ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するうえで、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問。本特集では、ESGにより未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを、専門家である坂本氏の視点を交えて紹介していく。
上新電機は、関西を地盤とする大手家電量販店で「ジョーシン」として地元をはじめ多くの消費者に親しまれている。同社は、ESGが叫ばれる以前から社会課題や環境課題の解決に取り組んできており、現在は「高齢社会のレジリエンス強化支援」と「家庭のカーボンニュートラルの実現」という2つの社会価値創造をめざして、新たな活動も展開している。
今回は、ESGや地方創生の視点から同社の具体的な取り組みや今後の展開についてうかがった。
(取材・執筆・構成=丸山夏名美)
1985年3月、上新電機株式会社に入社。2005年6月、取締役関西営業部長に就任。2016年6月、取締役兼常務執行役員開発本部長兼開発部長を経て、2021年4月取締役兼常務執行役員インフラ戦略担当兼開発部長兼建設部長、2022年4月取締役兼常務執行役員インフラ戦略担当(現職)。 2021年4月よりインフラ戦略担当として脱炭素社会実現に向け、温室効果ガス削減等環境問題についても積極的に推進している。
上新電機株式会社
関西を基盤とする大手家電量販店。1948年5月、大阪市浪速区日本橋で家電製品のパーツ販売店として「上新電気商会」を創業。1950年2月には、法人組織に改組し上新電機産業株式会社を設立した。1954年12月に創業時のパーツ販売店から家電専門店へ転換を図り、1958年4月には現在の社名となる「上新電機株式会社」に商号変更し現在に至る。2022年3月末時点での全国店舗数は223。
1974年段階で「無利息クレジット」「テレビショッピング」など業界初となるサービスを提供開始するなど、創業当初から「まごころサービス」をモットーに顧客目線を重視したサービスに取り組んでいる。2021年には、取締役会でサステナビリティ基本方針を策定するなどSDGsやESGへの取り組みへも積極的。
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「バード」運営など多岐にわたる。
目次
上新電機株式会社のESGの取り組み
アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):SDGsやESGに積極的に取り組んでおられますが、具体的な取り組みや社内での意義について、簡単にお聞かせください。
上新電機 横山氏(以下、社名、敬称略):この社会において長期的な企業価値の向上、持続的な成長のためには、業績拡大等の財務的な取り組みだけでなくSDGsやESGといった非財務面の活動も必要不可欠です。その考えから2003年より社長直轄でCSR部門を設置してESG側面の課題に積極的に取り組んできました。
例えば2005年4月には、大手企業のなかでかなり早い段階で事業者の個人情報の取り扱いが適切であるかを評価する「プライバシーマーク認定」を取得。また2000年3月、本社ビルを対象に環境保全の国際規格とされる「環境マネジメントシステム(ISO14001)」を導入し、営業に係る環境負荷軽減の取り組みを強化しています。2012年からは、事業所における太陽光発電システムの導入促進にも取り組んでいるところです。
これらの活動をより強力に推進するため、2021年度には7つのマテリアリティ(自社に関わる「重要課題」)と14の取り組み課題を特定しました。さらに「高齢社会のレジリエンス強化支援」と「家庭のカーボンニュートラルの実現」という2つの社会価値創造をめざすという目標を掲げました。。
▽上新電機が設定した7つのマテリアリティ
▽上新電機株式会社「統合報告書2021」より
以前は、これらの活動と営業活動の進捗を管理する体制も別々でしたが現在は、従前の経営会議とCSR委員会を統合し、社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ委員会」に一本化し、持続的な成長、企業価値の向上に取り組んでいます。
坂本:カーボンニュートラルの取り組みについて具体的な事例はありますでしょうか?
横山:弊社は、主に家電販売という事業形態の関係上、排出するGHG排出量(温室効果ガス排出量)の大半が電力の使用に関するものです。そのため各事業所のカーボンニュートラルの早期実現に向けて電力の再エネ化を進めています。2022年3月時点で自社と直接契約している事業所の約8割が再エネ化を完了しました。2023年度までに100%の事業所で完了を予定しています。
自社で契約している事業所だけでなくテナントを含む全事業所における再エネ化の比率は現在約5割が再エネ化。こちらは2040年を目安に100%達成を進めています。その他のテナントとも協力をし合って、カーボンニュートラルに取り組んでいく方針です。またエネルギーの自家発電・自家消費による自給率の向上にも取り組んでいます。
太陽光発電システムを設置可能なすべての事業所に導入を進めており、これらの取り組みの結果、GHG排出量の削減は、国が目標とする2013年度比46%削減をすでに達成しております。
上新電機株式会社の「地域社会」「地方創生」への取り組みと意義
坂本:御社は7つのマテリアリティの中に「地域社会との共生の推進」を掲げていらっしゃいます。「地域社会」「地方創生」に関して、御社の具体的な取組みをお聞かせください。
横山:地域という観点では、2019年2月に大阪府と「環境」「健康」「地域活性化」など7項目で協力するための包括連携協定を家電量販店として初めて締結しました。この協定は、地方創生を通じて個性豊かで魅力ある地域社会の実現に向けた活動の強化を目的としています。
大阪府とは、熱中症対策やインフルエンザ予防など市民の健康面での啓発活動、詐欺被害防止のためのイベント開催、災害時の行動に関する啓発活動など幅広く共同企画を行っているのが現状です。2022年5月には、大阪府の要請を受け府域のGHG排出量実質ゼロの実現向けて行う「脱炭素ポイント制度推進プラットフォーム」にも参画し、2022年11月1日より大阪府脱炭素ポイント付与の検証事業をスタートしています。
上新電機のポイントシステムを活用しながら2050年に大阪府域のGHG排出量実質ゼロの実現に貢献する仕組みの構築に取り組んでまいります。
消費エネルギーの「見える化」の意義と取り組み
坂本:カーボンニュートラルに向けた取り組みのなかで「エネルギーをどのようにどれだけ使用しているか」を把握するエネルギーの「見える化」が重要になってくると思います。この「見える化」について御社の取り組みをお聞かせください。
横山:エネルギーの「見える化」は、弊社としても非常に重要視している課題です。Scope1、Scope2については、エネルギー使用量の全体像を算出し第三者保証を取得しました。またScope3の削減をどのように進めるかという課題に加え、現在このデータ集計と算出をすべて手作業で行っている点も課題です。カーボンニュートラル実現には「見える化」がなければ改善点が把握できません。
そのため早急にシステムの導入やScope3の保証取得に向けた取り組みを進めていきたいと考えています。
上新電機株式会社のESGにおける今後の展開
坂本:現時点でも、SDGs、ESGに対して多く取り込みを実行されておられますが、今後の取り組みや展開についてもお聞かせください。
横山:上新電機は、2050年にどのような会社でありたいかを見据えて、前に申し上げたように「高齢社会のレジリエンス強化支援」と「家庭のカーボンニュートラルの実現」という2つの社会価値創造をめざして、「家電とICTの力で生活インフラのHubになる」を経営ビジョンと定めました。今の弊社の将来に大きく影響を与えるものとしては「少子高齢化社会」と「気候変動」の2つが挙げられます。
この2つは、単純に考えれば多くの企業にとってリスクですが、対処方法によってはチャンスにも転嫁できるはずです。例えば蓄エネ・省エネを普及させるため、省エネ性能の高い製品の提供や啓蒙活動、家庭内のEV充電システムの普及活動などは、課題解決に寄与できる可能性があります。
また家庭内インフラを支える総合サービス企業であり続けるためにはリアル店舗事業やEC店舗事業に加え、サポートビジネス事業を成長させたいと考えています。配送や工事、修理などのサービスインフラと連携したホームメンテナンス事業等に力を入れて便利なサービスを提供することは、特に日本の高齢社会において求められる事業だと思います。
上新電機株式会社の可能性と応援するうえでの魅力
坂本:SDGs、ESGに関して、投資家の興味関心が高まっています。そのような背景の中で、SDGsやESGに積極的に取り組んでおられる御社に投資することの魅力はどのような部分があると思われますか。
横山:近年、投資家の皆様がESGに力を入れる企業に注目している理由は、大きく2点あると思います。1点目は、投資が社会貢献につながること。せっかく投資をするなら、ただ将来成長する企業よりも環境問題や社会問題に取り組んでいる企業を選び間接的に社会に貢献するほうが自身も価値を感じられるはずです。
2点目は、実際にESGの観点を持っている企業の方が長期的な視点で成長が見込めることです。ESG自体が、長期的な視点を持てなければ計画や実行ができません。また環境や社会に対して本気で取り組む企業ほどガバナンスへの意識が高く従業員エンゲージメントに対する意識が高い傾向にあるため、結果として従業員も高いパフォーマンスを発揮できると考えます。
投資家がESGに力を入れる企業への投資を増やしている理由は、主にこの2点だと思っています。弊社は、長期的な視点でESGの目標を立て着実に実行し企業価値の向上に取り組んでいます。ぜひ私たちの取り組みを知っていただき関心を持っていただければ幸いです。