ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択するうえで投資家のみならず大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となってきている。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。
今回は、マックスバリュ東海株式会社執行役員・経営企画統括部長兼経営企画部長の野尻義博氏にお話をうかがった。マックスバリュ東海株式会社は、静岡県浜松市に本社を構え、静岡県、愛知県、三重県、岐阜県、滋賀県、神奈川県、山梨県で食品スーパーを展開するイオングループの企業。東京証券取引所スタンダード市場に上場している。
同社は、5つの環境方針を掲げ、省エネや省資源、CO2排出量の削減などに取り組み、多岐にわたる地域・社会貢献も推進している。本稿では、これら一連の取り組みの詳細や現状の課題、進むべき未来像などについてインタビューを通じて紹介していく。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
2004年に入社。2015年3月から広報室長、2019年に経営企画部長兼経営企画グループマネージャーを経て、2022年3月より現職。同年5月から執行役員に就任。経営戦略、経営方針の提案、新規事業の企画・提案・運営、広報活動、コーポレートガバナンスの企画・管理、会議体管理、環境社会貢献活動推進、DXを含めた事業戦略の策定とEC事業やノンストア事業戦略の推進を担当する。
マックスバリュ東海株式会社
イオングループ傘下で東海地方を中心に食品スーパーを展開する企業。国内店舗数は、2022年2月末時点で231。1930年に静岡県熱海市で「八百半商店」として創業し1948年株式会社八百半商店を設立。吸収合併や1997年9月の会社更生手続きを経て2000年3月にジャスコ株式会社(現:イオン株式会社)の100%子会社となる。2002年3月に現商号に変更。2004年7月に東証2部に上場した。
「何よりもお客さまの利益を優先しよう。」を企業理念として富士山ありがとうキャンペーンや節電、エコ、店頭でのリサイクル活動などサステナビリティにも積極的だ。
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立(2019年9月株式会社アクシスに合併)。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため家族とともに東京から鳥取にIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」運営など多岐にわたる。
マックスバリュ東海株式会社のESG・脱炭素に向けた取り組み
アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの坂本と申します。弊社は、システム関連の開発と再エネのプロダクトを販売している会社です。本社は、鳥取県にありますがお客様の9割は首都圏となっています。よろしくお願いいたします。
マックスバリュ東海 野尻氏(以下、社名、敬称略):マックスバリュ東海株式会社の野尻です。本社は静岡県浜松市にあり、マックスバリュの屋号で231店舗(国内2022年2月時点)の食品スーパーを展開しています。
いまは、経営企画統括ということで経営企画領域では戦略やガバナンス、環境や社会貢献を担当しています。またEC推進部では、ネット販売や新規事業の無人店舗・移動販売などを行っています。
坂本:最初にお聞きしたいのは、ESGや脱炭素に対するお取り組みについてです。マックスバリュ東海様は、環境方針を掲げ地球環境の負荷軽減と保全に努めたり、地域・社会貢献も積極的に推進していますが、具体的な取り組みについてお聞かせください。
野尻:近年、ESGは認知が高まり重要性も理解されつつありますが、弊社の実務に照らし合わせると捉えどころが難しい側面もあると認識しています。そういったなか、私が会社のなかで果たすべき役割は、捉えにくいものを咀嚼して伝えていくことだと考えています。しっかりとESGの観点を兼ね備えた持続的な成長に貢献することが責務です。
またここでいう成長とは、会社だけを指していません。「従業員一人ひとり」「地域社会」というのが全体の捉え方です。しかしこういったメッセージは、十分に伝えきれていません。多くの従業員がいますので日常の業務と切り離して考えるのではなく、一体的に考えるのがベターと感じています。普段から弊社の実務や解釈をつなげて考えていくアプローチが効果的だと意識しているつもりです。
弊社はESGの観点として、エンドユーザーに近い食品スーパーという立場だからこそ、地域に密着・共生しながら成長基盤を作ることを経営の考え方の基本に置いています。では、何を実践しているかというと「じもの」という取り組みは、その一つです。いわゆる地産地消のことですが、ずいぶん前から注力してきました。
地域が元気にならないと弊社も元気になれないため、成長ができません。地域のなかで地域の商品を軸としたサイクルを事業のなかで作り、その総和で弊社が成り立っている姿を理想の一つとして持っています。
▽店舗従業員が自店で扱う商品を選ぶ「じもの商品大商談会」の様子
「じもの」が売上高に占める割合は16%ほどで結構な数字だと捉えています。ここまで地元の商品が売れる割合が高まっているということは、少なからず各地域の経済活動に好影響ですし、地元の生産者様、お取引様を含めて住み続けられる社会づくりに貢献していると考えています。
坂本:「じもの」のような地域との共生活動を推進するための組織は、社内にあるのでしょうか?
野尻:それが全店舗に配置された「コミュニティ委員会」です。同委員会は、普段農産や水産など部門ごとに分かれて店舗内で仕事をしているパート社員が、部門の枠組みを取り払い横ぐしを刺した格好で集まった組織となります。
例えば各地域で忘れ去られようとしている食文化や食習慣を掘り起こし店舗の売り場で再現したり、地元の方も知らないような情報を小冊子にして無料配布したりするなどの活動を行っています。
坂本:具体的には、どういった事例がありますか?
野尻:例えば正月のお雑煮です。一見すると同じ地域の場合、同じ作り方や食べ方をしていると思いがちですが、細かい地域単位で見ると使う食材が異なったりするのです。こういう風習、食文化について地域の住職に聞きに行ったり歴史を紐解いたりした内容を売場で表現する。こういった活動がきっかけとなって、住民の方々が地元を見つめなおす機会になればよいと考えています。
同じくお正月関係なら「自宅などで燃やせないお飾りを店頭で回収してまとめて供養する」といった活動もしています。地域のかゆいところに手を差し伸べるような活動こそ、ESGの観点を体現するものではないでしょうか。
坂本:脱炭素に向けた取り組みはいかがでしょうか?
野尻:脱炭素はサプライチェーン全体で見る必要があり、その一翼を弊社が担っていますから密接なテーマの一つです。現状は、あまり大風呂敷を広げられませんが、店舗を一つの起点として省エネや創エネ、フードロスの削減、再エネの利用に注目してさまざまな問題に取り組んでいます。
例えば省エネなら店舗の照明や冷蔵ケースのLED化、自然冷媒を内蔵した冷凍・冷蔵ケースの導入などを順次進めている最中です。
坂本:創エネは、店舗の屋根を使った太陽光発電システムの設置でしょうか?
野尻:おっしゃる通りです。太陽光発電の取り組みは、年月をかけて進めてきたことであり、2021年2月期末の電気使用量は2019年比で6%減る見込みです。フードロスの削減は、発注精度の向上であったり生鮮やデリカを売り切ったりすることに注力。人口動態や社会環境も大きく変わっているので、小分け・少量販売の強化や食材を使い切るレシピの提案、行政と連動した店頭での啓蒙活動も行っています。
坂本:再エネの活用状況やCO2の削減に対して数値的な目標は据えていますか?
野尻:弊社では、2040年までに総量ゼロを目指しています。
坂本:それは、サプライチェーンも含めてすべてゼロにする目標ということでしょうか?
野尻:そこを目指していますが、弊社だけで実現ができるものではありません。イオングループ全体、さらにはお取引様や物流会社と足並みをそろえる必要があり、一つのターゲットに置いています。
坂本:環境以外の取り組みについてもお教えください。
野尻:ESGの「G」、ガバナンスについて紹介いたします。これは、端的にいえば経営の規律を高めていくことです。言い方を変えると弊社が成長しないと地域に対する貢献度も高まりませんから、貢献できる企業になるための経営基盤の強化だと考えています。
「人材基盤」「営業基盤」「顧客基盤」「財務基盤」「リスクマネジメント」を一つの枠で考え、それぞれのつながりを意識し、双発的な価値を生み出すことをイメージしているところです。そのための法的なチェックや学ぶ場を設けるなどにも取り組んでいます。これにより間接的に社会への貢献度や顧客満足度が高まることでしょう。
坂本:ダイバーシティには、どのように取り組んでいますか?
野尻:ダイバーシティ推進室を中心にさまざまな施策を始めています。例えば女性をキーワードにした場合、女性の活躍なくして弊社の成長はありえません。そこで正社員やパートを問わず参加できる勉強会を開催し、卒業生は活躍の広げています。制度面の充実も重要で男性の育休や各種制度の見直しも順次進めているところです。
坂本:ありがとうございます。一方でESG・脱炭素に関して課題に感じていることはありますか?
野尻:ESGや脱炭素は、地球規模の大きなテーマですが、それを「弊社ごと・自分ごとに落とし込まれているのか」という点は課題です。既存の取り組みが社内外に伝わっていて共感や反応は得られているのか再点検したうえで、中長期を視野にマテリアリティと照らし合わせ、必要に応じてすべきことをブラッシュアップすることが重要だと思います。
マックスバリュ東海株式会社が考える脱炭素経営の社会・未来像
坂本:来るべき未来において、マックスバリュ東海様が思い浮かべる脱炭素社会のイメージをお聞かせください。
野尻:大前提としてESGや脱炭素は別々の課題ではなく「本質的には密接なもの」と捉えています。こうした認識のもと大切なのは「点の取り組みではなく体系的であること」「業種業態の枠組みを超えた企業活動と行政、施策とつながり進めていくこと」の2点です。
さまざまな企業が独立するのではなく一体となり、そのつながりから生まれる相乗効果を意識しながら社会を創造し、行政がそれを支える……こうした共助や利他を軸とする社会へ変容すると思っています。
弊社が担うべき役割は、食と人をつなぐことです。「商品を販売する」という現状の解釈を広げないと生き残りそのものが危ういと考えています。例えば「地域の瓦版的なイベント情報発信」「健康相談コンシェルジュのようなサービス」「地域や行政の方々に必要に応じて店舗を使っていただく交流拠点」といった機能を備えた場所になっていくことが必要です。
「商業輸送の最小化に貢献する」という点では、店舗を地域の物流拠点機能として使っていただくこともあるでしょう。有事の際には、命を守る拠点の役割も担えるようになりたいです。弊社と弊社の従業員、地域社会が時を重ねるなかで必要とされる存在になると考えています。
現在は、こうした姿を目指すための土壌づくりをしている段階です。そのため今後は、社会課題と経営課題の両方を見ながら変えていくことが大切だと認識しています。例えば国内では、人口減少や高齢化が避けられません。これを念頭に置いたうえで生産性向上や働き方の変化、付加価値の積み重ねを進めています。
坂本:マックスバリュ東海様は、これら一連の取り組みについて積極的に情報を公開しています。今後、ESG・脱炭素社会を実現するために各企業はどういったことを心がけるべきでしょうか?
野尻:先ほど述べた協働・共助は、各企業が意識すべき点です。つまり、自社だけで独りよがりにならないということです。先を見通すのが難しい時代のなかで、個々の企業が発揮できる多様な知恵が双発し合う枠組みが地域に生まれてくることで豊かな社会になっていきます。
ただプロモーションは非常に難しいため、弊社も課題に感じているところです。テクニック論はありますが、志が同じもの同士が足並みをそろえて行えば、バリューと共感度は高まると思います。
マックスバリュ東海株式会社のエネルギーの見える化への取り組み
坂本:省エネや脱炭素を進めるには、エネルギーの見える化が必須といわれています。私たちは、そういった事業に取り組んでいますがマックスバリュ東海様はどのように取り組んでいますか?
野尻:現在は、何らかの仕組みを入れておらず試行錯誤を繰り返している段階です。例えば2022年8月にとある店舗で冷凍ケースや照明、空調、コンセント周りの領域に分けて電力使用量の割合を可視化する実験を行いました。これによりどの領域にメスを入れると脱炭素の観点で効果が出るのかわかります。検知器を機器やコンセントにあてて一つひとつ測っていきました。
坂本:結果はどうでしたか?
野尻:店舗で使う電力の7割が冷蔵ケースによるものでした。ある意味想定の範囲内でしたが、現在は測定結果をもとに何ができるのかを検討しています。
坂本:これをベースとして各店舗に仮想的に割り当てるやり方もできると思いますので、とてもすばらしい取り組みだと思いました。もう1点、Scope2についてですが、いまは手作業で情報を集計していますか?
野尻:電力会社からの情報を手作業で取りまとめています。
坂本:私たちは、電力会社から自動的にデータを取得・集計を自動化するサービスを提供しています。よろしければご協力させてください。
野尻:ちなみに国内企業の脱炭素への取り組みは、どのくらい進んでいますか。
坂本:上場企業を中心にScope1、2のところは、ほぼほぼの企業が電力会社からデータをもらい係数をかけてCO2排出量を計算しています。超大手は、自社でシステムを自前もしくは他企業と協力して開発し自動化も始めているようです。一方、Scope3について日本のなかで答えを持っている人はいないと思います。政府は正しい集計方法を公表しておらず、各企業が独自で進めている状態です。いずれは国からも集計方法の指針が出てきてそれに合わせる形になるでしょう。
私たちもScope1、2の自動集計はできています。Scope3については、お客様とどの方向性で集計するか会社としての方針を定めていただく流れです。東京大学の専門の先生とお話をしていても同じような見解で、まずは自分たちが決めて管轄する環境省に認めてもらう流れが濃厚とされています。
あと動きでいうとZ世代やそれ以降の若い世代は、脱炭素に対する認識が高い傾向です。そういった世代に向けて店舗の再エネ使用量やCO2削減量を表示するといった取り組みは始まっています。海外では、やっていないと不買運動に発展するケースもあるようです。
野尻:ありがとうございます。欧米やアジアでは、不買につながると聞いたことがあります。それに比べると日本はまだ「自分ごと」として捉え切れていないと思いました。
坂本:最後に近年はESG投資が注目されていますが、この観点でマックスバリュ東海様を応援する魅力をお聞かせください。
野尻:ESGと脱炭素の概念を経営の軸に据えないといけないと思います。その結果として、先ほど申し上げたような店舗の役割の変化や地域事業の創出、これらと一体的に進める脱炭素とフードロスが進展するはずです。また、これらの取り組みが化学反応を起こすことで「地域が抱える課題にどう作用していくのか」「貢献度が高まるのか」「弊社が成長・存続できるのか」が問われると思っています。今後も弊社が本当に活躍しているのかどうかを注目いただけますと幸いです。