだ。
(提供:manabu不動産投資 )
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