ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する取り組みは、企業の持続的成長を見極めたり取引先を選定したりするうえで大企業のみならず投資家にとっても重要視される項目の一つだ。本企画では、エネルギー・マネジメントに尽力する株式会社アクシス・坂本哲代表が日本を代表する各企業のESG部門担当者に質問を投げかける形式でインタビューを実施している。
今回は、株式会社ヤマダホールディングスの経営企画室兼サステナビリティ推進室執行役員室長を務める清村浩一氏から具体的な取り組みなどについて話をうかがった。同社は、家電をはじめ家具やインテリアから新築注文住宅・中古住宅再販、金融・保険事業に至るまで多様なビジネスを展開している企業だ。
古くからCSRにも注力し、近年もESGやSDGs達成に意欲的な姿勢を示している企業の取り組みを紐解いていく。
(取材・執筆・構成=大西洋平)
1982年、株式会社ベスト電器に入社。2012年12月に当時のヤマダ電機がベスト電器を子会社化したことに伴い、2018年4月にヤマダ電機へ出向。経営戦略室長として店舗別損益や事業セグメント損益の基盤をつくり、各事業単位での損益の可視化を進めるとともに、分社制度の基盤を作る。
2019年10月、ヤマダ電機に転籍し2020年4月に現職に就任した。持株会社体制に移行した2020年10月以降も株式会社ヤマダホールディングスにおける経営企画室のリーダーとしてIR(投資家対応)や広報、統計作成全般、経営戦略などを担当する一方、サステナビリティ推進室のリーダーとしてもヤマダホールディングスグループにおけるSDGs推進の旗振り役も務める。
株式会社ヤマダホールディングス
1973年に群馬県前橋市で電気店「ヤマダ電化サービス」を開業。1983年に株式会社ヤマダ電機を設立して全国展開を視野に店舗開発を行う。、2005年3月期には、国内家電量販店初のナショナルチェーン化を実現させ、同年に国内家電量販店として初の売上高1兆円、 2010年3月期に初の2兆円を達成。 2010年代前半からは “「家電オンリー」”から脱却し、住宅分野をはじめとする新領域へ参入した。
2019年にには株式会社大塚家具、2020年には株式会社にはヒノキヤグループを子会社化し、「暮らしまるごと」を提案する新たなビジネスモデルへの転換を加速中。 2020年10月1日からは持株会社体制に移行して現在に至る。
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。
目次
「暮らしまるごと」を扱う企業としてSDGs達成のため、3つの課題を重視
株式会社アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):ヤマダホールディングスさまといえば、やはり家電量販店最大手のヤマダデンキを最初に思い浮かべますが、改めて御社の概要とESGへの取り組みについて教えてください。
株式会社ヤマダホールディングス 清村氏(以下、社名、敬称略):ご紹介の通り家電製品の販売は、株式会社ヤマダホールディングスの基幹事業です。しかし弊社グループは「暮らしまるごと」をコンセプトにしており、家電と親和性の高い、家具・インテリア、住宅、リフォーム、生活雑貨やおもちゃ、自転車などを幅広く取り扱っています。
お客様をはじめとする幅広いステックホルダーの方々とお付き合いしていくなかでは、単に消費者のニーズに応えるだけではいけません。社員一丸となって日ごろから社会課題の解決にも積極的に貢献していくことが重要だと考えております。
その具体的な取り組みとして2019年12月に弊社グループは事業を通じたSDGs(持続可能な開発目標)達成のための重点課題として「①快適な住空間の提供と社会システムの確立」「②社員の成長と労働環境の改善」「③循環型社会の構築と地球環境の保全」の3つを公表しました。
2021年11月に公表した中期経営計画「YAMADA HD 2025中期経営計画」におきましても、これら3つの課題における目標設定を行っています。個々のテーマについて簡単に説明します。
①快適な住空間の提供と社会システムの確立
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の搭載率や新時代冷暖システム「Z空調(ゼックウチョウ)」の導入数、太陽光パネルの出荷量に関しましてKPI(重要業績評価指標)を定めています。なお「Z空調」とは、傘下の株式会社ヒノキヤグループが提供しているもので1年を通じて室内を快適な温度に保つシステムのことです。
②社員の成長と労働環境の改善
最近の言葉で表現すると「DE&I=ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)&インクルージョン(受容)」に該当するものです。社員満足度調査による指標や、労働災害件数、長時間労働抑制に向けた取り組み、有給休暇取得率、女性管理職比率、女性および男性社員の育児休業取得率をKPIとしています。
③循環型社会の構築と地球環境の保全
国際的な枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に関連する気候変動対応として、省エネ家電製品普及促進による電力使用量およびCO2排出量の削減、電力使用量全体に占める再生可能エネルギーの比率拡大、延べ床面積当たりのCO2排出量抑制をKPIに掲げています。
さらに廃棄物の減容とサーキュラーエコノミー(循環型経済)への取り組みとして家電4品目とパソコンのリユース促進をKPIに定めています。
製品ライフサイクルを自社グループ内で完結させる仕組みを構築
坂本:廃棄物の減容とサーキュラーエコノミーへの取り組みにおいては、製品ライフサイクルを自社グループ内で完結させるという仕組みを構築しているとお聞きしました。
清村:ええ。傘下の株式会社ヤマダ環境資源開発ホールディングスおよび参加の企業を通じて家電製品を中心とした3R(①リユース・リサイクル、②廃棄物の減容と適正処理、③再資源化素材の活用)に取り組んでいるところです。傘下企業の株式会社シー・アイ・シーでは、全国のヤマダデンキ店舗で買い取り・回収したテレビや冷蔵庫、洗濯機、エアコンを、全機能を実動作によって検証したうえで分解洗浄、修理を行い、「リユース」の言葉のとおり製品そのものの素材を生かし再製品化する「 リユース生産」を行っています。 2022年5月には、ヤマダ東日本リユースセンター群馬工場の増設工事が完成し、年間生産能力が約2.6倍に拡大しました。
さらに今後2年間で2ヵ所のリユース生産工場を増設して年間30万台を目標とする方針です。再製品化のできないものは解体し、マテリアルリサイクル(原材料として再利用)もしくはサーマルリサイクル(燃料として再利用)を行っています。
また解体された使用済み製品をプラスチックや金属、混合物などに細かく分別し、リサイクル(再資源化)する事業を展開しているのが傘下の東金属株式会社です。同社におきましてもリサイクル工場の拡張計画を進めています。
リサイクルできない廃棄物の最終処分に関しましても、その減量・減容を目指す取り組みとして2024年度までに廃棄物焼却発電施設「ヤマダ資源エネルギープラント」を建設する計画を打ち出しています。最新の排ガス処理システムを導入し、国内最大規模の産業廃棄物焼却発電施設となる予定です。川上から川下まで自社グループ内で完結する仕組みの構築を目指しております。
振り返ってみれば創業者の山田昇代表取締役会長兼CEOは、1995年にヤマダデンキの全国ネットワークを築く途上で 「家電も資源」との着想のもと買い換えで引き取った使用済み製品を分解して再資源化する取り組みを開始していました。当時は、まだ家電リサイクル法も制定されておらず、サステナビリティやSDGsの言葉がまだ存在しない時代でしたね。
しかしそれから20数年の歳月を経て事業規模の拡大とともに製品ライフサイクルを自社グループ内で完結させる仕組みが整った次第です。
従業員一人ひとりにSDGsの考え方を浸透させて行動変容を促す
坂本:先程、3つの重点課題の1つに挙げておられた「社員の成長と労働環境の改善」もSDGsの観点から取り組んでいるそうですが、具体的な取り組みについて教えてください。
清村:事業を通じた気候変動などへの対応は、どうしても限定的な内容となりがちです。そういった取り組みと同時に弊社グループの従業員一人ひとりにSDGsの考え方を浸透させて各自の行動変容を促すことが地道ながらも重要であると考えています。教育を実施し、何らかの資格を取得させたからといって、ただちに行動変容がもたらされるという単純な話ではないでしょう。
サステナビリティ推進室から積極的に情報を発信し、すべての従業員がそれを共有して共感することが大事で、その発信の繰り返しが行動変容に結びついていくと思っています。弊社グループの人材育成の考え方の補足としては、まず働き方改革という大きな土台の上に健康経営があることが前提です。
そのうえでグローバル人材の 活躍や障がい者の活躍、両立支援、女性活躍、シニア人材の活躍、LGBTQ+の理解促進などの課題に取り組んでおります。具体的な育成では、3つのテーマに沿って個々の従業員の能力開発を進めています。
その3つとは「テクニカルスキル(業務遂行能力)」「ヒューマンスキル(人間力)」「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」です。コンセプチュアルスキルとは、私どもが独自に定義づけたもので論理的な思考や多面的な視野、柔軟な判断などをもとに物事の本質を見抜く能力のことを意味しています。
目指しているのは「人・組織を育てチームで成果を上げる人材」「経験や情報をもとに学習・判断して論理的に考える人材」「合理化・効率化を図る人材」の育成です。あわせてキャリアパス制度やパート従業員向けのキャリアアップ制度、エリア社員制度、個々の得手不得手を踏まえた総合職や専門職といった働き方の制度化など基盤をしっかりと整えることも重要だと認識しています。
包括連携協定や協賛などを通じて地域社会にも貢献
坂本:弊社は、日本で最も人口が少ない都道府県である鳥取県に本社を構えています。日本の人口は、言うまでもなく少子高齢化に伴い減少の一途をたどっている状態です。こうした社会構造の変化に対し、小売店を全国に展開する御社としては、どのような戦略を打ち出しているのでしょうか?
清村:おかげさまで弊社は、全国津々浦々に店舗を配置しており、より身近な場所でお客様をお手伝いできる立場にあると自負しています。やはり人口減少が弊社グループの事業活動を最も危うくする事象であることは認識しており、一人ひとりのお客さまにとって弊社の店舗が最も身近な存在となるように努めることが最善ではないかと考えています。
ウェブサイトを通じてお客さまが快適にご購入できる仕組みを持つとともに身近な場所にある店舗を通じて配達や設置、修理などといったサポートに励みたいと思っております。ところで実は、弊社グループも鳥取県とはご縁があります。鳥取県庁様は、SDGs達成に積極的な取り組みを行っており、省エネ家電の普及も推進しています。
そこで2021年の夏から弊社も協賛企業として参画させていただいているのです。他にも弊社グループは、地方自治体などと包括連携協定を結んでさまざまなことに取り組んでいます。弊社は、陸上部と剣道部を持っており、スポーツ教室や講演などの開催を通じてお子さまたちの健全な成長に寄与するような活動も行っている次第です。
また要請があればヤマダデンキの店舗の駐車場を献血車に提供しています。さらにいえば弊社グループの従業員が自発的に店舗近隣の清掃を行っていることも先述したSDGsに関する行動変容につながる話だと捉えています。本社からの指示で全店舗において強制的に実施するのではなく従業員が率先的に行動するといった具合です。
その事実を周辺の人たちが共有・共感することで行動変容の輪を広げていく取り組みもある種の地域貢献ではないかと思っています。