この記事は2022年11月9日に「第一生命経済研究所」で公開された「総合経済対策の徹底解剖」を一部編集し、転載したものです。
第2次補正予算が閣議決定
政府は2022年11月8日に2022年度第2次補正予算を閣議決定した。先般決定した物価高対策を中心とする総合経済対策の裏付け予算になる。追加歳出規模は29.3兆円(経済対策関連29.1兆円+その他0.2兆円)と2021年度の補正予算に匹敵する大規模な予算となっている。
財源は国債発行が中心であるが、国債費を中心とした既定経費の減額(歳出▲1.1兆円)、2022年度税収見込みの上振れ(歳入+3.1兆円)、前年度純剰余金(歳入+2.3兆円)なども充てられた結果、追加歳出の規模対比で国債発行額は22.9兆円と歳出規模対比で一定程度抑えられている。
GDP押し上げ効果は1.2%pt程度と試算
経済対策の大まかな枠組みはすでに公表されていたが、今回の予算案決定とともに各省庁から事業内容の詳細や予算規模が示されている。それを踏まえて、改めてGDP押し上げ効果を検討する。
GDP押し上げ効果を考えるため、資料2で施策の整理を行っている。まず、今回の経済対策の柱である電気・ガス価格の上昇抑制。ガソリン価格の上昇抑制と合わせて規模は6.1兆円に上る。これらの財政支援の一部は家計・企業負担の軽減を通じて、個人消費や設備投資の増加につながるだろう。
次に、より直接的にGDP公的固定資本形成を押し上げるものとして、国土交通省・農林水産省の公共事業関係費や文部科学省の学校施設費などがある。完全に対応するわけではないが、予算の内容を踏まえると建設国債の発行額である2.7兆円がおおむねこれに相当すると考えられる。
短期のGDP押し上げ効果が小さいとみられるものとして、基金がある。基金は中長期の支出を前提にしており、GDPへの即効性は低いと考えられるためである。今回は菅政権時に創設したグリーンイノベーション基金の増額のほか、文部科学省が大学整備等の基金積み増しなどに予算を計上している。
厚生労働省のコロナ対策は3.6兆円と大きな額が計上されているが、医療機関への支援金やワクチン購入費用などが中心。輸入品であるワクチンの購入はGDPの押し上げには貢献しない(政府消費は増えるが輸入増で相殺)など、需要喚起効果は限定的とみられる。
また、地方創生臨時交付金や雇用保険特別会計への繰入といった政府間移転も含まれる。前者は使途が地方自治体に委ねられるため効果の計測が困難、後者は実体経済への影響はない。
また、今回既存のコロナ・原油高物価高騰予備費の積み増し、ウクライナ対応予備費の新設で予備費が新たに4.7兆円追加されている。使用することが決定していないため、経済対策効果としては算入すべきではないだろう。その他、中小企業支援や賃上げ・投資・研究開発支援などを軸に内容は多岐にわたっている。
これらの支出ごとの特徴や限界消費/投資性向を踏まえ、予算額に対してどれほどが需要喚起に貢献するか、割合について想定を置くことで短期的な押し上げ効果を試算した(資料2)。筆者が試算したところ、結果は+6.3兆円、GDP比に換算すると1.2%pt程度となる。予算額自体は大規模だが、需要喚起につながる部分はその一部に限られるとみておくべきだろう。
税収はさらに上振れか、70兆円到達も視野
今回の補正予算では2022年度の税収が3.1兆円上方修正され、上振れ分が補正予算の財源として活用されている。上方修正後の税収額は68.4兆円となり、2021年度決算額である67.0兆円を上回る額が見込まれている。
しかし、今回の税収上方修正は、2022年7月に公表された2021年度税収が大きく上振れしたことに合わせて、2022年度の水準を調整した、という側面が大きい。
財務省が月ごとに公表している税収額に季節調整を施したものが資料4だ。年換算値でみると直近の水準はすでに70兆円を超えている。円安などによる企業業績の改善、コロナ禍一服による消費の回復などが寄与しているものとみられる。実際の2022年度税収はここからさらに上振れする可能性が高いと考えられる。