ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資先や取引先を選択するうえで投資家や大手企業にとって企業の持続的成長を判断する材料の一つになってきている。本企画では、各企業のESG部門担当者に対してエネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問する形式でインタビューを実施。

ESGにより未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを専門家である坂本氏の視点を交えて紹介していく。株式会社紀文食品は、特におでんの季節に多くの日本人がお世話になっている水産練り製品の老舗企業だ。堅強な技術や歴史、ネットワークがあるなかでも原料である魚が途絶えてしまっては製品の提供が難しい。

世界中で叫ばれる「地球の持続可能性」が直結する食品業界において地位を確立している同社は、どのような取り組みを行っているのだろうか。本稿では、株式会社紀文食品の代表取締役社長である堤裕氏に具体的な取り組みや今後の展開についてうかがった。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

紀文食品 堤 裕氏
(写真=株式会社紀文食品)
堤 裕(つつみ ひろし)
――株式会社紀文食品 代表取締役社長・COO
1956年7月12日生まれ。静岡県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、1980年4月に株式会社紀文食品へ入社。総務本部副本部長兼総務部長(2006年9月)、取締役総務本部長(2007年6月)、常務取締役マーケティング室長(2010年6月)、取締役兼常務執行役員秘書室長兼人事総務室長(2011年6月)などを経て2017年12月代表取締役社長に就任。

株式会社紀文食品
国内外の水産練り物や総菜などの製造販売を手がける企業。1938年6月に保芦邦人(現会長の父)が東京八丁堀で「山形屋米店」として個人創業。築地場外で果物店や海産物卸を営む。1947年より魚肉加工品の製造に着手し、1948年5月に東京都中央区で水産物類の製造・加工・販売を営む株式会社紀文商店を設立する。

1957年、釜文蒲鉾株式会社と新設合併し商号を株式会社紀文に変更。1960~1980年代にかけては、大阪や名古屋などに出張所、横浜、静岡、札幌、船橋などに工場を建設して全国展開の体制を構築した。1992年に現商号となる株式会社紀文食品に商号変更。タイに海外向けの生産工場を建設するなど世界への進出を図っている。2021年4月には東証1部(現プライム市場)に上場して現在に至る。

近年は、SDGsやESGへの取り組みにも積極的で2021年9月にはサステナビリティ委員会を設置し5つのマテリアリティを設定しESG経営を推進中。
宮本 徹(みやもと とおる)
―― 株式会社アクシス専務取締役
1978年3月7日生まれ。東京都出身。建設、通信業界を経て2002年に株式会社アクシスエンジニアリングへ入社、現在は代表取締役。2015年には株式会社アクシスの取締役、2018年に専務取締役就任。両社において、事業構築に向けた技術基盤を一環して担当。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「バード」運営など多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社紀文食品のSDGs、ESGの取り組み
  2. 株式会社紀文食品の「地方創生」への取り組みと意義
  3. 消費エネルギーの「見える化」の意義と取り組み
  4. 株式会社紀文食品のESGにおける今後の展開
  5. 株式会社紀文食品の可能性と、応援するうえでの魅力

株式会社紀文食品のSDGs、ESGの取り組み

アクシス 宮本氏(以下、社名、敬称略):SDGsやESGに積極的に取り組まれていると思います。それらに対する御社の具体的な取り組みと、会社のなかでの意義について簡単にお聞かせください。

紀文食品 堤氏(以下、社名、敬称略):紀文グループは「革新と挑戦と夢」という経営理念のもと、「食を通じておいしさと楽しさを提供し、お客さまの明るく健康な生活に貢献する会社」を目指しながら事業展開をしております。さらに社是である「感謝即実行」については、創業以来ずっと大切にしています。

これら「革新と挑戦と夢」「感謝即実行」の理念を体現するには、SDGsやESGの取り組みが欠かせません。なぜなら弊社製品の主原料が環境問題や地球の持続可能性に直接関わっているからです。弊社は、主に魚のすり身を使用した練り製品をお客さまへ提供しているため、「魚」という原料が枯渇してしまうとお客さまに安全安心な商品が提供できません。

現在、弊社の理念と表裏一体となるSDGsやESGは、中期経営計画でも核となる存在です。

▽株式会社紀文食品のサステナビリティ基本方針

株式会社紀文食品
(画像:株式会社紀文食品)

宮本:それらの取り組みについて、より具体的な事例があればお聞かせください。

:商品の視点からいくつか具体的なお話をさせていただきます。まずは、パッケージにオリジナルの「エコマーク」を付けていることです。エコマークを付けることでお客さまが環境に負荷が少ない商品かどうか分かりやすくしており、製品そのものだけでなくパッケージにも環境や社会への配慮した工夫がされています。

▽紀文オリジナル「eco マーク」

また「インクに関してはバイオマスインキや水性インクを使う」「ラップをぐるぐる巻きにせず最低限で済む形状にする」「フードロスが削減できるように賞味期限を長くする」など、リニューアルするたびに商品やパッケージを進化させています。賞味期限については、すでに一部の商品では旧来の約1.5~2倍の期間延長を実現し、おいしさが保たれるようになりました。

事業面では、まず各工場で地球温暖化対策に向けて製造時に使う設備や使用エネルギー量に留意した対策を進めています。例えば静岡工場では、燃焼時にCO2の発生量が少ない天然ガスを活用し、自然冷媒を採用した冷凍機を導入しました。また東京工場では、発電燃料に天然ガスを使いエネルギーを効率的に利用し、工場全体でエネルギー原単位の削減に取り組んでいます。

一方で原材料についての取り組みも欠かせません。弊社の製品のうち竹輪やかまぼこなどに使用するスケトウダラですが、一気に漁獲量を増やしてしまうと生態系が崩れて突然いなくなったり価格が急騰したりする事態に陥ります。資源管理を徹底している産地から原材料を購入することで、単に「製品をどんどん作って売る」という考えではなく、資源を大切にしながら持続可能な社会の実現に貢献することも私たちの使命です。

株式会社紀文食品の「地方創生」への取り組みと意義

宮本:SDGsやESGと切っても切り離せないことの一つは、地域との関わり合いです。「地方創生」「地域とのつながり」の視点から御社の具体的な取り組みや構想についてお聞かせください。

:弊社グループは、全国に7つの工場があり、各工場では地元の方を採用することが基本となっています。これは、地域ごとの雇用に貢献したり地域とのつながりを持ったりすることができるからです。工場での取り組みは多岐にわたりますが、例えば岡山県総社市の工場では、市長主催のマラソン大会に社員を募って参加するなどとてもローカルなものもあります。

工場主催のイベントを企画開催したり、行政のイベントに積極的に参加したりするなどで自然と地元とつながりなじむように促しています。

消費エネルギーの「見える化」の意義と取り組み

宮本:脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組まれていますか。

:エネルギーの「見える化」は、今まさに強化している最中です。エネルギーについては、事業計画の数値のなかでも重点管理項目の一つで数値的な目標設定もしています。それらの目標を達成するため、各生産現場が中心となり取り組むべき施策を検討し、エネルギーの「見える化」を推進中です。

例えば東京工場のように発電燃料に天然ガスを使って電気と熱の2つのエネルギーを同時に生産し供給するしくみであるガスコージェネレーションシステムを導入しています。電力の一部を外部から購入するケースもありますが、その場合もエネルギーの提供側からきちんとデータをいただき内部データと合わせて管理する仕組みを確立したいです。

▽アクシス・宮本氏

アクシス宮本氏
(写真=株式会社アクシス)

株式会社紀文食品のESGにおける今後の展開

宮本:SDGsやESGの意識が高まりゆく社会のなかで将来的にどのようなサービスを提供・展開しているか、御社の未来像があればお聞かせください。

:弊社は、2022年時点で創業85年目です。15年後の創業100周年を見据えて長期構想やビジョンを見直しています。ただどんな形であれ「食品と関わる事業でお客さまに価値を提供する」という基本方針は変わりません。日本の食文化は、春夏秋冬で旬の食材があり料理が変わるのが特徴です。弊社の主力商品でもあるおでんの練り製品は、気温が16度を下回ると食される量が増えるといわれています。

地球の温暖化が食生活の習慣を崩す……つまり私たちの提供価値にも影響がするということです。SDGsやESGに取り組むだけでなく、お客さまの食生活が変容したときにどのような食や価値を提供できるかについて真剣に向き合っていかなくてはなりません。

株式会社紀文食品の可能性と、応援するうえでの魅力

宮本:昨今は、ESG投資が機関投資家・個人投資家から注目されています。その観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。

:全世界における魚肉練り製品の4分の1が日本、4分の3が海外といわれています。弊社は、今まで国内をメインに事業を展開してきました。しかしこれからは、グローバルに展開したいと考えています。国内は人口減少ですが、世界ではまだ人口の増加が顕著な国も少なくありません。また世界では、魚肉練り製品のマーケットのポテンシャルが広がっています。

例えばカリフォルニアロールなどに使われるカニカマをはじめとして、魚肉加工品のおいしさや活用方法が理解され始めたり、肉よりもヘルシーなイメージがあったりするなど理由はさまざまです。ヘルシーという切り口は、海外の消費者にも届きやすいメッセージと考えています。弊社の製品に「糖質0g麺」シリーズがありますが、こちらは米国のコストコでも「ヘルシーヌードル」として販売展開し、受け入れられている商品です。

▽「糖質0g麺」シリーズ

株式会社紀文食品

お話した「糖質0g麺」はこんにゃく粉とおからパウダーを、「とうふそうめん風シリーズ」などは大豆を原料としております。ヘルシーとされる日本の練り製品や植物性を原料とするラインナップは、世界的なニーズが高まるはずです。海外の工場も増やし、グローバルな商品提供や価値提供ができるよう果敢に挑んでいきますので、今後にご期待いただければ幸いです。