この記事は2022年12月15日に「The Finance」で公開された「DAOとは?分散型自律組織をわかりやすく解説【2022年12月最新版】」を一部編集し、転載したものです。
DAOは、Web3.0時代における新しい組織形態として、注目が集まっています。本稿では、DAOとは何か、注目される背景や、メリット・課題、また直近のDAOに関するニュースを取り上げます。
DAOとは
(1)DAO(分散型自律組織)の定義
DAOとは「Decentralized Autonomous Organization」の頭文字を取ったもので、日本語では「分散型自律組織」と訳されます。
DAOではスマートコントラクトと呼ばれる、プログラムによって書かれた独自のルール等を設定することで、さまざまな人が協力しながら管理、運営を行なう体制を整えています。
また「分散型」という名の通り、従来の組織体制とは異なり、中央管理者がおらず、組織メンバーの投票などによって組織の意識決定が進んでいくのが特徴です。そのためDAOはインターネット環境があれば、誰でも自由に参加ができます。
加えて、「ガバナンストークン」と呼ばれるDAOで使用する仮想通貨を所持していれば意思決定に関わることも可能です。
こうしたDAOで行われる意思決定や取引の内容は、全てブロックチェーン技術を用いたオープンソースで行われます。ブロックチェーンは不正や改ざんを行うことが難しいのが特徴的な技術のため、透明性の高い組織運営が行えることも魅力とされています。
トップがいない新しい組織体制であり、意思決定も投票による民主的なもののため、今後さらに増えていく組織形態として注目を集めています。
(2)Web3.0との関係
Web3.0とは「分散型のインターネット」という意味で利用されることが多く、2018年ごろから始まった新しいインターネットの概念のことです。
インターネット環境でも従来は「中央集権型のサービス」が主流でした。例えばGAFAに代表される大手企業のプラットフォームに、ユーザーは個人情報を提供し、管理者が定めたルールに則ってサービスを利用するなどです。
こうした中央集権型のプラットフォームから、ブロックチェーン技術を活用した分散型のネットワークを進めていくのが「Web3.0」です。Web3.0が進めば、プラットフォームに個人情報を渡さずに、ユーザー同士で管理ができることやセキュリティの向上などが期待できます。
こうした「一極集中」の考え方から「分散型」の考え方が、DAOの組織運営と非常によく似ています。またブロックチェーンの活用なども共通していることから、Web3.0時代の組織体制とされています。
(3)NFTとの関係
NFTとは「代替不可能なトークン」と呼ばれるデジタルデータのことです。従来のデジタルデータとは異なり、コピーや改ざんが容易に行えないため、唯一無二の価値を持っています。
NFTについては、以下の記事に詳細を解説していますので、ご参考ください。
* 参考:NFTとは?わかりやすく解説【2022年12月最新版】
NFTにもブロックチェーン技術が活用されており、DAOとの親和性が高いことでも知られています。中には実際に投資を行うためのNFTを購入して、所有権を組織で共有するために結成された「PleasrDAO」などのDAOも存在しています。
こうしたNFTとの関連付けとしてDAOが取り上げられることも多くあります。
DAOが注目される理由
DAOが注目されるようになった背景の一つに「Defi」の存在があります。
Defiとはブロックチェーンを活用した分散型金融システムで、銀行などの中央集権型のシステムを通さずに利用できるのが特徴です。このDefiで活用されている組織形態がDAOであることが多いため、金融業界の中でもDAOの認知が広がりました。
また日本では2022年6月に、分散型のデジタル社会の実現に向けて必要な環境整備を図ると「経済財政運営と改革の基本方針2022 について」に明記されました。
この必要な環境整備のために、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める。さらに、メタバースも含めたコンテンツの利用拡大に向け、2023年通常国会での関連法案提出を図る」と説明されており、国内においても今後法整備が進み、よりDAOの存在が身近になることが予想されています。
加えて前章で解説したWeb3.0やNFTなどが急激に盛り上がりを見せたため、関連性が高いDAOも同様に注目を集めた要因の一つと言えます。
特に分散型プラットフォームの1つであるSnapshotのレポートによれば、DAOの数は2021年6月には600だったが、2022年7月には7,000にまで急激に増やしているというレポートを発表しています。そのためNFT等の広がりと共にDAOの注目も広がっていったと言えます。
DAOの特徴
DAOの主な特徴としては、以下の3点が挙げられます。
- 中央管理者がおらず公平性が高い
- 透明性が高い
- 改ざん耐性が高い
それぞれの特徴について解説していきます。
(1)中央管理者がおらず公平性が高い
DAOの最も大きな特徴と言って過言ではないのが、中央管理者がいないという点です。繰り返しになりますが、DAOの組織体制は従来の組織体制とは異なり、トップがいない組織体制となっています。そのため組織の方針はプロジェクトに参加しているメンバー全員による意思決定によって進められるのが特徴です。
こうしたDAOの意思決定では「ガバナンストークン」と呼ばれる、投票権のようなものを所持していることで意思を表明できます。そのため一部の人間による意思決定によって進められることはなく、非常に民主的で公平性が高いと言えます。
(2)透明性が高い
DAOの運営は透明性が高いのも特徴です。なぜならDAOでは、スマートコントラクトと呼ばれるプログラムに沿って行われるからです。
スマートコントラクトとは、あらかじめ設定されたルールに従って取引などが行われるプログラムのことです。このプログラムは外部からの介入を受けず、自律的に業務を行なっていくことが特徴です。つまり意思決定の際に参加者による投票が行われた場合には、ルールに従って設定されたスマートコントラクトが実行されます。
このスマートコントラクトは、オープンソースとして公開されており、DAOに参加しているメンバーは全員が確認することが可能です。そのため参加しているメンバーや、参加を検討している人は、どのようなルールでDAOが運営されているのかを簡単に確認ができます。
またDAOで行われた取引や投票はブロックチェーン上に全て記録が残ります。ブロックチェーンは不正や改ざんが難しいため、透明性が確保されています。
(3)改ざん耐性が高い
繰り返しになりますがDAOはブロックチェーン技術を活用して運営されています。ブロックチェーンは、さまざまなコンピュータにデータを分散させて管理する「分散型ネットワーク」のことで、データの改ざんや破壊が困難なことが特徴です。
ブロックチェーン技術について、より詳細に知りたい方は、ぜひ以下の記事をご参考ください。
* 参考:ブロックチェーンとは?金融業に革命を起こす新技術 入門編
ブロックチェーン技術では、これまでの取引履歴がチェーンのようにつながっているため、1つの取引履歴を改ざんしようとしたら、改ざんする以降の取引を全て改ざんする必要があります。そのため実質的な改ざんは不可能であるとされています。
こうした改ざん耐性が高いブロックチェーン技術を活用しているのも、大きな特徴です。
DAOのメリット
DAOという組織形態を取ることによるメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
- 新たな資金調達方法となる
- 参加者はインセンティブやリターンを期待できる
それぞれのメリットについて解説していきます。
(1)新たな資金調達方法となる
DAOは全ての取引がスマートコントラクトを通して行われます。そのため資金調達もスマートコントラクトを通して行われるのが特徴です。
従来の資金調達方法との違いはスピードです。例えば従来の金融機関から資金を借り入れする場合には、審査に時間がかかるなどのデメリットがありました。しかしDAOでは、スマートコントラクトによって設定されたルールに則って条件を満たせば、すぐに資金が調達できます。
DAOの資金調達は前述した「ガバナンストークン」を発行し、プロジェクト内容に賛同してくれたユーザーや投資家が購入し、調達する仕組みです。つまりプロジェクトに参加し、投票権や提案などの権利をユーザーに与える代わりに、資金を調達します。
(2)参加者はインセンティブやリターンを期待できる
DAOの参加者が、DAOへの労働によってインセンティブやリターンを期待できるのも大きなメリットです。
DAOのインセンティブは、DAOの発展に貢献した際の報酬や利益の分配が挙げられます。中央集権的な組織と異なるのは、自分でDAOのために労働を選択できるという点です。従来ではトップダウンからの命令によって、労働を行うことが一般的でしたが、DAOのような分散型組織では、自らが組織に貢献をする行動を行います。
DAOでは行動に対してのインセンティブが明確に設定されているため、参加者の行動を促すことにもつながります。
また参加しているDAOの価値が高まれば高まるほど、所持しているガバナンストークンの価値も高まります。成功を収めているDAOのガバナンストークンの需要は高まるため、運用資産として利用すれば、大きなリターンも期待ができます。
DAOの主な事例
本章ではDAOの主な事例として、以下の5つを紹介します。
- BitDAO
- PleasrDAO
- MakerDAO
- BitCoin
- Ethereum
(1)BitDAO
BitDAOはシンガポールの仮想通貨取引所である「Bybit」が支援を行なっているDAOです。
BitDAOの目的は「将来性のあるDeFiやNFT分野へ資金提供を行うこと」とされており、参加者が経済活動を行える環境を構築するためのサポートや、有望なプロジェクトに対しての投資を行っています。
支援を行っているBybitはすでに、80億円以上の出資をしている他、著名人やベンチャーキャピタルから230億円以上の資金調達を行っており、注目を集めています。
名称 | BitDAO |
---|---|
設立日 | 2021年6月 |
主な支援 | 仮想通貨取引所 Bybit |
内容 | 将来性のあるDeFiやNFT分野へ資金提供を行う |
URL | https://www.bitdao.io/ |
(2)PleasrDAO
PleasrDAOは投機目的のNFTを収集する目的で設立されたDAOです。
特にNFTアートに対しての収集を行い、参加者間でコストや所有権を共有する形を採用しています。所有しているNFTの価値が高まれば高まるほど、リターンが増えていく仕組みです。前述したBitDAOもPleasrDAOへの出資を決定しており、650万ドル相当の仮想通貨を提供するとしています。
名称 | PleasrDAO |
---|---|
設立日 | 2021年3月 |
支援 | 著名な投資家、BitDAO |
内容 | 投機目的のNFTを収集する |
URL | https://pleasr.org/ |
(3)MakerDAO
MakerDAOは、法定通貨と連動した仮想通貨であるステーブルコインの一つ「DAI」の発行が可能なDAOです。DAIは法定通貨である「ドル」と価値が連動しており、安定した価値が見込めます。またMakerDAOでは、MKRというガバナンストークンを所有することで、意思決定の議決権を得ることが可能な仕組みとなっています。
なおステーブルコインについては、以下の記事に詳細を記載しているので参考にしてみてください。
* 参考:ステーブルコインとは?初心者向けに解説【2022年版】
名称 | MakerDAO |
---|---|
設立日 | 2014年 |
支援 | 多数の投資家 |
内容 | ドルのステーブルコインである「DAI」の発行 |
URL | https://makerdao.com/ja/ |
(4)BitCoin
仮想通貨の代名詞とも言えるBitCoinもDAOの1つと言えます。BitCoinの仕組みは、ブロックチェーン上で決められたルールに則って扱われている暗号資産です。ビットコインを発行する際はブロッククチェーン上に取引記録は全て記録されるようプログラムが組まれているため、最初に始まったDAOとも言われています。
ビットコインプロジェクトは大成功を収めており、時価総額が100兆円近い価値まで上昇しており、仮想通貨という言葉を一般化させました。
名称 | BitCoin |
---|---|
設立日 | 2009年1月3日 |
支援 | 開発者、BitCoinの保有者、投資家 |
内容 | 仮想通貨の発行 |
URL | https://bitcoin.org/ja/ |
(5)Ethereum
EthereumもDAOの1つです。Ethereumもブロックチェーン上で設定されたプログラムに沿って運営が行われます。
多くのDAOがこのEthereumのブロックチェーン技術を基に構築されたシステムとなっています。また多くのDAOがイーサリアムの仮想通貨を利用して、ガバナンストークンの購入などが行えます。
名称 | Ethereum |
---|---|
設立日 | 2013年 |
支援 | さまざまな投資家 |
内容 | スマートコントラクトを備えた分散型プラットフォーム |
URL | https://ethereum.org/ja/ |
DAOの課題
DAOの課題としては、以下の3点が挙げられます。
- 法整備が遅れている
- 意思決定が遅くなりがち
- ハッキングリスクがある
それぞれの課題について解説していきます。
(1)法整備が遅れている
2022年12月現在、日本ではDAOに関する法律は存在していません。現状のままでは、DAOを利用した際にトラブルがあったとしても法律の保護を受けられないばかりか、新たなDAOプロジェクトを立ち上げる際の障壁にもなり得ます。
世界を見渡すと2021年4月、アメリカのワイオミング州にてDAOを合法化した法律を制定しています。日本でも「経済財政運営と改革の基本方針2022 について」に明記されている通り、環境を整えるための法整備が求められています。
(2)意思決定が遅くなりがち
参加者の投票によって意思決定が進められるDAOは、従来のトップダウンの組織体制と比較して意思決定のスピードが遅くなりがちです。
例えばDAOのプロジェクトに何かしらのトラブルが発生した際の対応についても、投票によって決めていかなければなりません、意思決定のスピードが大きく遅れてしまえば、取り返しのつかない事態にもなりかねませんが、投票を行わなければDAOとは言えないというもどかしい点があります。
また民主的な投票結果が必ずしも良いもとは限りません。DAOは誰でも参加できることが、大きなメリットですが、悪意のあるユーザーが多く集まってしまうと民主主義がハックされる懸念もあるのも課題と言えます。
(3)ハッキングリスクがある
DAOはブッロクチェーン技術を活用しているため、改ざん耐性が高いのがメリットです。しかしハッキングリスクがゼロになるわけではありません。
実際に2016年には「The DAO事件」と呼ばれる、約360万ETHが盗まれるハッキング事件が発生しています。この事件はプログラムの脆弱性をつかれたことにより、多額の資金が流出してしまいました。
現行のDAOもインターネット上で展開しているため、セキュリティリスクが付きまとってしまうのは課題と言えます。
DAOに関する直近の注目ニュース[2022年12月更新]
(1)デジタル庁が、Web3.0推進へ向けDAO設立方針
デジタル庁は11月2日に行われた、Web3.0推進へ向け検討する「Web3.0研究会 (第5回)」において、DAOを設立する方針を明らかにしました。
人的、経済的な利益とリスクを注視しながら、環境整備や利用者の保護などが行える施策を取りまとめるとしています。基本設計としての法的位置づけは「構成員および事務局の自発的意思に基づき設立される任意団体」としており、法人格の付与などに伴う税制上の課題についても検討していきます。
他にもDAOを通じてのスタートアップ企業に対する資金調達環境の整備や、DAOを活用した地域活性化施策なども挙げられており、今後の動向が注目されます。
* 参考:Web3.0研究会 (第5回)
(2)ドコモがweb3.0に6,000億円投資(DAO型アプローチを取る)
NTTドコモは2022年11月8日に行われた「2022年度第2四半期決算会見」で、Web3.0の事業に対して6,000億円の投資を行うと発表しました。
具体的には「アクセンチュア」と「Astar Network」の2社と提携し、web3.0における共通基盤となる「Web3 Enabler」を法人向けに提供するとしています。この「Web3 Enabler」では、暗号資産の交換からトークンの発行、ブロックチェーンなどがパッケージ化されており、web3.0サービスの構築を支援する仕組みとなっています。
この取り組みに対しては、DAO型アプローチをかけることで、多種多様な業界や業種からの参加や連携を図りたいとしています。
さらに2023年には新会社を設立する方針で、新会社についても出資を募りたいとしています。
まとめ
DAOは従来の中央集権的な組織体制とは異なり、分散型で民主的な組織体制となっています。
公平性や透明性が高いため、今後はさらに他の分野への進出やサービスの展開も期待されており、Web3.0時代の新しい組織体制として多くの注目を集めています。
今後はDAOの法的位置づけや責任の在り方等、継続的に検討が進められることが予想されます。
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